コリン・ファース、スタンリー・トゥッチの映画を超えた友情『スーパーノヴァ』ハリー・マックイーン監督

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『英国王のスピーチ』、『キングスマン』シリーズなどで知られるコリン・ファースと『プラダを着た悪魔』などのスタンリー・トゥッチが共演する映画『スーパーノヴァ』が公開されます。ハリー・マックイーン監督に2人をキャスティングしたきっかけや物語の着想についてうかがいました。

<作品概要>

20年来のパートナーがゆっくりと記憶を失くしていく。ともに歩んだ人生の終着点で2人はどのような選択をするのか。

理想的なパートナーを演じるのは、アカデミー賞®受賞俳優のコリン・ファースと、同賞ノミネート経験を持つスタンリー・トゥッチ。

監督と脚本を務めたのは、ハリー・マックイーン。2014年に自ら主演を務めた『Hinterland(原題)』で監督デビューを果たし、『愛欲のプロヴァンス』(2017)などで俳優としても知られる。長編監督第2作目となる本作はオリジナル脚本として、監督本人が書き上げた。

製作は、『I Am Not a Witch(原題)』が世界各国の映画祭で上映されたエミリー・モーガンと『さざなみ』、『荒野にて』で知られるトリスタン・ゴライアーが務める。

撮影監督は、『ターナー 光に愛を求めて』などで2度アカデミー賞にノミネートされたディック・ポープ。

<あらすじ>

ピアニストのサム(コリン・ファース)と作家のタスカー(スタンリー・トゥッチ)は、ユーモアと文化をこよなく愛する20年来のパートナー。
ところが、タスカーが抱えた病が、かけがえのないふたりの思い出と、添い遂げるはずの未来を消し去ろうとしていた。
大切な愛のために、それぞれが決めた覚悟とは──。

認知症の人と暮らすというのはどういうことなのか

――本作の着想について、お聞かせください。

今から5~6年前、俳優だけでは食べていけず、僕は複数のバイトを掛け持ちしていました。その中の1つで知り合った女性が若年性認知症だったのです。最初は社交的で楽しくて素敵な人でしたが、1年くらいのうちに人が変わったように気難しくて怒りっぽくなり、仕事もできなくなって退職しました。ただ当時は理由を知らず、しばらくしてから偶然、車いすに座って夫に押してもらっている姿を見かけて、若年性認知症だと知りました。僕は若年性認知症が進行し、人格が崩壊していく過程を知らないうちに目の当たりにしていたのです。

同じころ、友人が父親を認知症施設に入所させました。彼の父親も若年性認知症で、まだ60歳を迎えていませんでした。

最初は映画にするとは考えていませんでした。その後、大学病院で仕事をするようになり、大勢の若年性認知症のご家族やカップルの方々と知り合い、もしかすると自分も若年性認知症になる可能性があると思ったのです。すると具体的な症状や周囲に及ぼす影響、さらには死に直面した時、どんな選択肢や権利があるかを知りたくなりました。いろいろ調べていくうちに、語られるべき重要な物語があるんじゃないかと感じ始め、映画へと繋がっていきました。

©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

――サムとタスカーにはモデルがいるのでしょうか。

モデルはいません。こういったセンシティブな題材のときはオリジナルのキャラクターで物語を綴ることが大事です。その上でキャラクターに信憑性を感じてもらわなくてはなりません。今回は認知症の人と暮らすというのがどういうことなのか、誠実に寄り添っていく表現がしたかったので、それに適したキャラクター造形を始めました。

2人がどのような人物で、どのようなバランスでお互いに補完しあっているのか。見極めるまでには2年を費やしました。また、どのカップルもそうですが、お互いにイラッとしたりもしますよね。彼らの場合はどんなときにそうなるのかも考えました。

時間が掛かりましたが、素晴らしい2人の役者さんの力を得て、けっこういいカップルになったんじゃないかと自負しています。

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――なぜ同性カップルにしたのでしょうか。

僕が映画を作るときに心がけているのは、進歩的で先進的であること。主人公たちは同性カップルですが、彼らの性的志向に言及すらしていません。同性愛をごく自然で普通なものにしたかったです。そういう映画がまだまだ足りていないと思います。

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――同性愛の映画という先入観を持たれる不安はありませんでしたか。

確かに同性愛カップルにしたことで、国によっては上映してもらえないこともあります。中国は映画市場として世界一ですが、上映できません。しかしロシアはモスクワのいちばん大きな劇場で満員になりました。

自分と違う見方をする人がいるかもしれないことを作り手がいちいち気に留める必要はないと思います。むしろ、作品を通していろんなことを学ぶきっかけにしてもらったり、インスピレーションを与えたりすることがアーティストとしての仕事だと思っています。

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主人公2人が醸し出す親密さと相性の良さが作品の核

――サムとタスカーはすでに友人同士の俳優を選ぶのが理想的だと考え、まずスタンリー・トゥッチにオファーしたそうですね。

プロデューサーとキャスティングについて相談しているときに、2人のうちの1人をアメリカ人にしたら物語がもっと動くのではないかという話になり、スタンリー・トゥッチが第一候補にあがりました。

スタンリーはもともと大好きな俳優の1人でした。コメディもドラマもこなし、主演であろうと助演であろうと自然な演技を見せてくれる。素晴らしい俳優です。しかも彼はアメリカ人ですが、ロンドンに住んでいる。興味を持ってもらえるのではないかと思って脚本を送ったところ、すぐに読んでくれて、やりたいと返事をくれました。そしてスタンリーが友人のコリン・ファースを相手役に連れてきてくれたのです。

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――相手役にコリン・ファースという提案を聞いたときどう思いましたか。

想定していなかったので、ジョークなのかと思ってしまいました。2人が友人同士であることを知らなかったのです。スタンリー・トゥッチとコリン・ファースが自分の作品に出てくれるなんてすごいことです。本当だとわかって、わくわくしましたね。

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――サムにコリン・ファース、タスカーにスタンリー・トゥッチという配役にしたのはどうしてでしょうか。

最初は逆の役でしたが、1週間くらい経ったときに2人から、「お互いに相手の役をやった方がいいのではないかと感じているので、試しにやらせてほしい」と言われました。そこで逆の役を通しでやってもらったところ、2人の演技はとても繊細で、バランスやテンポがよりナチュラルで美しかったのです。

サムは愛する人のために大きな犠牲を強いられていますが、それを喜んで引き受ける慈悲と共感にあふれている人です。コリンはこれまでどんな役でも慈悲心にあふれ、とても知的で時に激しさや未熟さも見せてきました。サムというキャラクターにコリンはぴったりだと思いました。

それにコリンはイングランド人を代表する俳優です。そのコリンの明確な“イングランド人らしさ”に対し、スタンリーはいかにも“アメリカ人”。この対比が自然に感じられました。

©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

互いに思いやりを持って誠実に向き合えば、どんな大きな困難も乗り越えることができる

――監督にとって印象に残るシーンを教えてください。

どのシーンも印象に残っていますが、強いて挙げるなら、サムがタスカーの本をベッドで読んでいるときにタスカーがやってきて始まる一連の会話シーンですね。ここはとても繊細で美しかったです。

またクライマックスは泣きながら脚本を書くほど思い入れのあるシーンでしたが、スタンリーとコリンが思いやりのある演技を見せてくれ、撮影のときは僕だけでなくスタッフのみんなも涙したくらい心を動かされました。

一方でコミカルなシーンも気に入っています。例えばドライブインでタスカーがウエイトレスの女性に「サムからサインをもらえ」といってサムをからかったりするシーン。ここはキャラクターらしさが出ている気がして好きですね。

©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

――親しい関係のスタンリーとコリンだからこそのアドリブが入ったりしませんでしたか。

ほとんど脚本通りでした。しかし、彼らはすべてが脚本通りであっても、まるでアドリブのように自然な演技ができる力があるのです。

アドリブってうまくハマったときはいいですが、うまくいかないときもある。僕は俳優としても監督としても割と脚本に沿っているけれど、ときどきセリフに自由があるというやり方が好きですね。

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――これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

主人公たちは胸をえぐられるほどつらい状況に直面しています。しかし、追い詰められたからこそ愛は想像する以上にロマンチックで美しく、希望にあふれ、すべてを超越することに気がつきました。互いに思いやりを持って誠実に向き合えば、人はどんな大きな困難も乗り越えることができるということを感じ取っていただければと思います。

(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

ハリー・マックイーン監督

©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

1984年1月17日、イギリス・レスター出身
ロイヤル・セントラル・スクール・オブ・スピーチ・アンド・ドラマで演技を学び、リチャード・リンクレイター監督の『僕と彼女とオーソン・ウェルズ』(08)で俳優デビュー。2017年には『愛欲のプロヴァンス』でマドリード国際映画祭最優秀助演男優賞を獲得。2013年からは製作も手掛け始め、監督・脚本・プロデューサーとしてのデビュー作『Hinterland(原題)』(15)でレインダンス映画祭イギリス映画賞、北京国際映画祭デビュー映画賞など数々の賞にノミネート、本作『スーパーノヴァ』は脚本・監督を務めた2作目となる。

『スーパーノヴァ』

©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.

出演:コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ
監督・脚本:ハリー・マックイーン
配給:ギャガ
原題:SUPERNOVA/2020年/イギリス/カラー/ビスタ/ 5.1chデジタル/95分/G/字幕翻訳:西村美須寿
©2020 British Broadcasting Corporation, The British Film Institute, Supernova Film Ltd.
2021年7月1日(木)TOHO シネマズ シャンテ他 全国順次ロードショー

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