ひとりの女の子が自分の人生を歩み出していく瞬間を描く『海辺の金魚』小川紗良監督インタビュー

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文筆家・俳優活動の傍らクリエイターとしても注目を集める小川紗良の長編デビュー作『海辺の金魚』が公開されます。ベテラン撮影監督の山崎裕とタッグを組み、小川の短編作『最期の星』の小川未祐が本作でも主人公を演じています。企画のきっかけや現場でのエピソードを小川紗良監督にうかがいました。

<作品概要>

NHK連続テレビ小説「まんぷく」に主人公夫婦の長女・立花幸役として出演するなど、役者として活躍する小川紗良が監督と脚本を務める。短編作品を手がけてきた小川にとって監督4作目となる本作は商業長編映画デビュー作品となる。

主演は『よこがお』(2019年/深田晃司)、『スペシャルアクターズ』(2019年/上田慎一郎)『脳天パラダイス』(2020年/山本政志)などにも出演した小川未祐。小川の『最期の星』でも主人公を演じている。

撮影監督は『ワンダフルライフ』、『誰も知らない』などの山崎裕。

主題歌「あ、そ、か」を元チャットモンチーの橋本絵莉子(37)が手がけた。橋本にとってソロ初の書き下ろしとなる。

<あらすじ>

身寄りのない子供たちが暮らす家で育った18歳の花(小川未祐)は、そこで暮らせる最後の夏を迎えていた。そこに8歳の少女・晴海(花田琉愛)が入所してくる。かつての自分を重ねた花は、晴海と過ごすうちに今までに無かった感情が芽生えてゆく。

目力の強さや佇まいの美しさ、凛とした空気を持っている小川未祐

――本作は監督にとって完全オリジナルで挑む長編初監督作品ですが、企画の発端をお聞かせいただけますか。

学生時代に短編や中編の作品は撮っていました。その中の1つ『最期の星』(2017年)に小川未祐さんが出てくださったのですが、彼女と2019年春に再会して話をする機会があったのです。未祐さんが18歳になろうとしているときで、彼女の心に自分のやりたいこと、理想と現実のギャップなどが渦巻いていました。私自身も大学を卒業し、いろんな思いを抱えて社会に踏み出していこうとしていたので、2人の思いが重なって、もう一回映画を撮ろうという話になったのです。

最初は短編を小さな規模で撮ろうという話でした。それが企画を書いて、脚本を書いていくうちにどんどん大きくなり、プロデューサーやカメラマンなど素晴らしいスタッフの方々に集まっていただいて、長編の尺で撮ることになりました。

――物語の着想はおふたりで話しているところから生まれたのでしょうか。

出発点はそこですが、そこから実際に女の子が歩み出していく物語を書いていったのは私です。以前から子どもたちのさまざまな境遇にとても関心がありました。本を読んだり、ドキュメンタリーを見たりしていたことから、身寄りのない子どもたちが暮らす施設で育った花という主人公が生まれ、話を肉付けしていきました。

――小川未祐さんは『最期の星』に出演されたとのことでしたが、女優として未祐さんに変化はありましたか。

出会ったころから目力の強さや佇まいの美しさ、凛とした空気を持っていましたね。それから2年が経ち、子どもと大人の狭間ならではの葛藤を抱え、心のアンバランスさのようなものが感じられるようになってました。表情も大人っぽく見えるときがあれば、あどけないときもある。その多面性はあの頃ならではの魅力でした。

――未祐さんとはどのように主人公の花を作り上げていきましたか。

鹿児島の阿久根市という自然の中で現地の子に囲まれての撮影でしたから、お芝居を意識するのではなく、そこに馴染んでほしいと伝えました。子どもたちが自然なので、その中でお芝居をすると浮いてしまうと思ったのです。芝居を削ぎ落していくということを意識してもらいました。

――芝居を削ぎ落とすのは芝居をするより難しそうです。

普段は役者さんに囲まれてお芝居をしているので、今回のような環境に飛び込むのはあまりないこと。理解はしてくれましたが、最初は悩みながらやっていたと思います。撮影をしながら少しずつ花を作っていきました。

遊んでいる姿に意志の強さを感じて花田琉愛さんを抜擢

――花と同じ施設に入所してきた8歳の少女・晴海を演じた花田琉愛さんはロケ地・阿久根市で行ったオーディションで選ばれたとのことですが、彼女をオーディションで選んだ決め手はどんなところだったのでしょうか。

舞台となる施設に住んでいる子どもたちはみんな、地元で行ったオーディションで選びました。オーディションといってもみんなで遊んでいる姿を見ていただけですが、彼女に意志の強さを感じて、「この子だったら晴海ができるかもしれない」と思ってお願いしました。

©2021 東映ビデオ

――花田さんは晴海の役をすんなり理解してくれましたか。

練習も兼ねて、子どもたちにちょっとお芝居をやってもらったところ、お遊戯会っぽくになってしまう子もいましたが、花田さんは役どころを説明すると、言ってほしいことを自分の言葉にして本当にしゃべっているようにして言えたのです。びっくりしました。

――花田さんは撮影現場で苦労せずに演じられたのでしょうか。

花田さんは演技の勘がよく、お芝居的には苦労しなかったのですが、映画に出るということは初めて。実際に撮影が始まり、知らない大人や機材などに囲まれると緊張しちゃったみたいで、初日の最初のシーンで「やっぱり出ない」と言い出したのです。そのときはどうなることかと思いましたが、気持ちが落ち着くのを待って、一緒にやってほしいと伝えてました。

©2021 東映ビデオ

――未祐さんが花田さんを支えてくれたのでしょうか。

それはありますね。2人の関係がちょっと離れたときがありましたが、そのときも未祐さんが歩み寄って、真正面から花田さんと向き合ってくれました。今回の撮影は2人の信頼関係に助けられた部分が大きいです。

子どもの演出はそこに入っていく大人がどう接していくのかが肝

――是枝裕和監督が脚本協力として参加していますが、是枝監督は小川監督の大学時代の恩師とのこと。学生時代に是枝監督からどのようなことを学び、それをどうこの作品に活かしているのでしょうか。

大学では1年生のときから是枝監督の授業を受けていました。学んだことは数えきれないくらいたくさんあります。今回は子どもたちを描きたかったので、卒業後でしたが、改めて子どもの演出についてアドバイスいただきました。

――具体的にどんなアドバイスをいただきましたか。

撮影前に子どもたちとどれだけ一緒の時間を過ごし、信頼関係を作っておくかが大事と教えていただきました。そこで、未祐さんには撮影に入る前から阿久根市に入って、子どもたちと一緒に過ごしてもらいました。養護施設長・タカ兄を演じた芹澤興人さんも休憩中に子どもたちと遊んでくださって、みんなに慕われていました。本当にみんなのタカ兄でしたね。

子どもは演出するのではなく、そのままでいてくれるのがいちばんいい。むしろ、そこに入っていく大人がどう接していくのかが肝。下手に子どもに干渉してしまってはいけないし、距離がありすぎてもダメだと今回の撮影で学びました。

©2021 東映ビデオ

――大人がすっと子どもたちの中に入っていけたのですね。子どもたちがカメラを意識せず、自然でした。是枝監督は子役に台本を渡さないことで有名ですが、監督も同じようにされたのでしょうか。

その手法は是枝監督だけでなく、世界で広くこと行われていますが、私も事前に脚本を渡すのではなく、子どもたちにその場で伝えて、一緒に考えながら作っていきました。

――映画では子どもと動物の撮影は大変と言われていますが、大勢の子どもたちの撮影は大変だったことと思います。

今回は現地のお芝居の経験のない普通の子どもたちに出演してもらったので、とにかく自由奔放。機嫌の悪いときがあるし、喧嘩をするし、眠いときもある。でも、だからこそ予定調和ではない新しい発見や出来事がたくさんあって、それを拾っていくのが楽しかったです。

全編通じて散りばめられた何気ない子どもの豊かさ

――お盆のときに男の子が精霊馬のなすをきゅうりに載せていました。子どもらしい振る舞いに微笑ましい気持ちになりましたが、脚本に書いてあったのでしょうか。

あれは脚本には書けません(笑)。お盆のころに遊んでいる子どもたちを精霊馬越しに撮るというシーンだったのですが、撮っていたらあの子が寄ってきて、精霊馬で遊んでしまったのです。最初、周りのスタッフが彼を止めようとしたのですが、私がスタッフを止めて、そのまま撮りました。子どもほどいい役者はいません。図らずも素晴らしいシーンになりました。

そうめん流しのシーンもみんなで楽しく食べに行っただけなのですが、子どもたちが美味しそうに食べているのをカメラマンの山崎さんが的確に撮ってくれたので、いい笑顔になりました。

――さすが、ベテランの山崎裕さんですね。山崎さんと組むのは初めてかと思いますが、撮影をお願いしたのはどうしてでしょうか。

それまでは、ほぼ同世代の若い人たちと組んでやってきましたが、一度、大ベテランの方と一緒にやってみたいと思っていました。そのうえで子どもを魅力的に撮れる人を考えたら、真っ先に山崎さんのことが頭に浮かんだのです。巨匠なので、私ごときにお願いできるかなとは思ったのですが、思い切って直接、オファーしに行ったところ引き受けていただけました。

――巨匠との仕事は緊張されたのではありませんか。

脚本の段階から関わり、ロケハンのときもご自身の意見を押し付けることはなく、私の意見も聞いてくださる方でした。これだけ年齢差があるにもかかわらず、山崎さんは作品を真ん中に置いて、対等に話をしてくださいました。

――山崎さんが撮ったことでいい素材が多く、編集で悩んだのではありませんか。

子どもたちが面白いことをたくさんしてくれたので、魅力的なカットばかり。ただでさえ映画の素材を自分で切るのは難しいのですが、子どもたちのシーンはいつも以上に難しかったです。プロデューサーと話し合いながら、心を鬼にしてフィクションという形の中に落としていきました。

©2021 東映ビデオ

――監督として、注目してほしいところはありますか。

全編通じて、何気ない子どもの豊かさを散りばめました。子どもたちのちょっとした仕草、花との視線の交わし合いなどを見てもらえたらいいなと思います。

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いいたします。

この作品は2年前の夏に撮りました。コロナ禍で公開が少し延期されましたが、その間にじっくり熟成されました。この映画を通して遠くの景色や人との距離の近さ、子どもとの触れ合いに心を解していただければと思います。ぜひ劇場に足をお運びください。

(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

監督・脚本・編集:小川紗良

©2021 東映ビデオ

1996年東京生まれ。
デビュー後、映画『イノセント15』(2016年)で初出演。
2019年にはNHK連続テレビ小説『まんぷく』に主人公夫婦の長女・立花幸役として出演。2020年11月に本広克行監督の映画『ビューティフルドリーマー』では主演をつとめ更なる飛躍を目指している。映像作家としては自主製作の3作品全てが映画祭で入選を果たすなど監督としても高い評価を受けている。本作はそんな小川紗良の商業長編映画デビュー作品。

『海辺の金魚』

©2021 東映ビデオ

監督・脚本・編集:小川紗良
出演:小川未祐、花田琉愛、芹澤興人、福崎那由他、山田キヌヲ
配給:東映ビデオ
©2021 東映ビデオ
2021年6月25日(金)新宿シネマカリテほかロードショー

映画『海辺の金魚』公式サイト

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