甘い夜を過ごしたあと、ベッドを抜け出した男。女に内緒でしていた信じられないコト

恋人と、“週末”に会えないとわかると

「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ

IT会社でアプリをプロデュースする笹本美加(28)は、脚本家の釘宮海斗(32)と恋に落ちた。だが彼は土日になると音信不通になる男だった。

業を煮やした美加は、金曜の夜、連絡なしで彼の自宅へ向かい…。

▶前回:「男って、やっぱり…」お泊りする関係だった男と5年ぶりに再会し、28歳女が悟ったこと


3rd weekend 「本当の、告白」

「海斗さんにとって、私って何なんですか!?」

金曜の22時過ぎ。

連絡もなく突然、美加が家を訪ねてきた。ドアを開けるなり発した美加の言葉に、海斗は心の底から戸惑う。

「美加さん、酔っ払ってるの?」

落ち着かせたくて海斗はそう言ったが、どうやら地雷だったらしい。美加の声がさらに大きくなった。

「酔っ払ってません!ノンアルです!ノンアルでうな重を食べてきました!特上うな重です!」

近所迷惑になると思い、海斗はなるたけ優しく美加を室内へ引き入れ、ドアを閉めた。

リビングでコーヒーを渡しても、美加はムスッとしたままだった。   

美加が怒っている理由に、海斗は、もちろん心当たりはある。

理由も伝えず、2週連続で土日に彼女からのLINEを無視してしまった。そのうえ、昨日、美加から「土日に会えませんか?」とLINEが来たので「仕事があるから」と断っていたのだ。

今週末は、脚本を改訂する必要があるから、本当に仕事がある。しかし、週末になると音信不通になる男の言葉を、美加が信用できないのは当然だ。

そして昨日――とうとう美加にも言われてしまった、あの呪いの言葉。

「私と仕事とどっちが大事なんですか?」

それに対して、返事をしないまま今日になっていた。

重たい空気が流れる中、海斗は温めていた言葉をとうとう口にする!?

ムスッとしている美加は、ソッポを向いて海斗を見ようともせず、コーヒーすら飲む気配がない。

まるで「飲む=海斗を許す」とでも信じ込んでいるかのようだ。

― もう背に腹は代えられない…。よしっ…!

意を決した海斗は、ソファにいる美加の隣に座ると、本当は月曜日に伝えるつもりだった“土日に会えない理由”を正直に伝えることにした。

前にも伝えたが、脚本家は月曜朝の締切が多く、土日に執筆することが多いこと。

一方で土日がオフになったとしても、その場合は趣味のフットサルをしたり、サッカー観戦することが多いこと。

「サッカーって土日だけのスポーツなんですか?」

海斗の説明を黙って聞いていた美加は、やっと口を開いたと思うと、そう尋ねてきた。

「…いい質問だね」

サッカーは、体力を消耗するスポーツだ。野球などと違って毎日プレーできず、試合は1週間に1試合、多くても2試合。

そのためJリーグも、本場ヨーロッパのプロサッカーも、仲間たちとの草サッカーもフットサルも、ほとんど土日に行われる。

「だから土日は『仕事』か『趣味』で時間が潰されちゃうんだ」

「へえ…」

美加の返事は、静かな怒りに満ちた声色だった。

「だから、これまで恋仲になった女性にも何度も言われてきたんだ。『私より、仕事や趣味が大事なんですか?』って」

海斗が告げると、美加の表情が一変した。

「これまでは答えを濁してきちゃって、それでフラれてきたけど…美加さんとはそうなりたくないから、ハッキリ伝えておく」

美加はリビングに来てから初めて、海斗を見た。

― ここだ!

脚本家としての勘が働く。

― 今ここでビシッと言葉が決まれば、美加さんの心に響くはず!

「これからの人生、俺は何よりも、美加さんを優先したいと思ってる」

先週末から用意していたセリフを海斗が告げた。

ふと、手にぬくもりを感じ、視線を下げると美加が手を握っている。

驚いて視線を上げると、美加と目が合い、「うん」と言葉にならない声で、彼女が頷いてくれた。

何年ぶりか覚えていないほど久しぶりに、海斗は真剣な告白をして、それを受け入れてもらったのだ。


海斗と美加はシャワーを浴びたあと、恋人として甘い夜を過ごし眠りについた。

ただ海斗は、頃合いを見てベッドからそっと体を起こした。つまり、狸寝入りをしていたわけだ。

― ごめんね。一緒に寝るわけにはいかないんだ。おやすみ。

心の中でそう言い、静かに寝息を立てている美加の髪を撫でて寝室を出た。

寝てしまったら、月曜朝の締切に間に合わない。仕事部屋でなくリビングでノートパソコンを開き仕事を始める。

そして、壁掛けの80インチ大型テレビの電源を入れた。サッカーを存分に楽しむために購入した自慢のテレビだ。

そう、仕事場でなくリビングでパソコンを開いたのは、録画していたサッカー番組をBGM代わりに執筆をするためだ。

長年の生活で身に付いた「仕事」と「趣味」の両立作業である。

海斗は、パソコンに映る脚本原稿に集中しながら、時折、視線を大型テレビに映るサッカーへ移し、いつもの週末の夜を過ごした。

始まったばかりなのに、破局の危機が…?

―土曜日―


朝10時。

海斗は、帰り支度をする美加の物音で目が覚める

朝6時までサッカーを垣間見ながら脚本の改訂を続けた海斗は、そのままリビングのソファで眠ってしまった。

「もしかして海斗さん、あのあと仕事してたんですか?」

眠い目をこすりながら海斗は返す。

「うん。締切があるからね」

「そっか…」

美加は寂しそうな顔になる。

「本当は、どこかにデート行きたいと思ってたんですけど、無理ですよね」

「そうだね…ごめん…」

「じゃあ、夜になったらまた来てもいいですか?服も着替えたいし」

― えっ!?今夜も来るの?そんなことになったら、月曜朝の締切までに原稿が間に合わない気がする…。

海斗は正直“うっ”となる。

とはいえ、昨夜“何よりも美加を優先する”と言ったから、断るわけにはいかない。海斗は、笑顔で答えた。

「もちろん。待ってるよ」

美加は、その言葉に安心したのか、海斗がアプリで呼んだタクシーに笑顔で乗り込み帰っていった。

ひとりになると海斗は、熱いコーヒーを飲み、熱いシャワーを浴び、眠気を無理やり吹き飛ばしてから原稿に向かった。

今夜も美加と会うなら、執筆時間が削られる。

― ひとりでいる間は、できるかぎり書き進めなければ…。

―日曜日―


この日の朝も、海斗はソファで目が覚めた。

昨夜も美加と甘い時間を過ごした海斗は、彼女が眠りにつくとベッドを抜け出しリビングに移動した。そこで、サッカーを見ながら仕事し、そのまま寝落ちしていた。

「今日はデートできます?」

キッチンでは、すっかり海斗のコーヒーメーカーの使い方を覚えた美加が、カップに丁寧にコーヒーを注いでいる。

もう少し寝かせてほしいな、と思いながらも海斗は返した。

「ごめん。まだ仕事が終わってなくて…」

「締切は月曜の朝でしたっけ?」

「そうなんだよ。だから今日が勝負なんだ」

私を何より優先するって言ったじゃないですか、などと反論されると海斗は身構えた。

だが予想は違った。美加は満面の笑みでこう言ったのだ。

「わかりました。じゃ、今日は帰りますね」

海斗は肩の力が抜け、安堵が押し寄せる。

「ただ、ひとつだけ聞きたいことがあるんです」

背筋がゾクリとする。

「な、なに?」

「私が寝たあと、海斗さん、また仕事してましたよね?」

「うん。仕事してた」

「でも、サッカー見てましたよね?私、途中で目が覚めて起きちゃって、気づいたんですよ」

「…ああ…うん、サッカーなら見てたよ」

「あんなに、仕事が大変だとか、締切があるからとか言うくせに、サッカー見る余裕があるんですね」

美加の声色も表情も淡々としている。だがその奥に怒りが内包されていることは容易に想像がつく。

「仕事なら仕事に100パー集中、趣味なら趣味に100パー集中、っていうスタイルなら、私とデートをしなくてもわかるんです。でもサッカーを『ながら見』しているのに、仕事に集中しているとか言われても…」

「そうだよね…」

「サッカーを見ないで執筆に専念したら、締め切りより早く仕事が終わって、私とデートする時間も作れたんじゃないでしょうか?」

やけに丁寧な言い方が、美加の怒りの深さを表していた。

海斗は、何も言えなかった。

サッカーを見ているほうが仕事に集中できるんだ、と言いたかったが、信じてもらえるはずがないし、実際はそうではないことを海斗は知っている。

「仕事」と「趣味」を両立させるための苦肉の策に過ぎない。

海斗が返す言葉を失っていると、美加は大きな溜息をつく。

「金曜の夜は、海斗さんが真剣に告白してくれたので、その言葉を信じてみようと思いました。でも、この土日で思いました」

美加は、まっすぐな視線を海斗に向ける。その目には、怒りの感情がはっきりと宿っていた。

「物書きを仕事にしているだけに、海斗さんって口がうまいんですね。ていうか、口だけ人間なんですね」

「……」

「今日はもう帰りますね」

海斗は、ちょっと待って、と小さな声が漏れたが、美加はそれを無視して家を出て行く。

ドアが閉まった瞬間、美加との未来も閉じられた気がした。


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怒り心頭の美加に、意外な災難が降りかかってきて…。

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