不倫で救われた44歳男性「ローンでうつ状態の僕に生きる勇気をくれた」

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 既婚者の恋愛は、当然のことながらリスクを伴う。誰もがわかっていることなのに、なぜか恋に落ちた人は「自分はバレない」と思いがちだ。本当にリスクを体感していれば、そんな危ない道には踏み込まないはずだ。

 だが、リスクを考えるより前に動いてしまう人もいる。壁に囲まれた状況の中で、唯一、婚外恋愛の相手だけが「希望の光」に見えたからだ。

◆マイホームを買って堕ちた虚無感

「40歳のとき、東京郊外に新築マンションを購入したんです。僕は田舎育ちなので、一軒家がいいと思ったけど、僕の給料ではむずかしい。

 友人を見ていると、頭金は親が出してくれたなんていうヤツもいるけど、うちは無理。妻の実家も無理。自力でがんばろうと結婚した当時から夫婦でコツコツ貯金をしてきました。だから家を買ったときの妻の喜びようは今もはっきり覚えています」

 サトシさん(44歳)はそう言った。結婚して16年、中学生と小学生の子どもたちがいる。そろそろ自室を与えたいと、3LDKのマンションを買ったのが4年前。

「妻は喜んでいましたが、僕はマイホームを手にした喜びより、ここからもう動けないという諦めみたいなもののほうが大きかったんですよ」

 それはローンを組んだときの脱力感に由来するのかもしれない。30年ローンは、彼が死んだら生命保険と相殺されることになっている。

「僕がいなくなっても、妻子は住むところには困らない。むしろ僕が死んだほうが、彼らにとってはいいのかもしれない。僕が生きていれば、働き続けてお金を払わなければいけないのだから。

 それを考えると、なんとなく虚無感というのでしょうか、何のために生きているのかなという思いがよぎりました」

◆悪いことは何一つないのに気が晴れない

 もし彼が死んだら、家のローンは相殺されても、パートで働く妻と子どもたちはもちろん生活に困るのだ。家を売りたくても希望価格で売れるとは限らない。もしかしたら評価額が下がっているかもしれない。現実には、決して妻子にとって得なわけではないのだが、「主たる生計」を担っている彼としては、複雑な思いはあっただろう。

「家を購入してから、家というのは妻のためにあるものだとも思うようになりました。明るいキッチンが望みだった妻は、以前の賃貸マンションのときよりずっと料理に精を出すようになった。でも通勤時間が長くなった僕は、できたて料理はほとんど食べられない。なんとなく自分だけが不遇なような気がしてね」

 40歳、不惑。家を買い、家族もみんな元気でいる。悪いことは何一つないのに気が晴れない。そんなことは多いのかもしれない。子どもが卒業したとか結婚したとか、いいことがあったときにうつ状態になる人も少なくないのだ。環境が変わることは、うつを引き起こすひとつの要因となるとされている。

◆暗闇に現れた光

 そんなわけでかなり気分が落ち込んだサトシさん。当時は忙しくて、週に2日くらいは自宅に帰れない日もあった。

「カプセルホテルに泊まる前にときどき行くバーで、顔見知りの女性ができたんです。その店で軽く飲んだり食べたりして話すだけ。でもなんだか楽しくてね、家に帰れない日があるときは必ずその店に行きました」

 あるとき、彼女が用があると先に帰ったのだが、ふと見ると椅子の下に何かが落ちている。彼女の携帯だった。彼は携帯を握りしめてあわてて店を出た。駅まで必死に走ったが、彼女の姿を見つけることはできなかった。

「店に戻って預けようかと思ったけど、ないと不便でしょう。明日の朝にでもどこかで落ち合って渡そうと持っていたんです」

 午前零時を回ったころ、彼女の携帯が鳴った。彼が出ると声で察した彼女が、彼の苗字を叫び、「持っていてくださったんですね」とホッとしたように言った。

「今から届けようかと言ったら、いや、それは悪いから私が戻ります、と。そんなわけにはと押し問答があって、じゃあ、新宿で落ち合おうということになったんです」

 そこで彼は急に黙り込んだ。その日に「何か」があったのだろう。どちらが誘ったのか、あうんの呼吸だったのか……。

◆「私、そんなに魅力がないですか」

「彼女と待ち合わせたら、『帰れなくなったんで、朝までつきあってくださいよ』と彼女はニコニコしながら言うんです。じゃあ、と朝までやっている居酒屋に行きました。だけど2時くらいになると疲れてくるんですよね。どこかに泊まろうということになって」

 彼はもちろん、何もする気はなかった。だがホテルの部屋に横たわった彼女は、「私、そんなに魅力がないですか」と言った。

 当時42歳だった彼はそう言われて初めて、自分が彼女を求めていることに気づいた。だが同時に、それは彼女の人生にとってどういう意味があるのだろうとも考えた。

「彼女は一回り下の独身。これからの人だから、僕がどうこうはできないと思いました。でも彼女は傷ついたと言って泣き出してしまったんです」

 抱きしめたらしがみつかれた。もう自制はできなかったと彼はつぶやいた。

◆もう彼女のいない人生は考えられなくなっていた

 それからふたりの関係は深く静かに進んでいる。

「半年ほどたったときに僕が、『まだつきあっていていいの?』と聞いたら、『私はあなたのことが本当に好きなの』と言ってくれた。彼女が誰かと結婚したいと思うようになったら、僕はすぐ身を引くからと告げてあります。彼女の人生の邪魔はしたくない。だけど実は僕自身も、本当に彼女のことが好きで、もう彼女のいない人生は考えられなくなっていた」

 うつ状態からは完全に抜け出していた。見るものすべてが美しい。道ばたの花に目がいくようになった。季節の変わり目が風の匂いでわかるようになったと、彼は微笑む。

「恋なんですよ。この年で恋をするなんて思ってもいなかったけど。純粋に彼女のことが好き。自分でも中学生みたいだと思うほど、心が澄み切っているんです」

 不倫であっても、本人にとっては大事な「恋」。大人の分別がある不惑の年齢だからこそ、恋にはまると一直線になってしまうのかもしれない。

 生きる意欲がわいてきた。彼は仕事にも積極的になり、彼女とつきあって2年たった今は部長補佐をつとめている。同期の中でも早い出世だという。

「すべて彼女のおかげです。後ろ向きになりかけていた僕に前を向かせてくれた。いつも励ましてくれたんです。比べてはいないけど、妻は僕を褒めたり励ましたりしてくれない。この2年、『あなたならやれる』『あなたなら大丈夫』と言い続けてくれたのは彼女です。

 いつか彼女は僕から離れていく。そう思うだけで泣けてくるんですが、彼女と一緒にいられる時間を大事にしたいと思っています」

 人生の折り返し地点で、人生に再び意義を見いだしたサトシさん。彼女との将来が明るいものではないと自覚しつつ、「今を生きる」と決めたそうだ。

―シリーズ40代の恋―

<文/亀山早苗>

【亀山早苗】
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。Twitter:@viofatalevio

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