「一途な恋愛」が人の胸を打つ理由

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※この記事はドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』結末のネタバレが含まれます

2016年に月9枠で放送されたドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)。脚本は『大豆田とわ子と三人の元夫』や『花束みたいな恋をした』などを手がける坂元裕二が担当している。

通称『いつ恋』と呼ばれる今作は、有村架純と高良健吾を主人公に据えて、2011年と2016年の東京をメインの舞台として描いた、恋愛ドラマである。

さまざまな思いが錯綜する『いつ恋』だが、その中でも、有村架純演じる杉原音と、高良健吾演じる曽田練の関係は特に複雑だ。

近づいたかと思ったら離れることを繰り返す。今回は、そんな2人の「会話」に重きを置いて考察してみようと思う。

■似た者同士の出会い

練と音の出会いは不穏だ。練の友人である晴太(坂口健太郎)が盗んでしまった音のカバンを代わりに返すために、東京から北海道までトラックを走らせた引っ越し屋の練に対して、音は不信感を持って接する。

カバンの中には、音の亡くなった母親からの手紙が入っており、それを返したくて来たのだと言うと、「捨てといて」と音にあしらわれてしまう。

身寄りのない音は、育ての父親が決めた相手と結婚することになっていたが、とある事情で縁談がなくなる。怒った育ての父親は、音の母親の骨を捨ててしまう。

無気力になった音に、育ての母親は「音、逃げなさい」と声をかける。言われるがまま勢いで家を飛び出した音は、偶然、トラックで北海道から東京に帰ろうとしていた練を見つける。

音「引っ越し屋さん!」

練「乗れ!」

ここから、2人の関係はスタートするかと思われた。ところが、東京に着いた途端、2人ははぐれることになる。練と音が再会するのは、1年後、2011年になってからだ。

音「引っ越し屋さん、できたらでいいんやけど、名前教えて、電話番号教えて。あたしも東京で頑張ってるから」

再会を果たした時、音は練の顔を見上げながらそう伝える。

北海道から出てきて介護施設で懸命に働く音と、引っ越し屋で働く福島県出身の練。共に上京して必死に生きているという点で、2人は惹かれ合いながらも、同志のような関係も築く。

道端で見つけた花の写真を見せ合い、アルプス一万尺をして2人で笑う。こうやって恋愛は成熟していくのだと思わされるシーンだ。

ところが、練には恋人のような人がいる。厳密には付き合っていないのだが、練の寂しさと包容力がゆえに、恋人関係のように見える存在だ。既婚者と不倫をしていた木穂子(高畑充希)である。

音が練にキスをしたその夜、一方の木穂子は練と付き合うために、不倫相手に別れを告げる。練は木穂子を選ぶことに決め、そこから、音に対する態度がよそよそしくなる。

ある日、バスで荷物をぶちまけてしまった音を助けたことをきっかけに、練と音は久しぶりに親しげな会話をする。このまま2人はまた親密になるのだろうかと思わせるが、練は音に告白と別れを同時に告げる。

練「東京は向いてないって思うんです。家に帰っても帰った気がしません。自分の部屋にいても、“来てる”気がします。そうやって東京で5年経って、そうやって杉原さん、あなたのことを好きになりました。好きで好きで。どうしようもないくらいになりました。いつもあなたのことを思ってます。それを、そのことを諦めなきゃいけないのは苦しい。杉原さん、今日まで冷たくしてごめんなさい。明日からまた同じことします。ごめんなさい、ごめんなさい、好きでした」

練への気持ちはなくならないけれど、距離を置くようになった音は、たまり場になっている家の家主である静恵(八千草薫)にだけ本音をこぼす。

音「あのね、あたし、ちゃんと好きになりました。短かったけど、ちゃんと好きになった。好きだったらそれでよかった。それがすごく嬉しいんです。ずっと、ずっとね、思ってたんです。私、いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまうって。私、私たち今、かけがえのない時間にいる。二度と戻らない時間の中にいるって、それぐらいまぶしかった。こんなこともうないから、あとから思い出して、まぶしくてまぶしくて泣いてしまうんだろうなって」

お互い好きな者同士なのに、どうやっても一緒になれず、恋愛感情に蓋をしてしまう。叶わない恋を心にしまって生きていこうとする2人は、どうしようもなく似た者同士なのだ。

■多数決で一緒に負け続けてくれる人

そうやって5年が過ぎ、2016年。祖父の介護のために福島に戻っていた練は、密かに東京に帰ってきていた。

再会した練と音は再び交流を始める。5年の間に練は木穂子と別れていたが、音は介護施設の職員である朝陽(西島隆弘)と交際しており、練と朝陽の間で揺れることになる。

音「あたし多分、多数決があったら毎回ダメな方です」

練「ダメな方はダメな方で、そこで一緒にいればいいじゃないですか」

音「そこでも多数決があったら、一緒にいる人だんだん減っていきますよ」

練「俺は最後までそこにいますよ。多数決が何回あっても、俺は杉原さんのところにいます」

音「へえ」

練「そこにいます」

音「へえ」

練「最近ずっと、ずっと杉原さんのことを考えてました。何をしてても、ずっと杉原さんのこと考えてました」

その後、交際中の朝陽にも伝えたことのない実母の死にまつわる話を、練には打ち明ける音。その話の呼び水となっているのは、練が「何があっても音のところにいる」と言ったことだ。

絶対的に味方でいる、と言うのは簡単だが、それを相手に信じてもらえるかは別の問題である。しかし、音は信じた。多数決で負け続けても、ずっとそばにいるという練の心からの愛情を、受け取ったのである。

朝陽にもプロポーズをされている音は、2年も付き合っていて裏切れないという理由で朝陽を選ぶ。しかし朝陽は、音がまだ練への気持ちを捨てられていないということを汲み取り、「自分を選んではいけない」と言って別れる。

■遠回りの先にあるもの

朝陽と別れた音は、一人になった育ての母親のために北海道にひっそりと帰っていた。そのことを知った練は、再びトラックで北海道に向かう。

音は、練と初めて出会った時のように、全てを諦めたような態度でいる。一度逃げ出した北海道に戻るのは、音が自分の心を殺さないとできないことなのだ。

音「引っ越し屋さん、好きやで。好きなんやわ、ほんまに。……サスケ(愛犬)の写真送って。飾っとく。毎日それ見ながら寝るわ。送ってくれる?」

練「送る」

音「ありがとう。これで安心してふりだし戻れるわ」

練「ふりだしじゃないですよ。(中略)道があって約束があって、ちょっとの運があれば、また会えます」

音「会える」

練「僕も、杉原さんのことが好きです」

好意は伝え合っていたのに、明確な答えを得られないままここまで来た2人が、ようやく互いのことを好きだと伝えられるようになる。

音「出て、右行って、左」

練「近道?」

音「ううん、遠回り」

ドラマの最終回の最後のこの会話は、まるで2人が辿ってきた恋路を表しているようである。

何度も何度も近づいては離れて、結ばれることを諦めようとしても諦めきれなかった2人の気持ちは、遠回りをしてようやく成就する。

誰かのことをずっと好きでいるということは、幸福であると同時に苦しい。でもそれは、とてつもなく輝いていてまぶしい瞬間なのだ。

(文:ねむみえり、イラスト:タテノカズヒロ、編集:高橋千里)

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