『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』レビュー:”造られた”希有のアナキストの厭物語

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 『スノータウン』(2011)で、実話をベースにド田舎連続猟奇殺人を描いたジャスティン・カーゼルの新作。今度は実在した19世紀のオーストラリア最強の”追い剥ぎ”ネッド・ケリーの物語。アナキズムの先駆者、鉄板の鎧で警官隊に挑んだ男の生き様を厭世感たっぷりに描く。

絞首刑がなんだ!警官を殺せ!殺せ!殺せ!

© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

 ネッド・ケリーは、実在した19世紀のオーストラリア最強の”追い剥ぎ”だ。アイルランド流刑民の家系で、貧困生活の反動から反権力主義を貫き、オーストラリアの植民地警察とトコトン争った果てに逮捕。25歳で絞首刑に処せられた。彼は家畜泥棒、地主への反抗、銀行強盗に警察官への暴力とあらゆる犯罪に手を染めた。そのアナーキーな生き様は現代まで語り草となっている。彼が警官隊との銃撃戦で身につけていた鉄板の鎧は、博物館に展示されているほどだ。彼の物語は幾度も映画化され、ミック・ジャガーやヒース・レジャーがネッドを演じている。ネッドは義賊。所謂、悪のヒーローとして有名なのだ。
 ところが、『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』はネッドを安易なヒーローとして描かず、ネッドが娘宛に書いた独白の手紙を映像化する形で主観的に「なぜ、アナーキーな生き方をするにいたったのか?」を描いている

狂った子供の育て方、教えます。

© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

 冒頭「この物語に真実は含まれていない」というテロップが提示され、その後、寒々とした荒野をドレスを着た男が馬を駆る。突然の非現実感。何じゃこりゃ?と唖然となる。ところが、生真面目な声で「この手紙に嘘が書かれているなら地獄の炎に焼かれてもいい」ネッド・ケリーがナレーションで述べる。奇妙な出で立ち、現実感のない荒野、矛盾した言葉。一体何が起こるのかサッパリといったところだ。しかし、これらの問題は映画を見ていくうちに解消されていくのだが、それは最後に述べよう。

 あばら屋の中で男の股間に顔をうずめている。娼婦だ。それを子供がのぞき見ている。このオープニングで、この映画には”いいことなど何もないであろう”事が予見させられる。映画は徹頭徹尾地獄絵図だ。
 少年時代のネッドは溺れている少女を助ける優しい心の持ち主だった。しかも幸運なことに助けた少女の親が金持ちだったため、教育を受ける機会も訪れる。しかし、彼の母エレンはそれを断固拒否。

「糞イギリス人が私たち家族を壊そうとしている!息子を奪う気だ!」

 教育の機会を奪うエレン。これがすべての始まりだった。さらにエレンは、安値で“名うての追い剥ぎ”ハリー・パワーにネッドを売り飛ばす。エレンはネッドを食い扶持としか思っていないのだ。それを知ってか知らずかネッド少年は「すべては母のため、家族のため」と仕方なしに、“追い剥ぎ”という技術を泣く泣く身につけ、次々と犯罪に手を染めていくネッド少年。
 青年になり、独り立ちする頃には暴力に満ちた人生を送るようになる。母は事あるごとに「全部おまえの為だよ!」と常に圧をかけ続け、同い年の警官と母は連れ合いとなったあげく、捨てられて投獄される。いい仲になった女は娼婦。弟たちは略奪三昧。おぞましい家庭環境だ。こんな状況で”まともに生きろ”などというのがおかしいのだ!本作のネッドは、反政府主義者といよりは人生を投げ出してしまった男にしか見えない。自己破壊的といってもいい。茨の道を突き進み、殺して殺して殺して殺しまくる。誰が望んで自らを”戦艦”となのり、鉄板で造った甲冑を身につけ、銃撃戦に挑むというのか。

すべては家族のため。

© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

 本作のネッドは、世直しのために義賊的な行為は行わない。すべては家族、とりわけ母のための行動だ。ハリー・パワーに売られたことを受け入れたのも母のため、地主に抵抗するのも、金を盗むのも、警官に反抗するのも、すべて、自分たち家族が奪われたものを取り返すためなのだ。冒頭で「この物語に真実は含まれていない」は、これまでのヒーロー像をぶち壊し、ただ家族のために生きざるを得なかった男、ネッド・ケリーを描くために添えられた言葉なのだ。物語の中でネッドの唯一の親友であるジョーがいう。

「他の奴らがお前を神だと思い込んでも、俺はお前を知っている。ただの男だ。」

そしてネッド自身もいう「真実よりも虚構の方が金になる」と。

 監督ジャスティン・カーゼルと脚本を担当したショーン・グラントは『スノータウン』で、実際に起きた”スノータウン12人男女猟奇殺人”を単なる異常者が起こした事件ではなく“なぜ殺さなければならなかったのか?”に重きを置いた。つまり

「人間の物語は、真実云々よりも、あらゆる視点で再構築した上で語られるべきだ」

とジャスティン・カーゼルは主張しているのだ。『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』も同様の手法をとっている。だから、本作のネッドは人によって印象が変わってくるだろう。これまで通りの義賊かも知れないし、狂った殺人者かもしれないし、エディプスコンプレックスに囚われたマザコンに見えるかも知れない。ネッドという”人間”の真実を観客に委ねる。本作はそんな映画なのだ。
 ストーリーテリング同様に、注目してほしいのはハリー・パワー役のラッセル・クロウ。そして憎たらしい警官役のニコラス・ホルトだ。細マッチョのジョージ・マッケイ演じるネッドをトコトン追い込む彼らの芝居も見所の一つだ。加えて、この映画にはネッドと観客が一体化できるよう”物理的なある仕掛け”がしてある。筆者は2回目の鑑賞で気がついたが、なかなか粋な演出だ。是非その”仕掛け”も探してほしい。

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』
原題:True History of the Kelly Gang
監督・製作:ジャスティン・カーゼル
脚本:ショーン・グラント
原作:ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」
出演:ジョージ・マッケイ、ニコラス・ホルト、ラッセル・クロウ、チャーリー・ハナム、エシー・デイヴィス、ショーン・キーナン、アール・ケイヴ、トーマシン・マッケンジー
2019年/オーストラリア=イギリス=フランス/英語/125分/ビスタサイズ/原題:True History of the Kelly Gang/PG-12
配給:アット エンタテインメント 後援:オーストラリア大使館
公式サイト:kellygangjp.com

6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほか全国順次公開

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