「男が育休取ります」なんて答えられるわけがない、中小企業の現実

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 衆院本会議で6月3日、男性が産休や育休を取りやすくなるような制度を加えた「改正育児・介護休業法」が可決、成立した。企業側が、男性社員に対して「休む意思があるか」と確認することが義務になるなど、その本気度も伺える。

 政府は他にも、企業における女性役員数を増やすなどの「男女共同参画」も推進しており、より一層の働き方改革が進むだろう、などと目されている。

 しかしこれらは、会社員の実態を、特に日本にある会社の99%以上にものぼる「中小企業」の現場を知らない人たちが作った制度である、上級国民だけのもの、と主張する人たちがいる。

◆「(育休)取ります」なんて答えられるわけがない

「まあ俺らには関係のない話なんで。実際は、羨ましくてしょうがないんですけど」

 埼玉県内在住の中島要一さん(仮名・30代)は東京都内の一部上場企業勤務、といっても実際は子会社の正社員。親会社に出向する形の勤務体制が取られているが、なんにおいても社内の序列としては「正社員の次」なのだとか。

「男の育休だって、すでに親会社の正社員の一部は取り始めているんですけど、俺らに声がかかることはありません。正社員ですらしっかり実績を残し、社内でも有望とされる人しか取っていませんけどね。

 たとえ、『取りますか?』と聞かれても『取ります』なんて答えられるわけがない。そんな理由で休む男性社員を、現場の上司は絶対に認めませんから」(中島さん)

 制度や義務があっても、それでもなお「働きます」とか「会社のために」と言っておかないと「未来はない」と感じる人も少なくない。

◆コロナ禍で業績悪化、社員が休日返上で働くなか「総スカンを喰らう」

 勤めているのが中小企業であれば、同じような不満を抱える人が相当に多いようだ。福岡県内の会社に勤務する高橋勝吾さん(仮名・40代)がいう。

「産休・育休の前に、普通の休みが欲しいです。休日が潰れても代休もなし。もっとも、上司が意地悪だから、というわけではなく、コロナ禍以前にいた外国人の研修生がゴソッといなくなりまして、そのしわ寄せですけど」(高橋さん)

 巷間で言われる「働き方改革」もどこ吹く風、ただでさえコロナ禍で業績が下がりつつあるうえ、人手も足りず、このままでは会社の存亡の危機。そんな最中に「育休を取る」などと言おうものなら「総スカンを喰らう」と訴える。

 テレビニュースや新聞報道で持ち上げられる制度も、現実に即していなければ「絵に描いた餅」どころか、その餅を食べられる人と食べられない人との格差が浮き彫りになるだけ、なのだろうか。

◆出世コースから外れてしまう怖さ

「働き方改革ですら“砂上の楼閣”。改革を進めています、という報告を本社にあげるため、コロナ禍のリモート体制でも闇出社や闇残業のオンパレードですよ」

 九州地方にある大手企業の子会社に勤務する町田隆幸さん(仮名・40代)もまた、会社幹部だけが息巻く「改革」に振り回され疲弊している一人。働き方の改革どころか改悪が進む真っ只中で、さらに産休や育休を男性社員が取る、ということは不可能に近いと話す。

 また、田舎ならではの「価値観」も影響してくるのだという。

「男性が育休を取れるようになったことを両親に話すと、『絶対に取るな』と釘を刺されました。出世コースから外れるし、これは罠なのだと(笑)」(町田さん)

◆女性だって産休・育休を満足に取れていない

「実際、私が住んでいるような地方では、女性だって産休や育休を満足に取れていません。一部上場企業でも、地方の支社やそこで働く非正規雇用の女性は、結婚や出産を機に辞めるしかないのですから」(同)

 もちろん、こうした不満を持つ人にも産休や育休を取ってもらおう、というのが法改正の主旨ではあろうが、現状とは乖離している、実態に則していない、という声が聞こえてくる。今回の法改正に限らず、定められる新制度の多くを「上級国民だけのもの」と感じる市民が増えてきている証左なのかもしれない。

<取材・文/森原ドンタコス>


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