『インヘリタンス』レビュー:深く考えない事を前提に作られた!?不条理なミステリー

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 映画解説に“不条理”という言葉をというとなんとなくワクワクさせられるが、真の意味で“不条理”さを感じてしまうのが『インヘリタンス』だ。役者の芝居はとても巧く、退屈はしない。しかし、「これは何の冗談だ?」と言いたくなるほど不条理な本作の正体とは?

夢中にさせる冒頭20分と絶望的な残り時間

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 冒頭20分は魅惑的な設定が次々と開示される。銀行家アーチャーの突然の死。彼の遺産を引き継ぐのは政治家の息子ウィリアムと有能な地方検事である娘ローレン。現ナマ遺産のほとんどはウィリアムに託され、ローレンには代わりに「真実は掘り起こすな」という言葉とともに1つの鍵が託される。父の遺言を頼りに邸宅裏に隠された扉を発見するローレン。彼女が恐る恐る扉を開けてみると中には、鎖でつながれた男がいた。彼はモーガンと名乗り、アーチャーの手によって30年もの間、監禁されていたと告げる。
 ここまではいいんです。その後が問題なんですよ。矢継ぎ早に提示される謎かけが一向に解決されないまま、『ウェインズ・ワールド』のダナ・カーヴィみたいなカツラをかぶったサイモン・ペッグと、リリー・コリンズの芝居の掛け合いが延々と続く。リリー・コリンズの潔癖症的な芝居、サイモン・ペッグのあざといコメディアン的演技のやりとりは非常に楽しめるし、特にサイモン・ペッグのヘンテコな役作りは見所の一つだ。だが、脚本が持っていただろうスピード感をモッサリした演出で台無しにしてしまっている。とにかくモッサリしているのだ。スピード感がないミステリー映画では何が起こるか?粗が目立ってしまうのだ。

ウェインズ・ワールド

ウェインズ・ワールド

1992年/アメリカ/0分

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高い演技力でも埋められない“不条理”な荒さ

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 “考えすぎない”ことを前提に作られた映画は、独自のロジックを維持しながら物語を展開していく。ただし、これには物語そのものに強力な魅力があることが必須になる。一点突破さえできれば、多少荒くても映画としての面白さは維持できる。それどころか不朽の名作にすらなり得る。たとえば『サスペリアPART2』(1975)あたりがそうだ。物語としては相当、荒っぽいのだがゴブリンの音楽とダリオ・アルジェントの手腕により、未だ語り継がれる名作となっている。最近では『パラサイト 半地下の家族』(2019)もそうだ。絶対反論されるだろうが、筆者としてはこのオスカー映画も相当雑な部類に入る。しかし、例に挙げたこの2作はロジカルさを全面に押し出した映画ではなく、力で押し切ってしまうタイプの映画であるため、多少雑でも問題ないのだ。
 『インヘリタンス』は、冒頭に書いたとおり、主人公が父から遺産として引き継いだ「地下室に閉じ込められた男」の正体を暴いていくというスリラーだ。主人公と男の押し問答の果てに、意外な事実が明らかになるという物語。これが力なく語られていく。劇中に示される「真実は掘り起こすな」と同様、「え?なんで?」とどうしても考えてしまうのだ。モーガンが30年以上も地下室に閉じ込められるに値する理由、そしてその時間に耐えうる理由を。
 さらにローレンのエピソードに頼りすぎているのも残念なところ。モーガン以外の問題が彼女に降りかかり、それを回避すべく奮闘するローレン。だが各々の問題がとってつけたようなものなのだ。リリー・コリンズ自身は非常に真面目に演技をしているのだが、それ故にローレンが時に計算高く、時に泣き虫で、時に間抜けで、性格が支離滅裂なのだ。加えて問題にしたいのは、他のキャラクターが疎かになってしまっているという点。ウィリアムの政治的立場の問題や母親のキャサリンなどはほぼ放置である。これは非常にもったいないことだ。

サスペリア PART2

サスペリア PART2

1976年/イタリア/106分

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実はガチコメディだったのでは?

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 十分に計算されていない作品は『インヘリタンス』だけではない。近年、多くの作品でロジカルさと一貫性のなさを感じる。役者頼みであったり、ワンシチュエーションだけであったり、奇妙なツイスト頼みであったり、やたら”わかりやすい”だけであったりする。が、これほどまでにロジカルさと一貫性のなさが無視されてしまうと、最近の映画の弱点に皆が気がつくのではないだろうか?
 フォローしておくと、映画自体は及第点には達している。最後のツイストも決して悪いものではない。だが多くの意味の無い「なぜ?」が残ってしまうのだ。なかでもサイモン・ペッグは始終「キーライム・パイ」のことを口にしているのだが、これが全く意味をなさない。せめてもう少しなんとかならなかったのか?と。惜しい。実に惜しい。
 そういう意味で『インヘリタンス』は最近の映画の傾向、そして問題を直視するに最適な作品といえる。
 だが!!一つ言っておきたいことがある。本作の脚本は狂気のお笑いホラー映画制作集団”Astron-6”(ex.『ファーザーズ・デイ 野獣のはらわた』)の一員であるマシュー・ケネディなのだ。そりゃ”考えすぎ”ではいけないはずである。奇妙な一貫性のなさは、マシュー・ケネディと監督ボーン・スタインの相性が悪すぎた結果ではないだろうか?
 ボーン・スタインは、前作『アニー・イン・ザ・ターミナル』(2018)でもサイモン・ぺッグをマーゴット・ロビーと共に無駄遣いしていたような気がするが……。

ファーザーズ・デイ 野獣のはらわた

ファーザーズ・デイ 野獣のはらわた

2011年/アメリカ=カナダ/99分

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『インヘリタンス』
2020年製作/111分/G/アメリカ
監督:ボーン・スタイン
出演:リリー・コリンズ、サイモン・ペッグ、コニー・ニールセン、チェイス・クロフォード
配給:クロックワークス

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  • 6/11 5:00
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