「こんな形で終わるなんて…」男が起こした女優とのスキャンダルで、女が驚愕した真相とは

文化・流行の発信基地であり、日々刻々と変化し続ける渋谷。

渋谷系の隆盛から、ITバブル。さらに再開発を経て現在の姿へ…。

「時代を映す鏡」とも呼ばれるスクランブル交差点には、今日も多くの男女が行き交っている。

これは、変貌し続ける街で生きる“変わらない男と女”の物語だ。

◆これまでのあらすじ

渋谷で出会った梨奈と恭一。紆余曲折ありながらも、現在は互いを尊重しながらつかず離れずの関係だ。

日々仕事に邁進する梨奈だったが、カメラマンである恭一が女優と結婚するというニュースを目にし…。

▶前回:「元カレとの煮え切らない関係に、モヤモヤしていたら…」ネットで見つけてしまった、彼の“裏の顔”

2015年10月


― まさか、こんな形で私たちが“終わる”なんて。

19時。表参道が見渡せるカフェの窓際で、私は道行く人々を見つめていた。呆然としながらも、脳裏にはあのネットニュースがずっと焼き付いている。

『女優・金子あんり、カメラマンと結婚か』

カメラマンとは恭一のこと。“か”という語尾がついているゆえ、本当かどうかは分からない。

真相を確かめるために、彼に電話をかけたが繋がらなかった。そして、LINEも既読にならないのはどんな意味があるのだろう。

青山に住む恭一は普段から表参道の駅を使っている。ここに来たのは、もしかしたら彼に会えるかもしれないと考えたからだ。

「恭一…!?」

恭一に似た背中を見つけ、思わずカフェのソファから立ち上がったが、振り向くとまったく別人の男性だった。

ソファに腰をゆっくり下ろしながら、ふと我に返る。

― なんでこんなに焦っているの?互いに縛られない大人の関係でしょ?彼が誰と一緒になろうと関係ないんじゃないの?

自問自答し、心を落ち着かせようとしても無理だった。

そして、気づいてしまった。

“自由で縛られない関係”というのは、怖気づいて自分たちの間柄をハッキリさせられないことに対する、言い訳だったのだ。

結婚報道に対し、恭一が梨奈に告げた真実とは…

オンリーワンの女


このままでは埒が明かないと思い、私は彼のマンションへ向かう。だが、そこにはすでに記者らしき人々も待ち構えており、在宅でも応じてくれるような雰囲気ではなかった。

モヤモヤした気分を抱えながら、歩いて帰路につく。気づくと、ヒカリエの前にいた。

― 再会したときみたいに、彼がいたりしないかしら。

周囲を見渡すが、雑踏の中に見覚えのある顔はない。

すると、コートのポケットの中でバイブレーションを感じた。非通知なので、おそらく原稿の進捗確認の電話だろう。

「帰るか…」

ヒカリエを見上げて、ため息をつく。不安と絶望が白い息になって消えていく。気を取り直して、呼び出し続ける電話に出た。

「はい、もしもし?」


「よかった。家に入れなくて、行くところがなかったからさ」

今、私の部屋のリビングのソファには、ずっと会いたかった男がコーヒーを飲んで座っている。

操作を間違えて、非通知設定で電話をかけてきたようだ。

「…恭一、本当にあの記事はデマなの?」

私が恐る恐る尋ねると、彼は素直に答えた。

「そうだよ。彼女とは、僕が師匠の宇佐美さんの所にいたときに知り合って、仲良くしていたことはあるけど…」

「交際してたの?聞いてないんだけど」

詰問するような口調に、思わずハッとする。

彼が写真家・宇佐美康之のもとで修行していたのは、確か5年以上も前のことだ。私だって、以前は別の男性と婚約していたのだから、責めるのは間違っている。…恭一の恋人でもないのに。

しかし彼はすまなそうに私を見つめ、謝罪の言葉を口にしたのだった。

「ごめん…。でも今は何もないから。本当にデマなんだ」

その言葉で、混乱している心が徐々に落ち着いていく。私を頼って来てくれたこと。それから、謝罪の意味をじっくりかみしめた。

「本当に…信じていい?」

恭一の目を見つめ尋ねると、彼はゆっくり頷いた。同時に胸へと飛び込み、顔を埋める。彼の鼓動が高まっている。私も同じだ。

「梨奈以外に、恋人はいないから」

その言葉に、思わず顔を上げる。

「…もしかして、梨奈はそういうつもりじゃなかった?」

私は全力で首を振り、さらに強く彼を抱きしめた。

「ハッキリさせないと、と思っていたけど、梨奈は仕事の方が好きそうだし…」

彼の胸の中で、考える。

今までなぜ色々な言い訳をして、恋人になろうとしなかったのだろう、と。勇気を出せばアッサリ答えがでることだったのに…。

「一度関係が壊れたから、また同じことが起こってしまうのが怖かったの、かな」

彼の胸の中で、自分なりに得た結論を思わず口にしてしまう。すると、恭一は笑いながら言うのだった。

「壊れても、また新しく作り直せばいいんじゃない?渋谷の街みたいにさ…。僕らはきっと、離れられないと思うよ」

渋谷公会堂も閉館して解体されるが、同じ場所でまた開業することが頭によぎる。

「そうね…」

彼の言葉で、心の中のモヤモヤはいつの間にか晴れていた。

離れても、また出会う。終わっても、いつかまた始まる。私たちはそんな関係性だ。腐れ縁と言ったらそうなのかもしれない。

渋谷という場所で、私たちは同じように何度も新しく生まれ変わる。

この街に惹きつけられ、離れられないのは、もしかしたら自分と似ているからかもしれない。

ハロウィンでにぎわう渋谷の街。梨奈と恭一はその中心で…

狂騒の傍観者


恭一はしばらく、渋谷エクセルホテル東急に宿をとることになった。

そのまま私の家にいてもよかったが、原稿の締切がギリギリだと告げたところ、彼が遠慮してホテルに行くと言ってくれたのだ。

恭一が会社を通じて確認してみると、有名女優と結婚が決まったのは、別人のカメラマンらしい。噂をツギハギして生まれた誤報なのだという。

「正式な結婚発表を待って会社が抗議するらしいから、それまでじっとしててほしいって」

心配して電話した私に、恭一はうんざりした様子で語った。そして、部屋の中でひとりじっとしているのが耐えられないとこぼす。

「じゃあ私、部屋に行ってもいい?原稿終わったし」

すると彼は「来てよ」と快諾してくれた。

ホテルは、マークシティ内の駅に直結した場所にある。家から徒歩15分ほどだから、という軽い気持ちだったが、私はその日が“例の日”であることをてっきり忘れていた。


「うう、失敗した…」

ここ数年のハロウィンは、渋谷駅周辺に近づかないよう過ごしていた。

ハロウィンで賑わう人波にため息をつきながら、人と人の間を縫い牛歩で進む。ドン・キホーテで差し入れを買ってから行くと、あと30分はかかるだろう。

イライラしながらも、ゾンビやキャラクター、お笑い芸人、ハンズやタワレコの店員のコスプレをした人などのトリッキーなものまで、多くの人とすれ違った。

彼らの笑顔を訝しげに見ながらため息をつく。

― 10年前の私だったら、このお祭りに喜んで参加していただろうけど。

ハロウィンが盛り上がってきたのはここ数年。その時すでに30を超えていたせいか、私はこの若者たちのお祭りをどこか皮肉めいて見てしまう。

「イエーイ♪」

突然、進撃の巨人のコスプレをした男性からハイタッチを求められた。

「あ、イエーイ…?」

思わず応じてしまった。しかし、どこか胸が弾んでいる自分に気がついた。

― そうだ…!



「なに、これ」

「差し入れ…」

恭一の宿泊する部屋は、スクランブル交差点を上から見渡せる場所だ。狂騒にカメラを向けながら待っていた彼は、私が買ってきたモノを見て目を丸くする。

「遠くから見てるだけじゃ、つまらないでしょう」

それはチャイナドレスとサッカーユニフォームという簡単なコスプレ衣装。しかし、いざ着てみるとお互いにテンションが上がっていた。

ユニフォームを着るなり、恭一はさっそく本田圭佑のモノマネで私を笑わせる。それはどちらかというと芸人のモノマネの真似だったが、彼が見せた意外な一面に一生分の大笑いをした。

「いざやってみると面白いかも!」

「梨奈はミーハーだからな…」

「楽しんでいるだけ!せっかく渋谷の中心にいるんだから」

軽口をたたきつつ、地上100メートル近い部屋から、若者たちが混雑する風景を楽しむ。ルームサービスのオードブルとワインを傾けながら、うっすら聞こえるのはDJポリスのマイクパフォーマンスだ。

― 5年後も、こんなふうに彼と一緒にいて、お祭り騒ぎを楽しむのもいいな。

時代と流行に揉まれながら、彼の肩に寄り添う。

以前はまったく予想がついていなかった未来に、ぼんやりと希望を持った瞬間だった。


▶前回:「元カレとの煮え切らない関係に、モヤモヤしていたら…」ネットで見つけてしまった、彼の“裏の顔”

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3年後。地元に帰った梨奈は、かつての親友に衝撃のひと言を告げられて…?

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