「”母親”にならなくてもいいよね?」夫と徹底的に話し合った妻が、辿り着いた結論とは

結婚しても子どもを持たないという選択は、もう特別なものでもない。

“2人”が、家族のかたち。

明るい未来を信じて、そう決断する夫婦も多い。

それでも…悪気のないプレッシャーや、風当たりの強さに、気持ちがかき乱されることがある。

これは、3人の女が「夫婦、2人で生きていく」と決めるまでの、

選択と、葛藤と、幸せの物語。

◆これまでのあらすじ

長い不妊治療を終えた40代半ばの藍子夫婦。養子縁組まで視野に入れ、2人は将来について話し合った。同じく夫婦2人で生きていく決意をした美菜と真琴。3人それぞれの決意とは…?

▶前回:「子どもを産まないなら、その代わりに…」DINKSでいることを選んだ妻に、夫が持ちかけた提案とは


「ピラティスインストラクターと美容皮膚科医のコラボトークイベントってどうですか?」

レッスン終了後の雑談タイムに、そんな楽しい提案を持ちかけたのは、建築士の真琴だった。

「ピラティスで内側から、美容皮膚科で外側から、美と健康についてのレクチャーってみんな興味あると思うんです。今ならzoomとかでオンライン参加もしやすいですし」

「わぁ!それ楽しそうですね。ぜひやってみたいです!ねえ、藍子さん」

「やろうやろう!真琴ちゃん、さすがだね。すごく良いアイディア」

2人が乗り気なのを確認すると、真琴は安堵したように微笑んで見せた。

「私が、一番興味があるんです。藍子さんにも美菜先生にも日本中にファンがいっぱいいるので、オンラインサロンを始めたら喜ぶ女性がたくさんいますよ!」

そう言う真琴の、肌艶も血色も良い。最近は藍子の経営する美容皮膚科クリニックにも通い始め、おすすめの治療を受けているのだ。

「私、本当にこれまで美容に無頓着で、…ほら。学生時代バックパッカーなんてやってたくらいだから日焼けもし放題だったし、建築業界ってどうしても男性社会だから、今でもどうも女性らしさって忘れがちで…」

恥ずかしそうに笑う真琴の表情は、言葉に反して美しく艶やかだ。

「ま。ちょっとは夫を見返してやろうって気もあります、正直。私だって本気出せば変わるんだぞって」

全てを察した藍子と、状況がわからずキョトンとした顔の美菜。2人の表情を見比べた真琴は、思わず笑ってしまった。

初のオンラインサロンは驚きの展開へ…

美菜も、藍子も、スタジオやクリニックの業務の傍ら、メディアでも活躍している美容インフルエンサーの1人だ。

バレリーナとしての英才教育や怪我による挫折を乗り越えてきた、しなやかな強さがある美菜。医師として努力や経験を重ね、人気クリニックを経営するバイタリティー溢れる藍子。

ピラティススタジオもクリニックも、届けているのは“美容と健康”だ。言葉にするとシンプルだが、真琴はもっと強いメッセージを感じていた。

「私、健康でいること、内面から美しくいることって、生き様そのものだと思うんです。この先どんどん歳を重ねていく中で、自分がどうありたいか考えたときに、二人の存在が必要不可欠です。藍子さん、美菜先生」

藍子と美菜は目を合わせて、照れ笑いをした。

藍子は少し何かを考え込むように目を伏せると、ゆっくりとした口調で語り出す。


「私たち、3人とも子どもを持たない、夫婦2人の人生を選んだって共通点があるわよね」

つい先日、なんのきっかけからか、いつの間にかそんなことを語り合ったのだ。

藍子は長年の不妊治療を卒業。美菜は自らの意志で。そして真琴は夫婦で話し合った結論として、子どもは持たずに2人で暮らそうと決めた。

藍子の言葉を聞いて、美菜と真琴も頷き合う。美菜は20代、真琴は30代、藍子は40代だ。世代も職業も何もかも違うが、それぞれの環境で潔い決意をした3人は、不思議と絆のようなものを感じていた。

年下の友人たちに向かって、藍子は温かい視線を交互に送りながら、話を続けた。

「結婚しても子どもを持たない人。逆に、結婚せずに子どもを持つ人。これからの時代、選択肢はどんどん増えると思うのよ。それでもやっぱり私の世代だと、子どもがいない夫婦は少数派。だから、風当たりも少しはあるわよ。だからこそ年長者として、様々な選択をする女性の風除けになりたい」

美菜と真琴は結局子どもを望まなかったが、藍子はそうではない。大きな悲しみを乗り越えて決断に至った藍子だからこそ、言葉の一つ一つが慈愛に溢れていた。

「大げさかもしれないけど、私が身をもって知ることができた経験も、発信していきたいと思ってる。真琴ちゃん、美菜先生。協力よろしくね」

藍子の言葉を聞き、しっかりと思いを受け取った美菜と真琴は大きく頷いた。

そして3組の夫婦が選んだ道へ…

真琴プロデュースの元、藍子と美菜が開催したオンラインサロンは大きな反響を呼び、メディアからの取材も殺到した。

10代で体を壊した美菜は、過度なダイエットや身体を酷使する危険性をしっかりと伝えた。藍子は医師としての視点を交えて来る更年期障害への心構えなどを語り、各世代の女性たちへ真摯に想いを告げた。

「いつまでも若くいたいという気持ちと、年相当で自然体でいたいという気持ち、どちらも正解。今日と明日で気持ちが日替わりなのも、感情にムラがあるのも、人間らしくて素敵なことです。ただどちらも健康あってこそ。自分の体、そして心の声に常に耳を傾けていてくださいね」

その言葉を聞いて、美菜と、カメラを回す真琴も、同意を告げる微笑みを見せた。きっと画面の向こうにいる多くの女性たちも、その言葉に大きくうなずいているだろう。

子育てをしている人も、そうではない人も、みんなの選択肢が尊重される。美しく心も健やかに生きることは、シンプルで尊い願いだ。

この展開に一番驚いているのは、初孫の誕生に目尻を下げる、美菜の夫の篤彦だった。

「藍子ちゃんが美菜の生徒だったってだけでびっくりなのに、2人でオンラインサロンを開催するなんて、夢にも思わなかったよ」

旧友の藍子と、結婚したばかりの20歳年下の妻が一緒に活動をしていること。40代にしておじいちゃんになること。人生がいかに奇想天外か、篤彦が語るとずいぶん説得力がある。

そして美菜と藍子は、また大きな計画のために建築士の真琴に仕事を依頼していた。

それは、新しいスタジオの開設のための内装リフォームだ。今の恵比寿のスタジオは、働く女性を生徒の中心としている。だが二店舗目は、子連れでも気兼ねなく来られる、ママや妊婦さん向けクラスを中心に考えているのだ。

自分の母親との確執が原因で、子どもが欲しいという気持ちにこれまでなったことがない美菜だったが、それは裏返せば「傷つく子どもが増えて欲しくない」ということでもある。

「私は、子どもが大好きなんですよ」

迷いなくそう言う美菜の想いを受け止めて、真琴は設計プランを練る。

「私は、今は夫との再構築が精一杯。子どものこととか全然考えられないけど、いつか子どもが欲しいって日が来るのかな…」

真琴の揺らぐ想いも、美菜と藍子は受け止めた。

「気が変わるのは、全然悪いことじゃないのよ。自然が一番。ただし、不妊治療経験者として言わせて。残念ながら、時間は有限。仕事に夢中になる気持ちはすごくわかるけど…」

藍子は美菜に視線を送る。そして美菜が、言葉を続けた。

「心と体の声に、しっかりと耳を傾けてくださいね」

3人は、笑顔を交わし合う。


20歳年上で孫がいる夫を持つ、美菜。

共同経営者の夫の不倫から再構築中の、真琴。

不妊治療を経て、夫と絆がさらに深くなった藍子。

全く違った3人それぞれが決意したのは、家族構成、夫婦2人。

それは家族の基本の形。

やめるときも健やかなるときも、手を取り合い、未来を見据える。

子どもがいてもいなくても、幸せはいつだってこの手に抱くことができるのだ。


fin.


▶前回:「子どもを産まないなら、その代わりに…」DINKSでいることを選んだ妻に、夫が持ちかけた提案とは

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