『大豆田』ED、セカンドヴァースで解き明かされる物語の意味―とわ子はなぜ離婚と結婚を続けるのか

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 笑えないことが毎回起きているにもかかわらず、何気ない日常を映すかのごとく淡々と進むドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系)。回を追うごとに予想だにしない方向へと展開し続けてきた。残すところ2話で新たな局面を迎え、最後の盛り上がりを予感させる。

 松たか子が歌うエンディング曲「Presence」のラップパートは、1話から順にKID FRESINO/BIM/NENE/Daichi Yamamoto/T-Pablowといったラッパーが起用され話題となっている。

 また、元夫役の松田龍平/角田晃広/岡田将生らもラップに参加するパートもあり、サプライズに富んだ曲が毎回エンドロールで公開されてきた。放送後にリリースされるそれら楽曲を楽しみにしている視聴者も多いだろう。

※以下、最新話である8話までの内容への言及を含みます

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 前回の7話終盤では、小鳥遊(オダギリジョー)のサイコパスじみた一面が明らかになる衝撃のエンディングだったが、8話では彼の過去が明らかになり、仕事では別人のようになる理由も詳らかとなった。

 元夫たちが話の中心から(文字通り)追い出されてしまった回だからこそ、彼らの視点が読み取れるエンディング曲は、短いスピンオフ作品のように味わえる。とわ子と小鳥遊が急接近した後、エンディングで映る鹿太郎(角田晃広)の背中に哀れみすら感じた人も多いのではないだろうか?

 前回のエンディング曲は、順当にNENEと角田による「Presence III」のセカンドヴァース。ドラマで使用されたバージョンはイントロと差し替えられているのだが、セカンドヴァースに入る部分で「Throw back and think 5 Minutes」とNENEは囁いている。前半は角田のエネルギッシュなラップもあって前向きな印象であったが、後半は立ち止まって自身を振り返るような流れに変わる。特に角田のラップの変化は必聴だ。

 では1つひとつ、楽曲に込められた思いを読み取っていこう。

 ビートが4つ打ちのリズムへと変化する点は、Chemical Brothersとの共演やGOA、JODYなど4つ打ちのトラック上でラップすることが多いNENEにSTUTSが寄せたかのようだ。

 そして「自信を持っていえるBest life/ふざけてるつもりは1ミリもない」というラインは、堂々としていて華もありNENEらしい。とわ子の視点をNENEなりに表現したラインでもあるのだろう。

 とわ子は3度の離婚を経験してはいるが、立派な家に住み、会社の経営を任され、しっかり者の一人娘を育て上げている。まさに「自信を持っていえるBest life」だ。しかし、3度の離婚歴を恥じる意識だけでなく、本人は至って真面目なのだが(ラジオ体操がどうしても合わないなど)。他人から見ればズレてしまう性格も自認している。そんな不器用な一面を、「ふざけてるつもりは1ミリもない」とNENEはシンプルに表現している。

 ちなみに、ここでアドリブにRyugo Ishida(ゆるふわギャング)らしい声が、遠くで聴こえる。

 とわ子は社長に就任したばかりとはいえ、経営者らしからぬ柔らかな性格が災いして社員に翻弄され、詐欺やハラスメント、会社の買収など「修羅場」を経験する。しかし、それらが「いっとき」のように淡々と通り過ぎて次のステップへと向かっていく。その様子が「修羅場はいっときの踊り場で」となるのだろう。加えて角田が演じる鹿太郎が、とわ子と社交ダンス教室で出会った過去への目配せも、「踊り場」という言葉選びから感じ取れる。

 「約束は永遠の永遠」。これはBIMが「Presence II」でもライムしていたように、「とわ子のとわは永遠の永遠(とわ)?」だとしたら、約束はとわ子にとって永遠かのように続いていることを指しているとも考えられる。では、約束とは何か。今週の8話に、こんなやり取りがあった。

 終盤で、とわ子が小鳥遊を自宅に招いたシーン。小鳥遊から社長を続ける理由を問われ、かごめとの約束と答えてしまうとわ子。小鳥遊がそれを掘り下げようとすると、とわ子は急いで話を切り上げ、答えたがらない。なぜだろうか。それは今しがた自分が否定した小鳥遊の生き方は自分にも通じると、答えた後に急に気がついたからだろう。小鳥遊は社長への恩義を背負いすぎて自分の幸せを犠牲にしていた。ではとわ子は、かごめの言葉を背負いすぎて社長をしているのか。社長である限り、とわ子は幸せを追い求められないのか。ここはストーリーの着地として、気になる点のひとつだ。

 また、小鳥遊はとわ子に「やはり結婚生活はよくないものなのか」とも問う。とわ子はひとりでも生きていけると踏まえた上で、「何もしてないのに、明るくて音楽が鳴っててあたたかいっていうのに憧れます」と、独特な表現を絞り出すように答える。これがNENEによって「今思えば2人でいたの贅沢」というストレートでシンプルなリリックに圧縮されている。

 続く「網戸をFix 繰り返す生活」とは、もちろん、とわ子の家の外れやすい網戸を踏まえているのだが、それだけならば「Fix」を「繰り返」さないはずだ。

 1話でとわ子は、網戸が外れるたびに結婚生活を恋しく思うと言う。つまり、『まめ夫』において、網戸を直す作業とは結婚生活のメタファーである。そして、3人の元夫だけでなく、他の男性もとわ子に結婚を迫っては実らずに終わるばかりの様子を「繰り返す生活」と短く言い表しているのだろう。

 こうしてみると、先週のBIMのラップは仕掛けを解くような楽しさがあるが、NENEは直感的な表現で言葉を極限まで削いでおり、聴く者が肉付けをして解釈を広げることができる。同じドラマのエンディング曲でも、ラッパーにはそれぞれのスタイルがあることを語る上で、教材のような好例だ。

 続く「糸は切れても切れない絆」。糸は前半のヴァースで「糸って赤だけじゃないみたい/青も黄色もあって絡み合う」の部分でも出てくる。これは5話で元夫がそれぞれ赤/青/黄色の服を着て同時に現れたシーンから、糸は3人の元夫の暗喩であるとわかる。そして「どっかでバッタリ会ったりするじゃん」とは先の読めなさを言い表しつつも、8話で八作(松田龍平)と小鳥遊が道端で偶然ぶつかるシーンも想起させる。

 そして、鹿太郎のラップパートだ。ゆるふわよろしく、Ryugo Ishidaのようにオートチューンを使ったラップで、前半の熱くリズミカルなフロウ(歌い方)とは別人のようにメロウで対照的。「Are you happy/それが俺の幸/可愛く聞こえるお前のしゃっくり」の、しゃっくりとは言わずもがな、劇中でとわ子が鹿太郎との家族とうまく行かないときに出るサイン。

 鹿太郎との結婚生活が続かなかった理由は、いわゆる嫁姑問題であったが、それを解決できなかった鹿太郎は、とわ子の幸せを尊重して離婚を受け入れた。普段、身の回りに対しては極端に器の小さい鹿太郎。しかし、とわ子に対しては見返りのない愛を今も注ぎ続けている。

 対して突き返すように、「2度あることって3度あるんでしょ?/男と女違う生き物でしょ?」とラップするNENE。確かに、鹿太郎との離婚でバツ2となったとわ子は、3度目の離婚も経験した。それよりも特筆すべきは「男と女違う生き物でしょ」のほうだ。当たり前のようでいて、これをハッキリと言うことは、実は非常に難しい。

 なぜ難しいのか。ここでドラマ本編とはトピックが外れてジェンダーとラップの話を手短にさせてほしい。

 ラップの特性は、楽器が弾けず、歌に自信がなくても曲を作れる点にある。それゆえラップは、詩や物語のように言葉の芸術としてメッセージを伝えられる。そしてラップが人気になればなるほど、今までは大衆に届かなかった声が多くの人に届くようになり、虐げられている者たちのエンパワーメントの一端を担う。

 音楽ライター・高木”JET”晋一郎氏による「ちゃんみな、あっこゴリラ、valkneeの楽曲を聴いて40代男性ヒップホップライターが我が身を振り返って考えたこと」(https://note.com/tv_bros/n/nd21917010477)にわかりやすく解説されているように、ラップは今も女性蔑視や差別用語がほかのジャンルに比べ多用される音楽だが、そういった風潮をシーン一体となって是正してゆく流れも昨今生まれてきている。

 だからこそ、男女は違う生き物だと吐く主張は、『まめ夫』のストーリーを踏まえているがために言える、パンチラインになり得るのだ。

 そして同時に、鹿太郎の次の素敵な2小節「君に寄り添って何度でも/どんな失敗にも花束を」を引き立てる、NENEの最高のパスでもある。離婚したって、どんなに塩対応をされたって、褪せることない憧れをとわ子へ伝え続ける鹿太郎。しかもオートチューンとは、歌声を“補正”するツールであることを踏まえると、鹿太郎の「僕にとってあなたは高嶺の花です。あなたを下から支えることはできます。僕があなたを持ちあげます」「花束を抱えているようです」という、とわ子の人生を“補いたい”かのようなプロポーズを思い起こさせる。

 また、鹿太郎と花束といえば、もうひとつエピソードがある。ひとりオフィスで残業するとわ子へ、鹿太郎が花束を届けたシーンだ。

 余談だが、そのときとわ子が悩んでいたのは、デザインが秀逸でも予算がオーバーする計画を不採用にしたことで生まれた孤立だった。それでも今、とわ子は買収先から利益を追及する為経営体質への変化として、社長解任を迫られている。そう考えると会社経営の難しさと社長という孤独さを、少しだけ理解できる気もする。

 最後の2小節「それぞれの道で扉を開いてる/逆算はせずに歩き始めてるの」は、行く末がまったく予想ができないドラマのストーリーをなぞらえているのだろう。1拍空けることでフック(サビ)のコーラスに弾みがつくところも聴き心地が良い。

 このように今回も「Presence」シリーズのラップは、ドラマの要素を丁寧に汲み取ったリリックであった。

 それでも、7話のエンディングでBIMのリリックの中でも解けない部分が残っていると書いたが、そのひとつが岡田将生演じる慎森による「この先もどうせ進まない要件」は解けそうだ。

 慎森の言う通り、とわ子に社長解任を迫る小鳥遊は自滅するかもしれない。では、プライベートで急接近したとわ子と小鳥遊は、どのような関係に変化するのか? 八作の結婚相手とは?

 ストーリーにばかり気が向かってしまうが、Daichi Yamamotoが誰をキャメオ出演させるのかも楽しみだ。Jazzy Sportが映るのか、Aru-2やKMが出るのか。はたまたロンドンの頃から曲をともに制作していたJJJもあり得るかもしれないと、筆者は妄想している。

  • 6/8 13:00
  • サイゾー

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