ジャンプのスタート前と着地後の変化が見どころと『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』飯塚健監督が語る

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1998年長野オリンピック、日本はスキージャンプ団体で大逆転の金メダルを獲り、歓喜に沸きました。田中圭主演『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』はこの栄光を陰で支えた25人のテストジャンパーたちの知られざる感動秘話です。ドキュメンタリーでこの事実を知り、映画化した飯塚健監督にお話をうかがいました。

<作品概要>

主人公はスキージャンパーの西方仁也(にしかた・じんや)。1994年のリレハンメルオリンピックスキージャンプ団体戦で“日の丸飛行隊”のメンバーとして日本代表を牽引するも、エース原田雅彦のジャンプ失敗で金メダルを逃し、長野オリンピックでの雪辱を誓い日々練習に励み、代表候補として有力視されていながら、惜しくも落選。テストジャンパーとなり日本代表選手たちを裏方として支えた人物。

物語は、西方の金メダルへの強い想い、それを打ち砕く挫折、原田との友情、怒りと嫉妬、それでも仲間の為に、日本の為に、命の危険を顧みずテストジャンプに挑む、深い人間ドラマを映し出す。

主人公・西方仁也を演じるのは田中圭。その他、西方を支える妻・幸枝を土屋太鳳、テストジャンパーのメンバーとして、聴覚障害がありながらも、国際スキージャンプ競技大会で優勝した実在の選手・高橋竜二を山田裕貴、ケガを負ったことでトラウマを抱えた南川崇を眞栄田郷敦、女子スキージャンプがオリンピック種目になかった当時、テストジャンパーとしてでも長野オリンピックに参加したいという熱い想いを持った実在の選手・吉泉(旧姓:葛西)賀子をモデルにした、唯一の女子高校生ジャンパー小林賀子を小坂菜緒(日向坂46)、日本代表選手・原田雅彦を『カメラを止めるな!』でお馴染みの濱津隆之、同じく日本代表選手で今なお現役のレジェンド・葛西紀明を落合モトキ、テストジャンプコーチ・神崎幸一を古田新太が演じて脇を支える。

主題歌「想いはらはらと」はMISIAが担当。MISIAと初コラボレーションとなる川谷絵音(ゲスの極み乙女。)が作詞作曲した。また、挿入歌はMAN WITH A MISSIONが担当している。

監督には、『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』で大きな注目を集め、様々な分野で才能を発揮する映像作家・飯塚健。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

<あらすじ>

長野オリンピック・ラージヒル団体で日本初の金メダルを狙うスキージャンプチーム。そこに、エース原田のジャンプを複雑な想いで 見つめる男、元日本代表・西方仁也(田中圭)がいた。前回大会・リレハンメルオリンピックで、西方は原田とともに 代表選手として出場するも、結果は銀メダル。4年後の雪辱を誓い練習に打ち込んだが、代表を落選。失意の中、テストジャンパーとして オリンピックへの参加を依頼され、屈辱を感じながらも裏方に甘んじる。そして迎えた本番。団体戦の1本目のジャンプで、 日本はまさかの4位に後退。しかも猛吹雪により競技が中断。メダルの可能性が消えかけた時、審判員たちから提示されたのは、「テストジャンパー25人全員が無事に飛べたら競技を再開する」という前代未聞の条件だった。

命の危険も伴う悪天候の中、金メダルへのかすかな希望は西方たち25人のテストジャンパーに託された。

監督業に専念し、どれだけきちんとできるかを試したかった

――本作の企画のきっかけからお聞かせください。

長野オリンピックのスキージャンプ団体で日本が金メダルを獲った舞台裏には25人のテストジャンパーの存在があり、そのメンバーの中にはリレハンメルオリンピックでは代表選手だった西方さんがいた。このことをドキュメンタリー番組で知り、映画にすべきだと思ったのがそもそもの始まりでした。東日本大震災後の自分自身が励まされたので、この話は時を経てもきっと誰かの背中を押す力があるはずだと思いました。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――監督はこれまでほとんどの作品で脚本も担当されていますが、今作は杉原憲明さんと鈴木謙一さんにお任せしていますね。

この作品は監督に集中したかったんです。と言うと格好良いのですが、実際は兼任をできる企画じゃないと思ったのが一番です。

自分の監督としてのキャリアは40代からが第二章という意識があり、そのスタートが『ステップ』で、その次がこの企画でした。『ステップ』も違う意味で思い入れがあり、脚本もやっていますが、こちらは“監督業だけをどれだけきちんとできるか”を試したかった。脚色はしましたが、実話がベースになっているので、とにかく【客観】でいようと努めていました。

もちろん脚本のアイデアも出しています。西方の「落ちろ」というセリフから始まること、高橋竜二を演じた山田裕貴くんの「聞こえたよ」というセリフなどがそうですね。。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

ジャンプのスタートを切るところと着地後にドラマを集約

――スキージャンプはスタントの方がされていますが、130mの高さにある実際のスタートゲートからの滑り出しまでと着地直後のシーンは俳優のみなさんご本人が演じていたとのこと。撮影はかなり苦労されたのではありませんか。

スタートゲートまでの階段は想像以上に急で、かなり危険な状況。カメラマンや演出部といったスタッフも命綱をつけていました。映画の現場では誰かがぱっと動き出すことがよくあるのですが、踏み外したら連鎖してドミノ倒し状態になってしまいます。とにかく急がない。撮影を巻かなきゃいけないときも「絶対にいきなり動かない」と絶えず共通意識を持っていました。

ジャンプ台は駆体が大きいので、着地地点からスタートゲートに行くのはエレベーターやリフトに乗る時間を含めて、身軽に行っても15分ほど掛かります。ですから1本のジャンプごとに場所を変えて撮っていくわけにはいきません。スタート台付近を撮る日、着地地点を撮る日と分けて、何十本ものジャンプをまとめて撮りました。そのためスタート台付近を撮る日は朝から晩まで、130mの高さにいることになる。1月、2月で風が強く、気温が低かったので、その日は皆疲弊しましたね。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――スタートゲートをセットにすることは考えなかったのでしょうか。

その案も出ましたが、この作品の場合は実際のスタートゲートでがんばった方がいいという結論になりました。

ボクシングの映画なら、打たれた瞬間の顔のアップが撮れます。しかしジャンプの滑降中はやっている人が違うので、いくらカッコつけるカット割りしても嘘の時間。ドラマチックになりえません。そこでスタートを切るところと着地後にドラマを集約すべきだと考えたら、セットにするという発想は消えました。

見た目や話し方を似せるのではなく、あくまで脚本と向き合う

――主人公の西方仁也を演じたのは田中圭さんです。キャスティングの決め手はどんなところでしょうか。

西方はオリンピックのメダリストで、次は地元開催にもかかわらず、自分だけ候補から落ちる。最悪の事態なのに、テストジャンパーをやらないかと誘われた。テストジャンパーをすることになっても気持ちが晴れず、最後のジャンプをするまでうじうじしている。この設定では、ともすれば西方はとても嫌なやつに見えてしまいます。

しかも西方は自分から発信する言葉がほとんどありません。強いて言えば、終盤に引退するというくらい。周りが発信したことを受け取っていくのが主の人物です。その中で変化していかなくてはならない。

この役を嫌われないように演じられ、受ける芝居が豊かなのは誰なのか。結果、田中圭さんでした。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――田中さんに初めて会ったときの印象をお聞かせください。

すごく忙しいはずなのに、疲れたところを見せず、とても明るい男だなと思いました。現場にもいつも「お疲れ様です!」と大声で入ってくるんです。

実は共通の知り合いが多く、辿ると連絡できるくらいの距離感。初めてだからといって特に構えることはありませんでした。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――西方という実在の人物を演じるにあたり、話し方などはかなり寄せていかれたのでしょうか。

いえ、まったく。準備中、西方さんには何度もお話をうかがいましたが、西方さんご本人に縛られたくなかった。西方さんの話が映画の骨格ですが、映画では脚本と向き合うことが大事です。その話を田中さんにしましたし、彼もそう思っていたと思います。ですから、見た目や話し方を似せることはしていません。

ただ原田さんだけは別です。知っている人があまりに多いので。

演出の微差を感じ取って表現できる田中圭

――監督からご覧になった田中さんの俳優としての魅力はどんなところでしょうか。

柔軟性です。予め用意したプランに対し、別のアイデアを提案しても、、頑なにならない。芝居は、やってみてわかることもある。むしろその方が多い。あの手この手をいくつか試して、違っていたら止めればいいだけ。そのためにテストがあるので。現場をよく知っている人だなと思いました。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――違うと分かると、さっと別の演技をしてくれたということですね。

同じ設計図を見ているので、まったく違うというわけではないです。プランAとプランA+αみないなこと。演じているときには微差ですが、スクリーンで見ると大きな違いになる。ベランダでパラボラアンテナを1㎜動かすと空の向こうでは何千キロと離れてしまうみたいな差ですね。すごく小さいαの話をしているけれど、この先々で何かをもたらす。そこまで話をしていないのに分かってくれているのか、臆さずにその微差を感じ取ってくれました。

ジャンプのスタート前と着地後の変化が見どころ

――土屋太鳳さんが演じた西方の妻・幸枝は男性にとって、理想の妻なのではありませんか。土屋さんをキャスティングした決め手はどんなところでしょうか。

西方にとって、止まり木になる女性として描きました。羽を休める場所がないとあのやりきれなさは乗り越えられません。土屋さんはいつも元気で明るい方でした。常に子どもにも寄り添ってくれました。

夫婦のシーンでは細かな演出はしていません。ただ、幸枝が「今日、外食にしない?」という話はその場で足しました。あの流れだったらそういうことを言う奥さんがいいなと思ったのです。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――高橋竜二を演じた山田裕貴さん、南川崇を演じた眞栄田郷敦さんは運動神経が抜群です。テストジャンパー役をお願いしたのはそういったことも含めてでしょうか。

たまたまですね。よくてよかったという感じです(笑)。

どんよりしているメンバーが多い中、高橋竜二は唯一、陽の存在。しかも田中さんが芝居的にも寄っ掛かれる人って誰かと考えたときに裕貴くんが頭に浮かびました。信頼している俳優です。あの役をやってもらうのに彼ほど適性のある人はいないと思いました。。

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

ジャンプの渦中はテクニカルを使えばカッコよくすることはできますが、そこにドラマは生まれません。130mのジャンプ台からスタートを切った人間が1本のジャンプを終えたとき、どんな変化があるのか。着地したところで誰かが待っていてくれるかもしれない。スタート前と着地後の変化が見どころです。


(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

飯塚 健

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

映画監督。脚本家。1979年生まれ、2003年、『Summer Nude』でデビュー。若干22才で監督を務めたことが大きな反響を呼んだ。以後、『放郷物語』(06)、『彩恋 SAI-REN』(07)など青春の切なさを生き生きと描く映像作家として頭角を現す。代表作に『荒川アンダーザブリッジ』(11ドラマ、12映画)、『大人ドロップ』(14)、「REPLAY&DESTROY」(15ドラマ)、『笑う招き猫』(17ドラマ、映画)、『榎田貿易堂』(18)、『虹色デイズ』(18)、『ステップ』(20)など多数。また、ブルーノート・ジャパンとのライブショウ『コントと音楽』プロジェクト、MV、小説、絵本の出版とボーダレスに活動。
最新作は映画『FUNNY BUNNY』。


『ヒノマルソウル~舞台裏の英雄たち~』

(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会

出演:田中 圭、土屋太鳳、山田裕貴、眞栄田郷敦、小坂菜緒 (日向坂46)/濱津隆之/古田新太
監督:飯塚健 
脚本:杉原憲明、鈴木謙一
主題歌:MISIA「想いはらはらと」(Sony Music Labels) 
挿入歌:MAN WITH A MISSION「Perfect Clarity」(Sony Music Labels)
(C)2021映画『ヒノマルソウル』製作委員会
2021年6月18日全国東宝系にてロードショー

映画『ヒノマルソウル 〜舞台裏の英雄たち〜』公式サイト

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