永瀬正敏さん、オダギリジョーさんはセリフのないところが抜群と『名も無い日』日比遊一監督が語る

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永瀬正敏主演の『名も無い日』が公開されます。歌手で女優の今井美樹が13年ぶりに4作目となる実写映画出演を果たしたことでも話題になっています。自らの実体験に基づき、生まれ育った名古屋市熱田を舞台に撮った日比遊一監督に、作品に対する思いやキャストについてうかがいました。

<作品概要>

高倉健さんを題材としたドキュメンタリー『健さん』や、樹木希林さんが企画・出演した『エリカ38』などで知られる日比遊一監督の最新作。カメラマンでもある日比遊一監督の実体験に基づき、3兄弟の運命を描いた。

主人公の達也役を演じるのは永瀬正敏。カメラマンとして海外で暮らし、弟の訃報に名古屋市熱田区に舞い戻る。自ら破滅へ向かっていく生活を選んだ次男・章人役をオダギリジョー、健気に兄達を支えてきた三男・隆史を金子ノブアキが演じる。

撮影は『エリカ38』でもタッグを組んだ高岡ヒロオ、音楽は『健さん』に参加した岩代太郎が担当した。

<あらすじ>

名古屋市熱田区に生まれ育った自由奔放な長男の達也(永瀬正敏)は、ニューヨークで暮らして25年。自身の夢を追い、写真家として多忙な毎日を過ごしていた。

ある日突然、次男・章人(オダギリジョー)の訃報に名古屋へ戻る。自ら破滅へ向かってゆく生活を選んだ弟に、いったい何が起きたのか。圧倒的な現実にシャッターを切ることができない達也。三男(金子ノブアキ)も現実を受け止められずにいた。

「何がアッくんをあんな風にしたんだろう?どう考えてもわからん。」
「本人もわからんかったかもしれん。ずっとそばに、おったるべきだった。」

達也はカメラを手に過去の記憶を探るように名古屋を巡り、家族や周りの人々の想いを手繰りはじめる。

生死は人間にとって避けられないテーマ

――本作は思いもかけない状況で家族を亡くした兄弟、親族が喪失感に苦しみ、乗り越えていく姿を描いた作品です。ご自身のプライベートな出来事がベースにあるとのことですが、なぜ敢えて映画にしたのでしょうか。

ある日、突然、弟が亡くなりました。僕はそれまで好き放題生きてきたので、弟の生活の跡を目の当たりにした時、自分がこれまでにしてきたことを考え、罪悪感に苛まれました。どうしようもない自分の想いを書き貯めていきました。死んでしまった弟に手紙を書いたこともあります。そんなことを繰り返していくうちに、今、自分が向き合っていることは、実はもっと根本的なことで、普遍的なものではないかと思い始めたのです。

人間には一つの共通項がある。それは、この世に生まれてくること、そして死んでいくことです。それは好き嫌いの問題ではない。受け入れる受け入れられないということでもない。人間にとって避けられないテーマです。

そんな弟の死が、自分の中で突然一本の木の幹のようなものとして生え始めたのがきっかけでした。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――映画を撮ることで監督ご自身は悲しみから立ち直れましたか。

弟の死によって出来た作品。兄として、一人の人間として、そしてアーティストとして、どう受け止めるべきか正直定かではありません。「オレの題材で、映画を撮りやがって、、、自分だけかっこいい思いをして」なんて思っているかもしれません。なかなか消化は出来ていません。本当は作品ともしっかり向き合う時間が取れないのかもしれません。これから先、少しずつ感情が湧いてくるんじゃないかと思っています。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――残されたほかのご家族は映画化に反対されたりしなかったのでしょうか。

一番下の弟はこの作品のプロデューサーで、一緒に作りました。精神的にも常に一緒にいてくれたことがかなり助けになったと思います。しかし、劇中に出てくる稲葉家(実際に存在する親戚)は、この映画を作るにあたり、いろいろと葛藤があったことと思います。

原風景である熱田神宮や平和公園、堀川に伝えたい言葉と刻みたい風景がある

――2018年5月25日に熱田神宮会館で行われた制作発表で「名古屋を舞台にした映画はあまりないので、いつか名古屋で映画を撮ろうと思っていた」と答えていらっしゃいました。

この映画の企画を持って、映画会社を回りました。どの会社もそれなりの興味を持ってくれたのですが、私の中でしっくり来ないことが幾つかありました。その1つが、このストーリーを東京を舞台に出来ないのかということでした。

しかし、それはどうしても受け入れられなかった、、、僕には伝えたい言葉がありました。刻みたい風景がありました。それは僕の原風景である熱田神宮や平和公園、堀川であり、明治神宮や青山墓地、神田川ではなかったということです。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――名古屋で撮らせてくれる会社が見つかってよかったですね。

今作は製作までは映画会社が入っていません。まずは地元の同級生が手を挙げてくれました。彼が立ち上がってくれたことで、彼の後輩2人が立ち上がってくれました。しかし、それでも予算が足なかったので、地元の某有名レストランの若旦那を訪ねてお願いし、彼が受け入れてくれたことで、映画とは全く縁のなかった4人のお陰で、完成まで導いてくれた、、、この作品は奇跡の連続で出来上がった映画です。

熱田神宮には劇映画としては初めてカメラが入った作品になります。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

一瞬に込められた魂は ”明鏡止水”の如く表現される

――主人公の長男、小野達也を永瀬正敏さんが演じています。永瀬さんをキャスティングした決め手をお聞かせください。

三人兄弟の話なので、軸になる主人公が決まらないとほかの兄弟も決められない。そんなことを考えているときに偶然、テレビを通して永瀬さんが写真家であることを知り、そのカメラの構え方を見て、この人しかいないと思いました。「カメラを構える」と脚本に書かれていても、カメラという小道具との距離感が分かっていないと取ってつけたようになってしまうのです。もともと俳優として、すごく尊敬をしていましたし、いつか一緒に仕事をしたいと思っていたのですが、写真家であることをセリフで説明しなくても伝わるということが、私にとって重要でした。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――初対面の印象をお聞かせください。

穏やかで、礼儀正しく話しやすい方でした。何度かお会いして、お互いの人生を語り合い、達也を引き受けていただきました。

――そうやって話を重ねていきながら、達也の役を作っていったのでしょうか。

特にこうしてくださいとこちらから話してはいません。私という存在を観察された上で、永瀬さんの中にある写真家の部分や体験してきた人生で僕と一致していた部分を見つけていかれたのではないかと思います。

――監督ご自身を演じてもらうのは演出しにくい部分もあったのではありませんか。

永瀬さんに対してだけでなく、役は俳優さんに託しています。どういう画がほしいかを僕は監督として分かっているけれど、そのために細かく指示を出すということはしません。俳優さんが作ってきた役について調整するだけ。彼らが思うテイクを撮らせてもらって、そこに問題がなければそれでいい。現場に入ってからあれこれ言うのではなく、事前の話し合いで伝えたいことは伝えていたつもりです。

これはスタッフに対しても同じ。キャスティングは俳優だけでなく、カメラマンや照明、録音、美術といったスタッフも含めて考えています。作品に対する解釈は人それぞれ。例えば赤という色も美術さんが選んだ赤と僕が考えていた赤では違うこともある。しかし、そこに違和感がなければそのまま使います。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――永瀬正敏という俳優について、今、どのように思ってますか。

永瀬さんは国内外のたくさんの作品に出演されているので、当然彼なりのメソッドを持っていると思いますが、それだけでなく、持って生まれた+αもある人なんだなと思いました。

”段取り”をしているときはある種、不器用とも思える程に「こうするんですね」、「こう動くんですね」と細かく確認されるのですが、アクションが掛かると同時に、まるで達也という人間が彼の中に乗り移ったような感じでした。一球入魂。そのずば抜けた集中力があるからこそ、一瞬に込められた魂は ”明鏡止水”の如く表現されるのだと思います。

泣くシーンをとても美しく表現した今井美樹

――次男の章人をオダギリジョーさんが演じています。オダギリさんの撮影時の印象をお聞かせください。

当時、オダギリさんは同時進行でまったく違うタイプの役をやっていると聞いていました。もしかしたら切り替えが簡単ではなかったかもしれませんが、演技を超えた、繊細さを見せてくれました。
永瀬さんもそうですが、セリフのないところが抜群でしたね。画の中で、ただそこにいるだけで語りかけられるようなモーメントになる。いい俳優ってそういうことだと思います。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――今井美樹さんが『象の背中』以来13年ぶり、実写作品としては4作目となる映画出演をされています。

僕らの世代では今井美樹さんはスターですよね。心に傷を負った明美という地味な役を今井さんみたいなスターが演じたら、どういう風に表現してくれるんだろうかとワクワクしながら想像していました。

脚本をお渡しするところまでは何とかなり、その後、ご挨拶だけということで、ロンドンに住む今井さんとスカイプで話すことになりました。後から聞くところによると、今井さんは断るつもりだったそうです。僕はどうして今井さんでなければいけないのかを必死に語りかけました。1時間くらいしたところで、「分かりました。1000本ノックでお願いします」と引き受けていただきました。自分が持つ情熱をぶつけるしかなかったのですが、その気持ちが伝わったのだと思います。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――現場での今井さんがいかがでしたか。

この映画には泣くシーンがたくさん出てきます。僕にとって「泣く=清める」という意味ですが、とても美しく表現していただきました。今井さんの中に今までのイメージにないものへのチャレンジという想いがあったのではないでしょうか。覚悟の上で現場に来てくれたのを感じました。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

画の外の風や匂いを感じるモノづくりを心掛ける

――監督は写真家でもあるわけですが、映画を撮るのと写真を撮るのでは被写体に対する向き合い方は違うのでしょうか

僕としては捉え方に違いはありません。どちらも彫刻みたいに触れられるものではないし、熱を感じられるものでもない。彫刻は360度見られますが、映画も写真もフラットなので、例えば、どうやったら画の外の風や匂いを感じることができるのかといったモノづくりを心掛けています。

ただ僕の場合、写真は1人で撮りますが、映画はチームワーク。そこが違いますね。

(c)2021「名も無い日」製作委員会

――これから作品をご覧になる方にひとことお願いします。

私自身の私小説から始まった作品ではありますが、コロナという目に見えない敵が憚る中、みなさんも命の尊さを改めて考えていると思いますので、みなさんの物語でもあります。ぜひ大切な方と一緒にご覧いただければと思います。


(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

日比遊一

(c)2021「名も無い日」製作委員会

愛知県名古屋市出身。20歳で渡米後、ニューヨークにて写真家として活動。作品はアメリカのゲティ美術館を始め、世界各国の重要なコレクターに収集されている。
米ニューヨーク・タイムズ紙は日比の作品を「夜景に映し出されたその “沈黙と孤独” は、瞑想によって達することの出来たエクスタシーのようなものを感じさせてくれる」と評した。
2014年に初の長編映画 『ブルー・バタフライ』 が完成(2017年日本公開)。IFP(The Independent Filmmaker Project)は本作を2014年デビュー作の中のベスト25に選んだ。
高倉健の人生風儀を描いた映画『健さん』(脚本・監督)は、2016年、第40回モントリオール世界映画祭ワールド・ドキュメンタリー部門最優秀作品賞を受賞。
樹木希林が企画した映画『エリカ38』(脚本・監督)は、主演の浅田美代子が「ロンドン・イーストアジア映画祭2019」審査員特別賞を受賞。

『名も無い日』

(c)2021「名も無い日」製作委員会

監督:日比遊一
出演:永瀬正敏、オダギリジョー、金子ノブアキ、今井美樹、真木よう子、井上順、藤真利子、大久保佳代子、中野英雄、岡崎紗絵、木内みどり、草村礼子
2020年/日本映画/124分/カラー/ シネマスコープサイズ/5.1ch
配給:イオンエンターテイメント、ジジックス・スタジオ
(c)2021「名も無い日」製作委員会
愛知県、岐阜県、三重県先行公開中!
6月11日(金)より、シネマート新宿ほか全国公開

映画「名も無い日」公式サイト|2021年6月11日全国公開 5月28日東海3県先行公開

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