有名建築家のビル、公共施設「使い勝手は最悪」。アート先行の問題点とは

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◆ゴーストタウンになった有名建築家の商業ビル

 2016年までレギュラー放送されていた『大改造!!劇的ビフォーアフター』(朝日テレビ系)を観たことがある人ならば、一度はそう考えたはず。自宅をリフォームするドキュメンタリーの中で「匠」と呼ばれる建築家が、今後のメンテナンスを考えない設備やモニュメントのようなものを備え付ける様子は放送のたびに話題になっていた。

 だが、現代社会では家をリフォームしなくても日常の中で誰もが使い勝手を考えない建築家の身勝手に迷惑をかけられるものだ。最近、コロナ禍で商業施設のテナントが撤退する中で図らずも注目を集めてしまったのが、京都市の繁華街・木屋町にあるタイムズビルだ。

 4月にフランスのレジオン・ドヌール勲章コマンドゥールを受賞したことも報じられた建築家・安藤忠雄氏の設計した商業ビルの代表格といわれるコンクリートの壁面が目立つ独特の外見の建物だ。かつてはハイブランドがこぞって入居していたが、近年は半分近くが空室に。そして、コロナ禍の影響もあってか残っていたテナントも撤退し、繁華街の中のゴーストタウンとなっている。以前から、デザイン性の高さの一方で入りづらさが指摘されていた建物だが、コロナ禍でついに終焉を迎えたようだ。

◆東大生から不評を買う建物

 数々の栄典を得て現代建築の第一人者としての地位を確固たるものにしている安藤氏だが、芸術としての評価の一方で使い勝手の悪さを指摘する声は尽きない。もっともよく聞かれる批判は、コンクリートむき出しの外観と、ガラス貼りの多用。そして、雨どいのない屋根である。東京都文京区にある安藤建築の代表作のひとつである東京大学情報学環・福武ホールは、これらの問題点をすべて兼ね備えた建物とも言われている。

「平たい屋根なので、ちょっと強い雨が降ると雨が滝のように地面に向かって流れ落ちてきます。おまけに屋根の下には地下階へ繋がる露天の外階段があるんです。滑りやすくて危ないし陽が当たらないものだから、年中ジメジメしてます。そのせいか出来てから10年ちょっとなのに(註:2008年竣工)、もう劣化して補修してる部分がありますよ」(卒業生)

 この福武ホール、キャンパス内の道路に面した側はすべてガラス貼りになっている。なのに建物と道路の間にはコンクリートの壁が建てられて、道路側からの視界を塞いでいる。見せたいのか見せたくないのか、意図を図りかねるデザインだ。

◆アートの島と呼ばれる直島では……

 この福武ホールは、ベネッセホールディンクス名誉顧問の福武總一郎氏の個人寄付で建設されたもの。福武氏はアート活動に多額の資金を投じた人物として知られ、瀬戸内海に浮かぶ離島・直島(香川県)はリゾートホテルを備えた美術館・ベネッセハウスを持ち世界から人が訪れるアートの島として知られている。

 しかし、その風聞はあくまで一面的なものだ。数年前に筆者が島を訪問した際に地元の人がことさらに悪罵を投げつけていたのが、フェリーターミナル「海の駅 なおしま」だ。

 ガイドブックや旅行系サイトを観ればデザイン性の高さやアートの島の玄関口としての称賛が並ぶ建物は、妹島和世氏と西沢立衛氏の建築家ユニット・SANAAによるもの。安藤的な一枚屋根と全面ガラス貼りが特徴的な建物だ。島の人々が批判するのは、ガラス貼りだ。

「観光だけでなく普段は地元の人が使う公共施設だから、住民向けのお知らせなんかを掲示する施設でもあるわけでしょう。ところが見栄えを気にしてガラスのところにはポスターを貼ってはいけないことになってるんです。ついたてを利用して掲示をしたりはしてますが、面倒です。書類や道具をしまっている段ボールを隠すのも大変ですし、丸見えには何年経っても慣れませんよ」

 アート性を重視しすぎた結果、日常に不便を来す典型例といえる建物だ。

◆国立競技場は欠陥だらけ!?

 安藤氏と並ぶ現代建築の巨匠として知られる隈研吾氏も木材を内にも外にも並べるデザインが評価される一方で、最近は頻繁なメンテナンスが欠かせないことが指摘されるようになってきている。

「杜のスタジアム」をテーマとして掲げて設計した新国立競技場は、既に様々な意見に晒されているが、もしこのまま五輪が開幕したとしたらどんな結果をもたらすのか。

◆現代建築の被害を受けまくる施設は図書館

 とにかく使い勝手の悪さは利用者の側が補えといわんばかりの現代建築。とりわけ公共施設では税金を投入することの言い訳か建物そのものを見物する客をあてこんでか新奇なデザインを選択する事例が後を絶たない。それは、今や実害も及ぼしている。中でも被害が著しいと指摘されるのが公共図書館だ。

 今年2月にネット発の話題となったのが長野県のJR茅野駅に隣接する茅野市民館図書室。2005年に出来たこの建物は建築家・古谷誠章氏の設計で日本建築学会賞・日本建築家協会賞・日本芸術院賞など多くの賞を受賞している建築だ。

 ところが、この図書室で書棚に並ぶ蔵書の背表紙がほぼすべて、日に焼けて青っぽく退色してしまっていること明らかになり「図書館機能としてはアウト」「本が大切にされない図書館とは」と厳しい批判を浴びたのである。本が日に焼けた理由は建物のデザインだ。書棚が並ぶフロアの東西両側は壁ではなくガラス貼りである。一日の長い時間、蔵書が陽の光に晒されるのは一目瞭然である。『朝日新聞』長野版2021年2月21日付の記事では高地である茅野市では紫外線が強いことも理由として挙げているが、原因が建物なのは明らかだ。

 もともと、この図書室は「オープン型図書室」というテーマで外に向かって本を見せるデザインで建築されたという。茅野市民館のサイトでは『「茅野市民館」の取組経過』というページを設けて市民参加で設計から決めたことを説明しているが、誰も「本が傷む」と指摘しなかったのだろうか。

◆デザイン性の高い図書館は図書館としては使えない

「近年オープンした各地の建物デザイン性が評価されている図書館はほぼすべて図書館としては使えない建物といっても間違いないですよ」

 そう話すのは各地の図書館長などを歴任してきた西河内靖泰氏。これまで図書館問題研究会図書館の自由委員会委員長なども務めてきた図書館の抱える諸問題を知る人物である。

「公共図書館を建築する時に地域の人にはデザインは光を取り込む開放的なものがウケがちです。本が傷んでしまうことを危惧する人は無視されがちです。加えて、有名な建築家に設計してもらうと、どんなに珍奇なものでも発注している役所の側も文句がいいにくいんです」

 本が日に焼けると傷むのは常識。神保町の古書店街が靖国通り沿いの北向きにあることからもわかる。にも拘わらず図書館となると本が傷むような現代建築が採用されてしまうのは、どういうことなのだろうか。

 本を傷める図書館は後を絶たない。今年2月にリニューアルオープンした荒川区立尾久図書館は日光にも配慮しているとしているが、やはり本を傷めそうな光を取り込む巨大なガラス窓が目立つ。とりわけ中2階の部分には使い途のない書棚が大窓に貼り付けられているし、図書館自体も「散歩型図書館」をコンセプトに公園を散歩している人が通り抜けできるように「本のみち」を中心に書棚を配置したという謎の設計。もはや「図書館は本を読むところ」という前提すら忘却されている。

 この図書館を設計した類設計室は現在、工事が進んでいる中央区の新たな図書館・本の森ちゅうおうも受注しているが、公開されている外観のデザイン画は、絶対にやってはいけない全面ガラス貼りという有様。

「芸術と建築は違うという基本は忘れ去られがちです。こうした建物を観てると図書館に限らず公共建築は早めに傷んだほうが業者が儲かるという前提でつくられているのではないかと思いますよ」(前述・西河内氏)

 普段遣いする人は誰も幸せにならないアートとしてもてはやされる現代建築。だが、その裏では実用性が犠牲にされていることも少なくはないようだ。

〈文/昼間たかし〉

【昼間たかし】
ルポライター。1975年岡山県に生まれる。県立金川高等学校を卒業後、上京。立正大学文学部史学科卒業。東京大学情報学環教育部修了。ルポライターとして様々な媒体に寄稿。著書に『コミックばかり読まないで』『これでいいのか岡山』

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