「リアルな即興性で競い合う公平な大会を作りたかった」日本のバトルシーンの立役者・MC漢×MC正社員のロング対談<ダメリーマン成り上がり道#43>

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 戦極MCBATTLE主宰・MC正社員が、MCバトルのシーンやヒップホップをビジネスやカルチャー面から語る本連載。今回からは漢 a.k.a. GAMIとの対談を全5回で掲載。プレイヤーとして、そして大会のオーガナイザーとして、日本のMCバトルシーンを牽引してきた漢と、その姿に触発されて自身の大会を作ってきたMC正社員が、シーンの今と昔、そして未来を語り合う。

◆「人の上に立つワルの目はやっぱりキレイ」(MC正社員)

MC正社員(以下、正社員):「僕と漢さんと初めて会ったのは2012年の『THE罵倒2012 FINAL』なんですよね。そこで『戦慄MCBATTLEやっている正社員です』と声をかけたんですけど、覚えてますか?」

漢 a.k.a. GAMI(以下、漢):「覚えてない。でも正社員のことは知ってたよ」

正社員:「僕はその日はじめて話したとき、漢さんの目がむちゃくちゃキレイだったことまで覚えてます!」

漢:俺の目、キレイだろ?

正社員:「お世辞じゃなくマジでキレイですね(笑)。そのとき僕は会社員だったので、『人の上に立つワルい人って、こういう目をしているんだな』って感じたのを覚えています」

――2012年当時、正社員さんはもうMCバトルの主催者だったわけですよね。漢さんたちが2005年に立ち上げたUMB(ULTIMATE MC BATTLE)はどのような存在だったんでしょうか。

正社員:「MCバトルにハマったきっかけだし、青春ですよね」

漢:「UMBはいつから見てるの?」

正社員:「DVDはたぶん2005から持っていて、現場に足を運んだのは2008からですかね。僕がMCバトルに本格的にハマったのは、2007年の大晦日に川崎クラブチッタで『DELUX RELAX 年越し SPECIAL“鉄則”』というイベントを見てから。そこでPUNPEE対回鍋肉のバトルを見て『MCバトルってヤバい!』って思ったんです。

 それでUMBも見るようになったし、MCバトルの主催者としても影響をガッツリ受けてましたね。UMBを見まくったうえで、『こうすれば大会が盛り上がるんだな』『自分のイベントはこういう方向にしよう』と考えて、自分なりに発展させたMCバトルの大会が『戦極MC BATTLE』だと思ってるので。

 あと2011年から、UMBの埼玉予選もやらせてもらいましたよね。漢さんはウチの現場には来なかったですけど、当時のUMBはマジでいろいろ怖かったです。『ヒップホップってマジでこういう世界なんだな』って驚きました」

漢:「こっちは激動だったからね。でも俺自身は人当たりもいいと思うし、そんなに怖くないでしょ。サグ系のラッパーのなかでは結構かわいいほうだと思うけどね」

◆「堂々とパクられすぎて怒る気もしない」(漢)

――漢さんのなかで「戦極MC BATTLE」はどういうイベントという印象ですか?

漢:「シーンが大きくなるなかでは大会ごとにオーガナイザーの色が出てきたけど、戦極もそのひとつですよね。戦極だから出場しやすいヤツもいるし、戦極だから本領発揮できるヤツもいる。KOK(漢の9sari Groupが主催するMCバトルの大会『KING OF KINGS』)とはぜんぜん違う大会だけど、違いがあるのはいいことだと思う」

正社員:「戦慄・戦極が出てくる前って、『結局はどの草バトル、UMB以外の大会もUMBで勝つような人が勝つ』って状態だったと思うんですよ。でも戦慄は、はじめてUMBとは違うタイプの人が勝つ大会になったと思う。今は凱旋MCbattleとかMRJとかの若い大会では、やっぱり若いヤツが多く出るし、若いヤツが勝ちやすい状態ですけど、当時はそういう大会もなかったから」

漢:「たしかに戦極はMCバトルがテレビで放送される前に、一般層をいち早く取り込んだ大会だったかもね。あと正社員はもともと会社員なだけあって、すぐ人のマネをする。しかも堂々とパクってくるから、こっちもオリジナルな発想をどんどん出さなきゃいけない。お互いスキルが向上していいんじゃないかな」

――そんなにあからさまなんですか(笑)。

漢:「本当にそう。俺らが『全国で大会をやる』って言ったら、『戦極も全国でやろうと思ってて……』とか言いはじめるから。『こいつイカれてんのかな』って感じるくらい真っ直ぐにね。

 でも、結局はどこの主催者も『全国で一番の大会をやりたい』って思ってるし、目指すところは一緒。いろいろな大会があっていいし、それぞれが成長すればいいと思うよ」

正社員:「僕はたしかに……いろいろとパクってますね(笑)」

漢:「すごいと思うよ。本当あからさま

正社員:「若手のオーガナイザーには『俺パクるからな!』って伝えますから」

漢:「こっそりやるんじゃなくて堂々と言うからさ、こっちも『……うん?』みたいな反応になっちゃうし、怒る気がしないんだよ。そういう正社員のキャラクターはシーンの共通認識になっていて、『まあ正社員だからな』みたいな感じもある」

正社員:「ちょっと、印象が悪い人みたいじゃないですか(笑)」

漢:「実際、決してよくはないよ

◆リアルな即興性で競い合う公平な大会を作りたかった

――漢さんがUMBを始めたときは、当時のMCバトルの代名詞的大会だったB BOY PARKのMCバトルに対して、「もっとこうしたらいいのに」という気持ちがあったんでしょうか。

漢:「『この大会の優勝者が本当の日本一なのかな』という疑問はもちろんあった。それで実際にB BOY PARKで日本一を獲った俺が、『新しい大会をやろう』って人を集めたら、絶対に人が集まると思ってたし、うずうずしているMCも多かった。あとUMBはエントリーも制限なしで開催した初めての大会だったと思う」

――今のMCバトルでは「8小節×○本で先攻・後攻が切れ目なく入れ替わる」といったルールが一般化していますが、B BOY PARKのときはそうじゃなかったんですよね。

漢:「お互いに一分ずつフリースタイルする形式だったね」

――しかも、その一分と一分のあいだに時間が空いちゃって、後攻がより有利になる状況があったそうですね。

漢:「そういうルールはおかしいし、公平じゃないと思ってた。だから俺が作ってきた大会は『いかにMCにとっても公平か』『どれだけリアルな即興性で競い合えるか』という部分を大事にしてる。今のKOKは『MC視点で作るMCのための大会』だから。

 これは正社員にも言ったことあるんだけど、戦極は『お客様のための大会』だと思うんだよね。『いい/悪い』の話じゃなくて、MCバトルのエンターテインメント性の部分を広げる大会。そこは俺がやってきた『MCのための大会』と違う。

 KOK は『MCが一番いいコンディションで戦える大会』でありたいと思ってるし、実際にMCにはKOKのシステムが好きな人が多い。『一番公平な大会』と思っている人も多いと思う。自分が過去のMCバトルで感じてきた苦痛をどれだけMCに与えずに、グッドコンディションでやらせることを大事にしている大会だね。

 あとKOKには『優勝したら3か月はほかの大会に出ないでくれ』という規約もある。その期間は、スターになるためのアフターケアをして、仕事も持ってくるようにする」

◆「MCファースト」にこだわるKOK

――優勝して、「ハイ、おめでとう」というわけじゃないんですね。

漢:「なぜかといったら、日本一を決める大会のチャンピオンには成功してもらわないと困るから。あと、日本一になった直後に小さい大会で負けられても困るしね。KOKは売れるためのきっかけも作りたいし、プロ意識を高める場にもしたいと思ってる」

正社員:「でもKING OF KINGS 2020で優勝した呂布さん(呂布カルマ)は、普通に別の大会にすぐ出てましたよ?」

漢:呂布さんはもう呂布さんだから。この規約は売れてほしいタイミングの若いコとか、無名のコに対する規約ね。呂布みたいにブランドがあるヤツとか、KOKで一回優勝してるヤツとかは、『もう自分の道が開けているんだから、好きにやれ』って思ってる

――そういった部分が大会の独自性に繋がっているのかもしれませんね。

漢:「俺は海外のMCバトルをいろいろ見てきたし、英語はわからないけど大会のシステムの研究もしてきた。それで向こうのやり方もどんどん取り入れた。アカペラバトルは韻踏合組合が日本で初めて取り入れたシステムだけど、あれもアメリカでは普通にやってたものを輸入したものだよね。

 ただ、アメリカのMCバトルを見ていても、『これはアメリカだから合うシステムだな』と感じるものもあった。言葉や文化が違うとラップのテンポも時間の割り方も変わるから、細かな部分の調整は、日本にいる俺が思う普通の感覚を重視した。

 あとは『どれだけ先攻・後攻が公平になるか』というのも考えた。たとえば『後攻は有利になる面があるから、先攻のヤツがビートを選べるようにしよう』とかは自分がもともと持っていたアイデアです」

――どこまでもMC視点で大会を作ってきたわけですね。

<構成/古澤誠一郎>

―[ダメリーマン成り上がり道]―

【MC正社員】
戦極MCBATTLE主催。自らもラッパーとしてバトルに参戦していたが、運営を中心に活動するようになり、現在のフリースタイルブームの土台を築く

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  • 日刊SPA!

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