書道家・武田双雲「“楽じゃない”と感じるのは、自分を愛していないから」生きるヒントをくれる人間力

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 僕の人生を文字に書くとしたら、それは『楽』です。自分自身、楽しく、楽でいたいし、できることなら、誰かを楽しませたいし、楽をさせたい。

 そう思ったのは、書道家として独立した20年ほど前のことです。独立したのはいいけれど、いったい何を目指せばいいのか、分からない。

 もしミュージシャンだったら、いつかは東京ドームでコンサートとか、野球選手だったらメジャーリーグとか、起業家だったら上場とか、何か目標があると思うんですが、書道家として何も見つからなかったんです。

 そこで、目指すものを漢字一文字にしてみようと思いました。そして、いろいろな文字を書いてみて、“これだ!”と思ったのが『楽』でした。

 考えてみたら、僕は子どもの頃から、ずっと「どうやって楽しもうか」と考えては、行動に移してきました。振り返っても、落ち着きがない子どもだったと思います。

 就職してからもそれは変わりませんでした。通勤を楽しくするためにカプセルホテルに泊まり込んでみたり、グリーン車に乗ってみたり、面白い柄のネクタイをしてみたり……。だって、これから何十年も働くわけだから、一秒たりとも「つまらない」なんて、思いたくないじゃないですか。

 その中の一つに“メモを毛筆で書く”というのもありました。墨をすりながら電話を取って、伝言があったら筆で書くわけです。

 すると、そのうち「部署の目標を書いてほしい」と言われるようになって、あるときには他の部署の女性が「私の名前を書いてもらえませんか?」とやってきた。

 喜んで書いたんですが、そうしたらその女性が泣くんです。「感動しました。これまで自分の名前が嫌いだったけど、好きになれました」って。

 それまでの僕は自分が感動するばっかりで、人を感動させたのはこのときが初めて。だからビックリして、僕も一緒に泣いてしまいました。

 そして、その場で辞表を書いて、上司に持っていったんです。「僕は名前を書く人になります」と。

 彼女以外にも、自分の名前が好きじゃないとか、しっくり来ていない人はたくさんいると思ったし、もし100人に1人でも感動してくれるのだったら、今すぐにでも名前を書きたいと思ったんですね。

■アートも人生も「いきあたりばっちり」

 僕は、自分を「ADHD(多動性症候群)」だと思っていますが、この特徴は、多動性と衝動性です。じっとしていられず、なんでも衝動的にやってしまう。だから僕は、書道家として20年間、ずっと衝動的に書いています。常に、練習なしの一発本番。大河ドラマの題字も、美空ひばりさんのアルバムの字も、そう。筆を持ったら、腹をくくるしかないんです。

「書」を書くのは、とても楽しいことです。でも以前、テレビでそう言ったら「書道は楽しむものじゃない」という投書がたくさん来てビックリしました。僕にとっての「書」は、楽しくて衝動的なもの。数年前から描いているアートは、さらに衝動的です。描き始めるまで、自分でも何を描くのか分からない。だから描きながら、驚きの連続です。

 僕は、アートも人生も「いきあたりばっちり」(笑)。もし今、生きていることが『楽』ではないと感じている人がいたら、この言葉を書いて差し上げたい。『ご自愛ください』

 楽しくない、楽じゃないのは、自分を愛していないから。自分自身とイチャイチャして、自分を大好きになって、自分がかわいいと思う。たとえポンコツなところがあっても、ポンコツな自分でさえも愛しいと思う。

 そうすれば、『楽』は向こうからやって来ると、僕は思っています。

武田双雲(たけだ・そううん)
1975年6月9日生まれ。熊本県出身。3歳より、書家である母・武田双葉に師事し、書の道を歩む。大学卒業後、約3年間のサラリーマン生活を経て、書道家として独立。以降、独自の創作活動で注目を集める。映画『春の雪』『北の零年』、NHK大河ドラマ『天地人』、スーパーコンピューター『京』、『美空ひばり』など多くの題字を手がける一方、現代アーティストとしても数多くの作品を発表している。

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  • 6/2 11:00
  • 日刊大衆

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