デブ、チビ、ハゲはネタにできない?芸人の容姿いじりはどこまで許されるのか

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◆かつてのお笑い界は容姿いじりが当たり前だったが……

 今月14日、「不毛な争いをなくそう」と記載し、男性アナウンサーの頭髪を揶揄したポスターを制作した大阪司法書士会が「配慮が不十分だった」として、自主回収を行った。一部の会員から「身体的な特徴を揶揄するような内容で不快だ」と指摘があり、結果的に自主回収する事態となった今回の騒動。こういった”容姿いじり”に関する話題は、ここ数年でお笑い芸人のネタにも変化をもたらしているようだ。

 かつてのお笑い界では、容姿いじりは当たり前のように行われていた。他の芸人からのいじりだけでなく、容姿にまつわるネタを賞レースで披露しても、そこに何一つ違和感は生まれなかった。有名なネタをひとつ挙げると、2005年のM-1グランプリで優勝したブラックマヨネーズは、漫才のオチに「いつも行ってる皮膚科の先生」を登場させ、吉田の肌をいじった自虐ネタが組み込まれている。紹介VTRでもまた、吉田の肌と小杉の毛髪を「モテない2大要素」と紹介されたが、番組からの容姿いじりが話題になることはなかった。

◆芸人から「反容姿いじり」の声が上がる

 徐々に世間が容姿いじりに対して敏感になっていき、炎上もしばしば見受けられるようになったのはここ数年のこと。2018年には、相席スタート 山崎ケイの著書「ちょうどいいブスのススメ」がドラマ化されたが、"ブス"という言葉に対して視聴者からクレームが入り、「人生が楽しくなる幸せの法則」というタイトルに変更された。

 また今年は、3時のヒロインの福田麻貴が「私達は容姿に言及するネタを捨てることにしました!」とツイートし、それがワイドショーに取り上げられて話題を呼んだ。その際、EXITの兼近が「お笑いはサーカスだなっていうのがすごく感じていて。上の世代の方々はサーカスをしていて、だからナイフを投げても当たらない。これは危険な行為だから一般のところでやると怪我するに決まってるんです」と発言し、共感の声がネット上に多数寄せられた。

◆お前はもうひとネタ持ってる……けどな

 この「容姿いじり論争」に関して、答えはあるのだろうか。芸人たちの育ての親として、数多くの芸人を育て世に送り出した吉本総合芸能学院(通称:NSC)の講師、本多正識さんに話を伺った。数々の人気芸人を育てただけでなく、オール阪神・巨人の漫才を38年も作り続けているという”裏方のプロ”は、昨今の容姿いじりをどう考えているのだろうか。

「かつては、デブ・チビ・ハゲのような身体的特徴は、芸人としての武器になったので、身体的特徴のあるNSCの生徒には『君はもうひとネタ持ってるから、それを武器にできるよ』と教えていました。でも最近は、『ひとネタ持ってる』と教えた後に『でもな、迂闊に使うと炎上するからネタの使い方には気をつけて』とアドバイスしています。

 いじってほしい芸人が多いし、それで笑いをとるのは常套手段だったのですが、時代が変わり、世間が差別的な発言を許さなくなりました。今でも身体的特徴は芸人にとって武器になるとは思います。しかし、若い芸人が早い段階で炎上してしまうと、萎縮して才能が潰されてしまうパターンがあるんです。だからなるべく炎上しないよう、どのようにネタを作ったらいいのかを指導しています」

 ネット上には「容姿いじりはいじめを助長する」といった声が見受けられる。番組的には盛り上がりを作っている自虐のネタでさえ「不愉快だ」という声も増えてきた昨今。今のお笑いに求められるものは全く変わってしまったのだろうか。

「芸人は身体的な特徴をネタにするときに、高度な技術が必要です。例えば若かりし頃のオール阪神・巨人のネタで、身長の低い阪神さんがアンケートに答える際…巨人:『(年齢は)いくつですか?』阪神:『35です』巨人:『1メートル?』阪神:『誰が身長の話してんねん!年齢や!』みたいなやり取りがありました。このような形で、いかにさりげなく、そして面白く料理していくかという技術が、今後はより一層必要となってくるでしょう。

 今の世間には、直接的にデブ・チビ・ハゲと言ってしまうと嫌な思いをさせてしまうので、それをいかに自然な流れで生かしていくかが、今のお笑いに求められていることだと思います」

◆容姿いじりを一蹴してしまうのは簡単だが……

 世間の声が簡単にネット上で浮き彫りになるようになった現代で、お笑い界は変わり続けている。そういった声は、やり過ぎだったあの時代から、「まともになっている」とも言えるかもしれない。ただ、容姿いじりを「差別だ!」と一蹴し、倫理的に抹殺してしまうのは少し残念な一面もある。先日放送されたラジオ番組にて、オアシズの光浦靖子はこんなことを語っていた。

『田舎にいるときは、自分でブスですなんて言えなくて、隠さなくちゃいけないことだと思っていたんです。10代で初めてお笑いライブを観たとき、そういったことを武器にして、中央でスポットライトを浴びている姿をみて、もう目から鱗で……。こんなに素晴らしい手法があったのかと。この世界をユートピアだと思った』

 芸人の容姿いじりは、簡単に「差別」という言葉が使われるようになった。しかし過度な抑え込みは、逆にコンプレックスを抱えていじめにあっている子供から、お笑い界という大逆転の場を奪ってしまっているとも考えられる。許容される範囲が狭まり、芸の幅、そして人が生きていける世界の幅が狭くなっていることも、世間の人は考えなければいけない。

〈文/セールス森田〉

【セールス森田】
平成生まれのパチンコライター。CS放送のパチンコ番組などに出演する際は、信頼度のパーセンテージを他の事柄に例えるネタを披露している。現在はweb媒体を中心に活動中

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