中村倫也が溜めた涙『珈琲いかがでしょう』奥に広がる最終話の余韻

「珈琲いかがでしょう」

たこ珈琲で青山がそう問いかけることが、本当に素敵なことだったんだ。



中村倫也が主演を務めたドラマ『珈琲いかがでしょう』(テレビ東京系)の最終話が放送されて一週間。余韻に浸りながら、何度も味わって、その奥深さにまた感動。「胸の奥がじんわり」「素敵なエンディングだった」「なんだあの最後の涙…!!」と反響のあった最終話は、とても劇的でとても穏やかだった。今夜の放送はないけれど、どこかで青山とぺいが移動珈琲屋を営んでいることを想像しながら、もう少しだけ味わっていたい。



恐ろしく美しい金髪姿の青山(中村倫也)。幸せを運ぶ“ぽわぽわした珈琲屋の兄ちゃん”の過去はヤクザだったというこの作品最大のギャップは、ドラマ後半で血なまぐさいシーンを多々映し出してきた。心を殺さなきゃやってらんない仕事、離れるなんてできっこないと思う場所にいた青山が、たこじいさん(光石研)の珈琲と出会ったことで、その世界から抜け出して移動珈琲屋になった。


そんな青山の過去の終着点で描かれたのは、愛情。青山を追っていた“黒幕”のぼっちゃん(宮世琉弥)は、幼い頃「ずっと一緒にいる」と約束してくれた青山が組をやめ、自分を裏切ったと思っていた。

しかし、そこには、自分に目もくれたことなんてないと思っていた父親・二代目(内田朝陽)からの深い愛情と、それを守ろうとする青山や夕張(鶴見辰吾)の愛情が。二代目の死の発端は“せがれ”。しかし、「あいつの重荷になっちまうから」という二代目の思いを守り、青山と夕張はずっと真実を隠してきた。組をやめるとき、青山はぼっちゃんとの約束を守り2本の指を捧げ、「ずっとそばにいてやれなかった俺の代わりに、どうか、守ってやってください」と夕張に託す。

「人に愛される才能がない」と思っていたぼっちゃんは、とんでもなく深い愛に包まれていた。


誰のことも大事に思えず散々人を傷つけてきた青山が、ぼっちゃんを大切に想っていた。きっと、たこじいさんが青山を大切に想っていたように。


青山が移動珈琲屋をする目的は、たこじいさんが教えてくれた珈琲をたくさんの人に飲んでもらうことと、“情報収集”の為。じいさんの骨をじいさんが愛していた奥さんと同じ墓に入れてやりたい。それを叶えるための情報収集。

アニキの永遠のラブをゲットしたいぺい(磯村勇斗)と、「今後の青山さん及び、青山さんの移動珈琲店を全身全霊で支えていくつもり」の垣根(夏帆)も一緒に辿り着いたのは、たこじいさんの妻・幸子(市毛良枝)のところ。幸子が珈琲を淹れるのを見る青山の目には、とても奥の方で涙が滲んでいるように見えた。垣根にとっては青山の珈琲と同じ味。青山にとっては、たこじいさんの珈琲と同じ味。ぺいにとっては…やっぱり苦い(笑)。

幸子はその珈琲に、青山から受け取ったたこさんの喉仏の骨を砕いて入れて、飲んで言った。

「これで、たこさんは私の一部です。」



“移動珈琲屋になりたい”というたこじいさんの夢、それはもともと幸子が言い出した夢だった。「そいつはいい。最高じゃねーか!さっちゃん!」ふたりで移動珈琲屋をやりたいというふたりの夢。その夢を、ふたりの味を継いだ青山が体現している。

移動珈琲屋・たこ珈琲で、青山が淹れた珈琲を幸子が飲むシーンは何度観ても、いや観るたび余計にグッとくるものがある。たこさんが幸子の一部だと思うとなおさら。驚くほど歌詞がリンクする、小沢健二のオープニングテーマが終盤のここで流れる。底辺の過去から抜け出した青山が、たこさん夫婦の夢だった移動珈琲屋で、その味を引き継ぎ、たこじいさんの大切な人に淹れる珈琲。そんな珈琲が青山を大切に想う垣根やぺい、初めて会ったたこじいさんの孫にも届く。


「どうせなら、小粋にポップにいきたいからね」というたこじいさんの残した思いが行き着いた景色。そこに集う人たちが、それぞれの想いを噛みしめる。「たこさんの珈琲の味」「青山さんの珈琲は特別においしいです」「うん、おばあちゃんの珈琲も美味しいけど、この珈琲も。」「(にがー。)」。決して派手なシーンではない。しかしこれまでのストーリーを思い返せば思い返すほど、心の奥で感動が広がって、深い味わいを醸し出す。静かに青山の目に溜まった涙が、それを表しているかのように思えた。


ドラマ『珈琲いかがでしょう』をこんなにも味わい深く楽しめたのは、この壮絶な過去から繋がる幸せへの希望のストーリーと、それを演じるキャスト陣の最高の演技があってこそだろう。


最終話で青山がぼっちゃんの胸ぐらをつかんで、「淡々とオシャレな暴力?ねえよ、そんなの」と詰め寄る場面は、漫画っぽさと人間っぽさ、しかも美しさすら漂う。

常軌を逸した真っ黒な目も、川岸での思いつめたような表情も、「何この表情!」と思わず言いたくなるような、中村倫也ならでは心揺さぶる瞬間がたくさんあった。もともと原作のビジュアルが似ているという以上に、中村倫也だからこそ掬い取れた表現が少なからずあったのだろうと感じてしまう。


そこに、少々ぶっ飛んだキャラの垣根とチンピラだけどなんだか可愛いぺい。

演じた夏帆と磯村勇斗も愛されるキャラクターにぴたりとハマり、緊張を緩和してくれたり、クスッと笑わせてくれたり。(Paraviオリジナルストーリーでは、ぺいのカワイイ一面がさらに爆発していたりもするのでぺいファン必見!)


さらに、たこさんを演じた光石研。特に第6話は「神回」との声が多数上がるほど、中村との血の通った芝居をじっくり堪能できる。ぼっちゃんを演じた宮世琉弥も、絶妙な可愛さと恐さと脆さで、原作ファンの期待に応えた。


そして毎話豪華なゲストが登場したが、どの回もしっかりと心に刻まれる名演。各話の情景とストーリーがそのキャストとともに鮮明に思い出されるのではないだろうか。



そんなすべてが繋がって、最後に辿り着いた最っ高にポップな景色。その景色は、決して特別な人だけが手に入れられるものではない。ちょっとした心意気とやり方次第で未来は変わってくる。ほんのちょっとの加減で。


苦しい時もある。どうにもならないと絶望することもある。でも、たこさんのような心意気でいたら、少し明るい未来が作れるんじゃないか。少し幸せを感じられるんじゃないか。そう信じてみたくなる。だから、時々たこさんの言葉を思い出そうと思う。

「隙を見て、なんっでも腹抱えて笑ってやるんだ。こんな世界ポップにしてやったぞー!ってな。」



文:長谷川裕桃


■『珈琲いかがでしょう』
最終話 5月24日(月) 23:06~23:55

©「珈琲いかがでしょう」製作委員会





関連リンク

  • 5/31 17:45
  • dwango.jp news

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます