「なんで、既読にすらならないの?」週末に音信不通になる男に恋した、28歳女の苦悩

女は、会っている時間に愛を育み、男は、会えない時間に愛を育てる…!?

平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると、「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

1st week 「出会い」 ―月曜日―


「海斗さんって、土日は何してるんですか?」

初対面の相手へのありきたりな質問。

でも、返ってきた答えは意外なもので、笹本美加(28)は興味をそそられた。

「土日は…ほとんど仕事をしてますね」

はにかんだ笑顔で釘宮海斗が言う。二人がグラス片手に立っているテラスに、心地良い夜風が吹いた。

「あれ?海斗さんのお仕事って…」

「脚本家なんです。わかりますか?」

― もちろん、わかる。ていうか、好き。

美加は、クリエイティブな仕事をしている男性がタイプだ。

― 沙希さん、ありがとう!

祝日の夜に開かれたホームパーティーは、会社の先輩・相島沙希が主催した。カレシと新築マンションに引っ越したことを祝う会だった。

リビングからテラスに出ると、そこに海斗がいて話しかけたのだ。実は彼を一目見たときから、クリエイティブな人が持つ独特のオーラを感じ、興味を持った。

「わかります!脚本ってドラマとか映画とか…ですよね?」

「そうです。会社員じゃなくてフリーランスなので、多くの人とはカレンダー感覚が違うんですよ」

前カレと別れて1年が過ぎ、美加はそろそろ新しい恋がしたいと思っている。遠回しに海斗が独身であることを確かめると、すかさずLINEを交換した。

その夜の帰り道、美加はスキップをしてみた。

いつかまた恋が始まりそうになったとき、そうしようと思っていたからだ。

惚れっぽい美加は、恋の沼にはまっていく…!?

―火曜日―


美加は、芝公園近くのIT企業でアプリの開発をしている。

最近は、社内全体で出勤率を30%以下に抑えるために出勤日が決められているから、今日もテレワークだ。

おかげで同僚の目を気にすることもなく、海斗とLINEできる。

ノートパソコンで執筆する海斗は、常にLINEをPC上で立ち上げているらしく、返事が早い。

美加はLINEのラリーを続けながら、パーティーで交わした会話も含め、海斗の個人情報を整理する。

海斗は、鎌倉出身の32歳。付属中学からエスカレーターで名門私立大に進学し、卒業後は、脚本家として活躍している。

― 完璧じゃん!

美加には「男女の年齢を足して60歳のカップルは、結婚適齢期」という持論がある。

― 28歳の私と、32歳の海斗さん。ほーら、完璧。

そろそろ恋がしたい、と思っていただけで、今すぐ結婚したいわけではない。それでも心がニヤついてしまう。

長野県出身で大学から上京した美加。当時は、サークル仲間とレンタカーを借りては、しょっちゅう湘南へ遊びに行っていた。なんなら大学時代に付き合っていた彼氏も鎌倉出身だった。

だから否応なく鎌倉の話で盛り上がる。もちろん元カレのことは伏せて。

しかし、海斗にあっさり見抜かれる。

『もしかして、美加さんって、鎌倉に住んでる人と付き合ったことあるんですか?』

美加は、ドキリとした。

― さすが脚本家。LINEの文面から、相手の心が読めてしまうのかしら。

『実はそうなんです。大学時代の元カレが鎌倉の人で…。嫌いになりました?』

『ははは。嫌いになりませんよ。むしろ親近感が湧きました』

―水曜日―


午前中、クライアントと麻布十番で打ち合わせ。

その会社にはもう何度も訪れているが、この日はいつもと違い、美加はソワソワが止まらない。海斗の自宅兼仕事場が、麻布十番にあると知ったからだ。

駅のエスカレーターをあがって、クライアントの会社まで向かう。そこに海斗がいると思うだけで、見慣れたはずの商店街が、初めて見たかのような色鮮やかな景色に思えた。

きっと浮かれていたのだろう。

12時前には打ち合わせが終わったので、美加は勇気を出してLINEした。

『今、仕事で麻布十番にいるのですが、もし御都合よろしければランチとか、いかがですか?』

相変わらず海斗の返事は早かった。

『ちょうどお腹が空いていたんです。すぐに出ます』

美加には「価値観が合う男よりも、タイミングが合う男のほうが良い」という持論もある。

海斗は10分足らずで来てくれ、お気に入りだというオシャレな創作うどん屋さんに連れていってくれた。

彼はうどんを丁寧に食べながら、美加の仕事について興味津々に尋ねてきた。

二人きりで会うのは初めてだったから、最初は緊張していたが、彼の頷きや相槌が心地良くて、美加は、ついつい喋りすぎてしまった。

「美加さんって自立してて、仕事もできて、素敵な女性ですね」

まるで映画のようなセリフを海斗はさらりと言う。

― これが脚本家というものなの?好き!

そしてホームパーティーのときには気づかなかったが、海斗は食べ方が上品で、姿勢も綺麗だ。

さっそく海斗とデートが決まる…?

―木曜日―


「さすがに、これはイマイチ」

美加は出社してすぐ、沙希にピシャリと言われた。新しくリリースするアプリのデザインへのダメ出しだ。

引っ越しパーティーに呼んでくれるほど仲良くしている沙希だが、仕事ではプロらしく厳しい一面を覗かせる。

「すみません。すぐに直します」と言ったものの、美加は修正案が浮かばない。

代わりに浮かんだのは海斗の顔。

LINEしてみると「執筆が一段落してるから」と言って、電話で相談に乗ってくれた。

「素人意見で申し訳ないけど…」

海斗はそう前置きして、アドバイスをくれる。すべてが驚くほど的確だ。

美加には「仕事の面で頼りになる男は最高」という持論もある。

― 完璧すぎる!むしろ短所を教えてほしいくらい…。

デザインの修正をすぐに終えると、沙希が率直に讃えてきた。

「直したバージョン、すごくいいじゃん!」

あのホームパーティーに参加していた脚本家のアドバイスに従った、とは言えなかった。言いたくなかった。いつかバレるだろう。でも、海斗と連絡を取り合っていることは、まだ秘密にしておきたい。

「さっき相談した件、うまくいきました!ありがとうございます!」

執筆の邪魔をしたくなくて、電話でなくLINEにボイスメッセージを吹き込む。

海斗からの返信はやっぱり早い。

『ボイスメッセージ!?初めてもらいました☺。こちらこそ、俺なんかに相談してくれて、ありがとう』

『お礼がしたいです。明日の夜、ゴハンをごちそうさせてください』

勇気を出してデートに誘う。海斗から返信がくるまで少し時間があった。

『おごらなくていいですよ☺。でも明日の夜、ぜひ会いたいです』

―金曜日―


テレワークは17時には終わった。

美加が住む目黒まで、海斗は車で迎えきてくれた。集合予定時間の18時きっかりに。

こういうご時世だから、レストランに行くよりもドライブはどうかと、海斗から提案してくれたのだ。

彼とゆっくり話せるなら、店の中だろうが車の中だろうが、関係ない。

ドライブの途中、白金プラチナ通りでサンドイッチを購入し、行く当てもないドライブデートが始まった。

ほどなくして日が沈むと、海斗の車は首都高へ乗った。

レインボーブリッジはもちろんのこと、そこから東京湾越しに眺める東京タワーを中心とした高層ビル群の夜景は、何度見ても美しい。

ただ、美加が窓に流れる景色に見惚れたのはそのときだけで、ほとんどの時間は海斗との会話に夢中だった。

気づけばサンドイッチを食べることも忘れるほどに。

ほとんどが他愛ない話だった。1週間後には覚えていないような…。それでも“とにかく楽しかった”という思い出だけは刻まれるような…。

「もう3時間も走ってますし、そろそろ帰りましょうか」

「えっ、もう3時間も経ったんですか…?」

海斗は、美加の自宅の近くまで送ると、出会った夜に見せてくれた“はにかんだ笑顔”で言った。

「本当は、俺の家でお酒でもとお誘いしたいところですけど…家に呼ぶのは、まだ早いと思うので、今日は爽やかにバイバイさせてください」

嫌味のない紳士的な下心の出し方。嫌いじゃない。

― ダメだ。好きだ。

前カレと別れて1年。

たしかに、そろそろ恋はしたいとは思っていた。だが、たった数日で1年以上忘れていた感情が鮮やかに蘇るとは、想像もしていなかった。

両親が大好きだったドラマの主題歌ではないが、本当に“それは突然”だ。

― また会いたい。すぐ会いたい。

美加は就寝前のボディケアをいつも以上に丹念にしたあと、すでに日付は変わっていたが勇気を出してLINEした。

『土日はやっぱり、お仕事ですか?』

水曜日にランチしたように「タイミングがあえば、あわよくば…」という思いがあった。

返事を待つ間、美加は心が落ち着かなかった。ベッドにも入らず、ソファを立ったり、座ったり…。

この感情がソワソワなのかワクワクなのかもわからない。ただひたすらに心臓の鼓動が速くなっている。

けれど、どれだけ待っても海斗から返信はなかった。

土日の2日間、いつ連絡が来てもいいように何度も何度もスマホを見た。それでも海斗からLINEが来ない。

既読さえつかない。

平日はあれだけ返信が早かった海斗だが、どういうわけか土日は音信不通になる男だった。


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やっと連絡が取れた海斗の弁明に、美加は心がかき乱されて。

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