『HOKUSAI』 伝説の浮世絵師の破天荒な生きざまと絵への執念を柳楽優弥&田中泯が熱演する伝記映画

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江戸時代後期に活躍し、海外の美術にも大きな影響を与えたと言われる浮世絵師・葛飾北斎。型破りな生き方も自身の作品とは違う方向で伝説となっている彼の半生の、青年期を柳楽優弥、老年期を田中泯という実力派俳優二人が演じている。人生、芸術、時代…。さまざまなテーマを含むこの力作のあらすじと見どころをご紹介!

『HOKUSAI』あらすじ(ネタバレなし)

©️2020 HOKUSAI MOVIE

江戸時代、町人文化が花開いた文化文政の頃。喜多川歌麿(玉木宏)や東洲斎写楽(浦上晟周)を世に出した版元の蔦屋重三郎(阿部寛)は、勝川春朗(柳楽)という絵師と出会う。才能はあり絵にかける情熱もあるのだが、自分が描きたいものを描きたいように描くという主義ゆえに周囲と対立し、兄弟子を殴るなどして師匠の勝川春章から破門され、食うに困る貧乏生活を送っていた。重三郎に引き合わされた歌麿からは彼の絵に足りないものを、年若い写楽からは絵に対する姿勢の弱さを指摘されるが、まさに核心を突かれた春朗は反論できない。苦悩した彼は放浪の旅に出て、たどり着いた海で何かを悟る。江戸に戻った彼は、「江島春望」を描き上げて重三郎のもとに持参する。「描きたいものを描きたいように描いただけ」という彼は吹っ切れて自信に満ちていた。名前も「葛飾北斎」に改めていた。美人画全盛の時代に風景画で勝負を挑もうとする北斎。しかしそれは他に例がない、彼にしか描けない絵だった。北斎がようやく開眼したことを喜んだ重三郎だったが、それで安心したのか程なくして急死してしまう。
北斎はそれからも、幅広いジャンルで独特の作風の作品を発表し続け、押しも押されぬ人気絵師となった。そんな彼を妻のコト(瀧本美織)は懸命に支え、子宝にも恵まれた。そんな中で北斎は、妖怪ものの読み物の挿絵の仕事を通じて柳亭種彦(永山瑛太)とその作品に出会い、魅了される。武士ながら創作意欲を抑えることができず、次々に作品を発表し続ける種彦。その情熱が形になったかのような文章につられるように、北斎の筆もどんどん進んだ。彼らの出会いはまさに運命的なものだった。
それから20数年。70歳を過ぎた北斎(田中)はすでにコトも亡くしていたが、絵を描く意欲だけは衰えていなかった。しかし、脳卒中で倒れた北斎は一命こそ取り留めたが、絵筆を満足に握れなくなってしまった。ところが、そんな体験をしたからこそ見えるものがあるという思いに駆られた北斎は、娘のお栄(河原れん)が止めるのも聞かず全国を旅してまわり、さらに創作への意欲を高めていく。
そんな中、種彦が発表した『偐紫田舎源氏』が大評判となるが、この作品が暗に幕府を批判したものとされた。圧力にも屈せず執筆を続けた種彦だったが、それは自身やその家の立場を危うくすることでもあった…。

©️2020 HOKUSAI MOVIE

現代にも通じるクリエイターとしての生きざま

©️2020 HOKUSAI MOVIE

この映画は、実際の北斎の生涯の大枠はそのままに、幾分かの脚色やフィクションを混ぜているという。生涯で100回近く引っ越したなど、よく知られている北斎のさまざまなエピソードをかなり簡略化している(それでも、なかなか波乱万丈ではある)あたりはその一例だろう。しかし、肝心な部分はきちんと描かれているし、適度な脚色や簡略化を行なうことで、映画的に観やすく伝わりやすくなっている。まずはこの判断がお見事。
なかなか芽が出ない若き日の北斎が、自分の抱えている問題点をみんなから指摘されて反論できずに苦悩する。やがて放浪の果てに何かを見つけた彼の開眼のシーンは、まさに「北斎の“誕生”」の瞬間を描いていて前半部の山場の一つと言えるだろう。
絵に対する北斎・歌麿・写楽・重三郎らの論戦、「物語で語られていないところまで挿絵が描いている」と抗議される北斎、人生のすべてを懸けてまで「物語を書く」ことに執念を燃やす種彦…。絵師や作家などそれぞれ職種は違うが、言わば「クリエイター系」の登場人物たちの想いや生きざまが映画の中心になっている。これはもちろん、クリエイター以外の職業の人でも身につまされるという人が少なくないかも知れない。
“同業”のクリエイターをはじめ幅広い職業の人たちの心に、時代を越えて訴えかけてくるストーリー。北斎が手がけた3つの「波」の絵が出来上がるいきさつに重点を置くなど電気絵映画としてのツボを抑えつつ、題材となる人物の生涯のうわべだけを追うのではなく、その人物が築き上げてきた本質的な部分を普遍的なものとして映画の中心に持ってきたのはさすがだ。この作り方の巧みさには感心させられる。
また、全体をいくつかの章に分け、それぞれで北斎の人生の重要な部分をまとめて描いている。そのため、普通の伝記映画ならかなり時間を割きそうなコトとの出会いや結婚、そして別れといった部分を省略したりと、なかなか大胆な構成にもなっている。ところがこういったところも、省いたことで分かりにくくなっているということはまったくない。北斎とコトの愛情など肝心なところはきちんと描かれているからだ。すべてにおいて本質的な部分に迫ることを心がけたため、(映画として)無駄な部分をどんどんそぎ落とすことができたのだろう。語ることが必要な要素は、最小限の脚色などできちんと描いている。どこまでも巧みな構成だ。
監督の橋本一は、『探偵はBARにいる』シリーズやテレビドラマ『相棒』シリーズをはじめ、幅広いジャンルの作品を手がけてきた実力派。陰影を効果的に活かした画面作りで本格派時代劇の味を出しつつ、現代にも通じるテーマを描いているあたり、彼の本領が遺憾なく発揮されていると言えそうだ。

©️2020 HOKUSAI MOVIE

充実のキャストが映画をさらにグレードアップ

©️2020 HOKUSAI MOVIE

巧みで丁寧なこの映画の作りは、キャスティングを見てもよく分かる。俳優デビュー作(公開は数年後)の是枝裕和監督『誰も知らない』(2004)でカンヌ国際映画祭の男優賞を史上最年少の14歳で獲得した柳楽、舞踊から始まりさまざまな分野で表現者として活動してきた田中。北斎の生き方に被る情熱に満ちた仕事を続けてきた二人がW主演で北斎を演じているだけでも、作り手たちの狙いと思いがはっきり見える。
加えて、阿部や玉木を筆頭に人気・実力を兼ね備えた俳優を腋に揃えているあたりも、この映画の見応えを増している要因の一つだろう。中でも、吉原でも一番人気の花魁・麻雪に扮した芋生悠は、『左様なら』(2019)などさまざまな映画やテレビドラマに引っ張りだこの若手実力派で、本作でも短いながら強烈な印象を残している。また、お栄を演じた河原は作家で本作の脚本も手がけている。俳優としての活動はほとんどしていないが、本作では「創作の鬼」の父親を支え続ける娘を自然体の演技で好演している。

一人のアーティストの生きざまを普遍的な人間ドラマに昇華させた傑作!

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