激安シェアハウスに住む70代男性の波乱万丈、架空請求メールを信じ込み転落

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 恋愛リアリティーショーなどの影響で、ひとつ屋根の下で共同生活を送る「シェアハウス」に憧れを持つ人も多いかもしれない。しかし実際は、キラキラした若者たちだけの世界ではない。

 東京都内の月2万5000円のシェアハウスに住む70代の男性・田中さん(仮名)。じつは、少し前まではホームレス同然のネットカフェ難民だったというのだ。前回の記事では、彼がシェアハウスに住むようになったきっかけを少し紹介した。今回は、なぜ彼がネットカフェ難民に転落していたのか、仰天の人生をインタビューしてみた。

◆シェアハウスに住む70代男性の激動人生

「現在は朝4時に起きて他の住人を起こさないようにコロコロをかけて掃除します。5時にトーストを食べながらコーヒーを飲んでゆっくりし、その後ベッドで8時ぐらいまではゴロゴロしていますね」

 現在の収入は年金のみという田中さん。歯医者にしばらく行っていないのだろうか、前歯が何本も欠けている。

 東北出身で高校を出ると地元の有名な家具店に就職し、普通の暮らしをしていた。ある時など、水商売の女性と恋仲になって結婚まで考えていたそうだが、家族に猛反対された過去もある。ほかにも同棲した人は数人いたが、これまで結婚することはなかった。

 田中さんは約5年前まで神奈川県内で建築業の仕事をしていた。ある日、携帯電話に見慣れないメールが送られてきたという。

あなたはアダルトサイトにアクセスしていて料金を支払っていないようです。〇〇まで連絡してください

 普通の人なら完全無視するだけだが、田中さんは慌てて電話をしてしまう。

「実際にそのようなサイトにアクセスしたことがあったので請求されてしまったのだ、どうしようと思いましたよ。それで、こっちが悪いと思って電話しました。すると相手は『30万円を払ってくれないと訴えます』と言ってきたので、『それは困ります』と返したのですが……もしも30万円あったら振り込んでいましたよ」

 架空請求やワンクリック詐欺はよくある手口だが、田中さんのような人がいるのでなくならないのだろう。

◆正月に「夜逃げ」、ネットカフェ難民に

 田中さんはお金が全然なかったので思案した。まずは警察に相談すればいいものを、彼は正月に「夜逃げ」したという。

「大家さんには申し訳なかったのですが、主な荷物はロッカーに入れて、安いネットカフェで寝泊まりしていました」

 いわゆる“ネットカフェ難民”というやつだ。そこは夕方5時から朝までいれて1300円。とはいえ、部屋は狭く、他の利用者の大きなイビキが壁越しから聞こえてくるし、そのイビキにたいして「うるさいぞ、この野郎!」と怒鳴っている人までいる。廊下では喧嘩が始まることもあり、非常に不快な場所だったと振り返る。

◆住み込みの現場で働き始めるが…

 ネットカフェで数か月過ごしていると、ある男に声をかけられた。

「ここに寝泊まりしていても仕方ないでしょ。地方にある住み込みの現場で働かないか?」

 田中さんは地方の現場で働いていた経験があり、住み込みで働くのも悪くないなと考えた。

「行った初日の夜にヤバいと感じましたね。そこは敷地内にバラック小屋が4つぐらいあったのですが、まわりを壁で囲んでいるんですよ。逃げられないためですかね。外から建物の玄関にカギをかけられます。ドーベルマンが2匹、庭で放し飼いされていて、それがめちゃくちゃ怖いんですよ」

 すごい現場である。ある日、田中さんは“脱走”を決意する。
 
「食堂で朝食を食べていると、人相の悪い管理人が2匹のドーベルマンに首輪をつけて、わざわざ散歩の前に我々に見せるようにやって来る。犬は吠えまくり、こっちに向かってきそうな勢いなんです。あれは遠回しの脅しですね。敷地内の売店で売られている飲み物や雑貨は高いし、こんな場所ではやっていけないと思い、逃げようと決心しました」

 犯罪ではないので、警察に駆け込むわけにもいかない。現場は地方の僻地で庭にはドーベルマン。

「二階の窓から外をのぞくと、隣の家の壁が見えました。そんなに距離がないので、ロープを使えばどうにか壁に到達できそうでした。まず、決行は深夜2時にしました。その理由は、他の人が熟睡していて、最寄り駅まで歩いて行っても電車が走っている時間じゃないと意味がないじゃないですか」

 深夜2時。同部屋の人は寝ている。そっと窓を開け、ロープを腹と建物の柱に縛り付け、隣の敷地に私物のカバンを投げた。そして、なんとか隣の壁まで飛び降りて、駅に向かって逃げたのだ。

「電車に乗れた時はほっとしましたね」

◆再び架空請求のメールに引っかかる

 その後、東京に戻って仕事を見つけてアパートを借りた。だが、再び悪夢が襲う。以前と同様の架空請求のメールが来たのだ。無視すればいいのに、また返信してしまう。

 請求額は20万円。当然、払えない。すると相手からは案の定、「裁判する」「訴える」の言葉があり、田中さんはビビッてしまった。どうしようかと考えていると、翌日、部屋のチャイムが鳴る。

 じつは田中さん、住所を教えてしまっていたのだ。のぞき穴から見ると、怖そうな風貌の男が立っていた。相手がアパートまでやってきたのだ。

「もちろん、怖くて開けませんよ。相手はドアを叩き、『この野郎、カネを返せ!』と脅してきました」

 まるで借金の取り立てである。

「相手は強い口調でしつこく言ってきたのですが、顔見知りである隣の住人が心配して出てきてくれたので、相手は気まずくなったのか帰ってくれました」

 そして、年が明けてから再び夜逃げした。

 筆者の質問——悪いことはしていないはずなのに、逃げる必要なんてなかったじゃないですか——に対して、田中さんがこう返す。

「20万円あったら払ってしまったと思います。変な奴が家まで来たのが怖かったし、訴えられるのが嫌だったんですよ」

 正直、その理由に言葉も出ないが、田中さんは今年1月、ホームレスになってしまった。その後、ネットカフェの前でビラを配っていたシェアハウスの管理人に声をかけられ、現在世話になっているという。

 取材後、田中さんから嬉しい連絡をもらった。

「清掃のアルバイトが見つかりました。明日から働けるようです。体も元気なので労働してお金を稼げるのが幸せです」

<取材・文/今永ショウ>


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