相次ぐボイコット…ハリウッドを震憾させたゴールデングローブ賞の内部事情

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《文:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美》

アカデミー賞の次に人気がある映画賞、といっても過言ではないゴールデングローブ賞。しかし、賞の権限を司る「ハリウッド外国プレス協会」ことHFPA(=Hollywood Foreign Press Association)の大スキャンダルがゴールデングローブ賞の存続を危うくしている。いったい何が起きているのか?

ハリウッド外国プレス協会(HFPA):小グループからハリウッドを牛耳る存在へ



そもそもHFPAというのはどういう団体なのだろう? あんなに有名なゴールデングローブ賞を司っているのだから、さぞや大きな団体かと思いきや、実際は全く異なる。

ことの始めは1943年。ハリウッドに住む8人の外国人映画ジャーナリストたちが、大スターへの取材権利がもらえず苛立っていた。そこで考え出したのが、独自の映画賞をスタートさせるという案。それがゴールデングローブ賞の誕生だった。長いこと弱小映画大賞と言われていたが、83年に入りアメリカTV界の巨匠、故ディック・クラークが関わり始めてから、出演者たちの質が格段に飛躍。95年にメジャーネットワークNBCで放映されることになってから、「アカデミー賞の数週間前に放映される大切な映画賞」としての地位を確立した。

ゴールデングローブ賞候補になること、そして受賞とあらば、アカデミー賞の前宣伝として絶好の機会だ。

アカデミー賞は、全米映画アカデミー会員の投票により決められる。アカデミー会員は映画関係の仕事を持つ人たちばかり。よって、暇なときは一般人が思うほど映画を観ないというのが知られざる実情だ。アカデミー賞投票時期に会員にドッサリ届けられる、候補作品のサンプルは、「人気のある数本を抜かしては、知らない作品ばかり」という話をよく耳にする。だが、そんなアカデミー会員でも、「ゴールデングローブ受賞作品」と聞けば、「試しに見てみるか…」ということになる。これが作品PR陣営の最大の狙いなのだ。よって、映画PR陣営は、陰ではHFPAを疎んじていても、営業上は取り入るしかない、という悪循環ができあがる。



作品の宣伝担当者たちは、HFPA協会会員の心証を良くしようと、あの手この手を尽くし始め、担当作品への投票を獲得すべく、HFPA会員たちを豪華な夕食へ接待し、「PRツアー」と称した映画撮影現場を訪ねるエキゾチックな海外旅行(最高級ホテルの滞在含む)、大手新聞社や雑誌社を犠牲にしてまでのセレブ独占インタビュー枠など、上げ膳据え膳のおもてなし作戦を図る。

だが、この特権を笠に着始めたHFPA会員の中には、自分たちをないがしろにできない立場のPRスタッフ、挙げ句の果てにはセレブを個人的に誘ったりあるまじき発言や行動を取ったりする人も現れ、水面下での目に余る行動が問題になりはじめた。


少人数「エリート・クラブ」の崩壊序曲



HFPAは入会すると、その人が亡くなるまで永久会員となり、誰かが亡くなっても補充するという決まりはないので現在の会員数はたったの87名。貧弱なこの会員数を知って驚く読者も多いのではないか。

HFPA会員の質の低下も大きな問題となっていた。永久会員制度が仇となっている部分もあり、今やHFPA内で真のジャーナリストとして活躍している会員はほんの一握りであるとロサンゼルス・タイムズ紙も報じている。会員の中には、年老いた廃業寸前のライターをはじめ、不動産業が本職のメンバー、高級車のセールスマン、執筆などしない単なるお金持ちの映画ファンなども多いという。おまけに、本当に実力のある外国ジャーナリストの入会が却下される事態がたびたび指摘され、それは現在の老会員たちが自分たちへの注目を奪われたくないがための入会妨害だと問題視されている。

HFPAはアメリカ映画業界に貢献した海外のジャーナリストたちが協会メンバーとなる資格を有する、というのが表向きで、世界中の著名ジャーナリストから申し込みを受け付けているが、入会には不透明なガイドラインと審査があり、ジャーナリストとしての貢献度よりも会員に気に入られた人間でないと入会できない、という暗黙の了解があるのだ。

こんな小さなグループが、授賞式放映関連で手にする収入がなんと27万ドル(約3,000万円)。この巨額な金額をめぐり、協会内での金銭癒着問題も取り沙汰されてきた。

トム・クルーズまでもがボイコット!堕ちたHFPA



ゴールデングローブ授賞式では、飲み放題食べ放題、セレブとも会い放題で映画ファンにとっては天国のような会場だ。その授賞式チケットを、HFPA会員が日本円にして100万円あまりで外部の人間に違法売買しているというスキャンダルも露見した。そして、今年に入って大問題となっているのが、HFPA内の人種が異常に偏っているという事実。

「外国人」ジャーナリスト協会という看板を掲げ、南アメリカやアフリカ諸国からのジャーナリストも交えているはずの団体なのに、なぜか黒人ジャーナリストがゼロなのだ。人種問題が大きく取り上げられる近年の世相において、これは致命的だ。ことを悪化させたのが、改善を誓ったHFPAが、1時間で書いたような情けない改定版規約を発表したことだ。


これには大手スタジオやセレブまでもが不信感をあらわにした。HFPAの収入源だったNBCネットワークが来年度の放映中止を発表したのに続き、 Netflix社もボイコット声明を発表。続いてトム・クルーズが、受賞したゴールデングローブ像をすべて返還してボイコットを発表し、世界中でニュースになった。そしてとどめがワーナー・ブラザースやHBOの親会社であるワーナー・メディアだ。「HFPAが根底より行いを改め、我々も納得がいく会員規約を公表しない限り、一切関係を断つ」という辛辣な書状を発表した。

普通の映画ファンの方々は、これまでゴールデングローブ賞の内部事情など聞いたこともないし興味もなかったことだと思う。しかし、毎年楽しみにしている映画賞が、賄賂をはじめ資金横領や人種差別など、「いかさま」の上になりたった賞だとしたら、ファンとしてどういう気分になるだろうか? 筆者はライターである前に映画の大ファンだ。ゴールデングローブ賞を楽しみにしているひとりとして、HFPAの改善を願っている。

(text:Akemi Kozu Tosto/神津トスト明美)

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