【なめるな危険】容赦なしの暴力と奥深い人間ドラマを宿した極上のB級映画『Mr.ノーバディ』

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主人公の一人称視点で話題を呼んだ『ハードコア』のイリヤ・ナイシュラー監督、『ジョン・ウィック』シリーズのデレク・コルスタット脚本作。強盗に入られたことを機に、繰り返しの毎日を送るさえない中年男性が、隠された本性を露わにしていくハードボイルド・アクション。6/11(金)公開ですが一足早く見どころをご紹介!

あらすじ

 主人公のハッチ(ボブ・オデンカーク)は、郊外にある自宅と職場の金型工場を路線バスで往復する、ルーティンで退屈な毎日を送っている。外見は地味で、目立った特徴もない。この世の理不尽なことはすべて全身で受け止め、決して歯向かうことはない。妻には距離を置かれ、息子からもリスペクトされることはない。世間から見れば、どこにでも居る、何者でもない男だ。ある日、バスの車内でチンピラと居合わせる。「ジジイ」呼ばわりされたことで、ハッチは遂にブチ切れ大乱闘。しかし、この事件はその後ロシアンマフィアへとつながり、街頭での銃撃戦、カーチェイス、と派手にエスカレートしていくのだった…。

『ハードコア』監督×『ジョン・ウィック』脚本家の最強タッグ!

イリヤ・ナイシュラー

AUSTIN, TX - MARCH 13: Director Ilya Naishuller attends the screening of "Hardcore Henry" during the 2016 SXSW Music, Film + Interactive Festival at Paramount Theatre on March 13, 2016 in Austin, Texas. (Photo by Mike Windle/Getty Images for SXSW)

 身体がサイボーグと化した主人公の一人称視点で物語を描き、頭部に固定されたGoProによって撮影された映像からもたらされる深い没入感から大きな話題を呼んだアクション映画『ハードコア』。映画のみならず、ミュージックビデオの監督や、モスクワのインディーロックバンド「Biting Elbows」のフロントマンとしても活躍するイリヤ・ナイシュラーが手掛けたその作品は、トロント国際映画祭で観客賞受賞を果たし、世界中にその名を知らしめた。

『ハードコア』

 そんな彼と本作で手を組んだのは、キアヌ・リーヴス主演『ジョン・ウィック』シリーズや、『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』の脚本を手掛けるデレク・コルスタット。どうだろう、この最強にして最恐な組み合わせを耳にしただけで、ワクワク(ゾクゾク)してくるものはないだろうか。『ハードコア』であれだけの臨場感と没入感を創造したイリヤ・ナイシュラー監督の力と、裏社会や容赦のないアクション描写満載の『ジョン・ウィック』の世界観を創造したデレク・コルスタットの力とが組み合わさったのなら、向かうところ敵なし!面白いに決まっている。『ハードコア』や『ジョン・ウィック』シリーズが好きな方はもちろん、一味も二味も違うアクション映画に出会いたい方には是非ともおすすめしたい作品です。

『ジョン・ウィック:パラベラム』

定番でありながらも奥深い、極上のB級映画

 この手の作品が好きな人ならば、本作の予告編やあらすじを目にしただけで、ある程度ストーリー展開を読み取ることができると思う。そう、物語のフォーマット自体は、『ジョン・ウィック』や『イコライザー』や『96時間』など、引退した元軍人なり殺し屋が、平穏な生活や家族の命が脅かされたことによって、再びその力を振るうといった、ある意味セオリー通りのものである。しかし、それだけでは終わらないのが、セオリー通りでありながらも、アプローチの仕方に目新しさを感じられるのが、本作の面白いところ。

© 2021 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

 まだそのスキルや経歴が明らかになっていない段階において、捕らえられるチャンスがありながらも、家に押し入った強盗をみすみす見逃すシーンが冒頭において描かれる。それは当然、卓越したスキルを持っているからこそ、強盗が置かれている状況を瞬時に理解し、どういった選択が被害を最小限に抑えられるかを熟慮してのことである。だが、妻や息子には失望され、男としての、夫としての、父親としての面目は丸潰れ。そのフラストレーションがキッカケとなり、事態は大きく変化していってしまうのだが、この冒頭における人間模様やハッチが抱く葛藤にこそ、本作の核たり得る「問い」が、現実社会においても重要な問題が描かれているのである。

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 ただ、終始その「問い」にフォーカスして描かれていくわけではないため、正直、人によっては気にも留めないかもしれない。が、『ジョン・ウィック』を彷彿とさせるエグさとスタイリッシュさを兼ね備えた爽快アクションに加え、常に物語の根底に宿っている「問い」があるからこそ、作品としての質が高まっていることだけは間違いない。

力を持つ者に課せられた責任

 前項において記した「問い」とは何か。それは、力を持つ者に課せられた責任や使命のようなもの。その力とは、腕力や武力などの物理的な力でもあれば、金がもたらす財力、精神的な強さから生じる心の力など、その種類は様々。何れにせよ、人より優れた力を所持する者には、力を振るう際に何かしらのリスクが付き纏う。何のためにその力を振るうのか、誰のためにその力を振るうのか、何を成すためにその力を振るうのか、しっかりと見極められなければ、その身を滅ぼすことにもなりかねない。

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 冒頭のシーンにおいて、家に押し入った強盗を気絶させて無力化することも、正当防衛として殺してしまうことも、ハッチには容易いことであったように思う。しかし、彼はそれを選ばない。家族の安全を最優先したこともあるが、強盗に力を用いることで生じるリスクを回避していた部分が大きかったように思う。仮に強盗を気絶させていたのなら、逮捕された強盗に恨みを買われ、出所後に付き纏われたり報復されるリスクが発生する。仮に強盗を殺してしまっていたのなら、強盗の親・兄弟・姉妹・友人などから恨みを買い、これまた報復されるリスクが発生する。その場では家族を守れたとしても、後々になって家族に危害が及ぶ可能性が生じてしまう。そこまで分かっていてこそ、ハッチは強盗を見逃すという選択をしていたのである。

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 やったらやり返されるのが世の常で、やり返されたのなら再びやり返したくなるのが人の性。一度その連鎖に足を踏み入れてしまえば、どちらか一方が全面的に降伏するか根絶やしにでもならない限り、報復合戦に終止符が打たれることはない。だからこそ、誰に強いられるわけでもないが、力を持つ者には、その連鎖を食い止め、周囲を正しく導くといった責務が課せられている。何故ならば、力を有するに値する者でなければ、その役目を担うことは難しいのだから。

あなたならどうする?

 とは言え、力を持つ者も持たざる者も、皆同じ人間。ハッチもまた、堪忍袋の尾が切れて、報復の連鎖へと自ら足を踏み入れていってしまう。都度相手に警告は出しながらも、互いに生じた理不尽を解消する術も見出せず、泥沼の殺し合いへと発展していく。そこで目にすることになるアクションシーンがとんでもなく見応えたっぷりなのだが、それらを楽しむことのできてしまう観客、つまりは僕たちにも少なからず問題があるのではないだろうか。

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 いちいちこんなことを考える人の方が少ないはずだし、都度こんなことに引っかかっていたのなら、何も楽しめない。「アクション映画だから」「物語だから」「フィクションだから」と割り切れば良いのだが、僕たちは容赦なく人が殺されていく様を目にして、楽しむことができてしまう。それは、ハッチ(主人公)が理不尽に晒され、(彼にとっての)正当な理由を掲げて行動し、その理由に観客である僕たちも納得ができてしまうからこそのもの。彼に敵対するものは皆「悪」と見做され、悪が滅んでいく様には疑問を抱かず、一種の快感さえ覚えてしまう。そう、大義のための犠牲には、誰も疑問を抱かない。決して深堀りされて描かれることもないのだが、その裏側で涙したり怒りを抱く人たちの存在など考えない。そういった思考性は、この現実において、いくらでも起こり得るものではないだろうか。

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 そんなことなど気にせず、気軽に楽しんで貰っても一向に構わないのだが、序盤において目にするシーンを思い出してみて欲しい。憎しみの連鎖を断ち切ろうと、たった一人で理不尽に耐え、報復合戦を止めようとしていたハッチの姿を。結果的にとことんまでやり合う道を選んでしまうことになるとはいえ、一時的にでも彼は自身の責務を果たそうとしていた。もしもあなたが彼と同じ立場にあったのなら、その責務を果たすことはできるだろうか。自分だけが理不尽な目に遭い、我慢を強いられる状況を耐え抜くことができるだろうか。それらを果たせない人が大多数を占めるこの世の中だからこそ、僕たちの生きる現実社会は、未だ真の平和を掴み取れていない。やったやられたの報復合戦からも一向に抜け出せない。ハッチ一人が、あなた一人が、その責務を全うしたところで、おそらく世界は何も変わらない。だが、それで救われる命や想いも少なからずあると思う。

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 冒頭において示された「可能性」、投げかけられた「問い」が、人によっては終始作用していくからこそ、壮絶な殺し合いへと身を投じていくハッチの姿を“楽しむ”以外の選択肢も生まれてくる。「殺す」という選択しか選べなかった彼や周囲の人々を通して、どうしたら平和的に負の連鎖を断ち切れたのかと考えずにはいられない。気軽に楽しむこともできつつ、突き詰めればいくらでも見方が変わっていく懐の広さを持った怪作です。あなたの心には、一体どのように映るでしょう。

総合評価

 あれこれ重苦しいことを書きましたが、本編においてその匂いが色濃く感じられるのは、おそらく序盤においてだけ。むしろ、こんな風に考えて目にする人の方が少数であるのかもしれない。しかし、それこそが映画の醍醐味であるとも言えると思う。気軽に楽しむも良し、深読みして多くを噛み締めるも良し、どちらであろうと受け止められるだけの度量を持った極上のB級映画(僕にとって「B級映画」とは最上級の褒め言葉)です。ぜひ劇場でご覧ください。

青春★★★
恋 ★
エロ★
サスペンス★★★★
ファンタジー★★
総合評価:A

映画『Mr.ノーバディ』
公開日:2021年6月11日(金)
原題:『NOBODY』
監督:イリヤ・ナイシュラー
脚本:デレク・コルスタッド
キャスト: ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、マイケル・アイアンサイド、クリストファー・ロイド
配給:東宝東和
©2021 Universal Pictures

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