「今夜はアリ…?」29歳女がデート中に出すOKサインを、男が拒絶したワケ

Vol.7 憧れランキング


名前:ヨシノ(29)
職業:建材メーカー 営業事務


アイちゃんと飲みに行くと、安く上がることが多い。なぜかというと、店内にいる男性と仲良くなって、おごってもらえるからだ。

一時期「見せブラ」が流行った。あれはたしかブラが服から覗いてもいいようにおしゃれに(あるいはスポーティーに)できているという代物だったけど、アイちゃんの場合は「見えブラ」だ。

見せるつもりはない普通のブラが、たいていの場合、胸元から見え隠れしている。

どちらが男性の下心を誘うかというと、もちろんアイちゃんの見えブラだ。

アイちゃんは陽気で開放的な性格なので、初対面の人ともすぐに打ち解ける。気軽に飲みに行けた頃の話だが、バーのカウンターで横並びになったオジサンと仲良くしゃべり出して、私はアイちゃんが道ならぬ恋に落ちるのではないとハラハラした。

例によって、オジサンが帰る前に私たちのそこまでのお代も払ってくれた。オジサンたちを笑顔で見送ったあと、アイちゃんは改めてドリンクを頼みグラスを高々と掲げた。

「じゃ、仕切り直しで、飲もう!かんぱーい!」

「アイちゃん、連絡先の交換とかしてない?大丈夫?」

私の心配をアイちゃんは笑い飛ばした。

「そんなことするわけないじゃん」

よかった…と胸をなでおろした瞬間、アイちゃんは言った。

「お化粧室の前でチューしただけだよ」

耳を疑う。だって、オジサンは奥さんと来ていたのだから。

「ヨシノももっと楽しめばいいのに」

アイちゃんは甘いドリンクを飲みながら、のんきな声で言った。

刺激的なアイちゃんに対して、ヨシノには彼氏がいるが…

水曜日の夜。私は恋人のシュージ(29)と赤坂のスペインバルにいた。

夕食を一緒に食べていたのだが、1時間たってもイベリコ豚のグリルにしろ、トルティージャにしろ、その他のいろんな料理も、まだかなり残っていた。

シュージは、すっかり冷めた料理を気が乗らない顔でのろのろと食べている。

「やってしまったな…」

彼がそうつぶやいたのは、料理を頼みすぎたことについてなんだろうけど、私たちの関係について言っているみたいにも聞こえた。

私は聞こえないフリをして、黙々と食べ進めた。

― うまくいってた頃、シュージはたくさん食べてよく笑ってたなぁ…。


食欲と性欲は正比例するんだと思う。私たちは付き合って2年になるけど、1年くらい前までは、閉店間際までくだらない話をしながら、2人とも苦しくなるまでよく食べた。

そもそも、あの頃は水曜なんかに会わなかった。

今でも覚えているけど、取引先の担当者だった彼から初めて誘われた日、「金曜と土曜と日曜と火曜と水曜は空いていますが、いつなら会えますか?」とメッセージが来たので、笑ってしまった。

「月曜と木曜以外は空いています」と書けばいいのにと思って、面白くなって会ったのが最初だ。もちろん週末に会ったし、それ以降も週末ごとに仲を深めていった。

それが今では、木曜あたりに「週末どうする?」とLINEしても、土日はスルーされる。そして、週明けにようやく「水曜なら空いてるけど」などと連絡が来る始末だ。

怒りたいのはやまやまだが、そうすると簡単に別れ話になるだろうな、と予想できた。

シュージの私への関心度がガクンと下がったことには、理由がある。

近年、勤め先が「大学生の憧れ企業ランキング」に載るほど、人気企業になったのだ。最近はOB訪問アプリというものもあるらしい。シュージは大学生と頻繁に接触するようになった。

最初は、学生の未熟さを面白おかしく話していたシュージが、ある時から一切そのことについて話さなくなった。

― 女子大生と何かあったんだろうなぁ…。

ちょっと鈍いと言われる私にだって、そのくらいわかる。「憧れ企業ランキング=そこに勤める男の魅力度ランキング」だと考えるなら、シュージの市場価値は最近急上昇しているのだ。

とにかく、27歳から2年付き合った女をフッて恨まれたくはないが、向こうから別れを切り出してくれるなら大歓迎、といった雰囲気が、最近のシュージからはひしひしと感じられる。

そして、情けないことに、私は「別れたくない…」と思っている。

今は倦怠期というやつかもしれない。

下手に彼を刺激せずにこの期間をやり過ごして、シュージが「そろそろ結婚したいな」と思ったときに、一番近くにいる女でありさえすれば、安定した男の妻になれるかもしれないのだ。

そういうわけで、さっぱり盛り上がらないデートを、もう半年以上私とシュージは根競べのように続けているのだった。

「そろそろ行く?」

ようやく料理があらかたなくなった頃、シュージは言った。うん、と頷きながら、私は今日はどっちかな?と考えた。

デートが盛り上がらなくても、会い続けていれば、弾みで寝る夜もある。寝てしまえば、基本的にお人好しで気が弱いシュージは、しばらくは別れを切り出しにくくなるはずだ。

雑居ビルの5階にある店を出て、エレベーターを待つ間、自分からそっと手を絡めてみた。昔ほどの力強さではないにせよ、シュージからも握り返してくれて、ホッとする。

― 今夜はアリかな…。

だけど、エレベーターのドアが開いた途端、私は舌打ちしたくなった。壁には近くの結婚式場のポスターがでかでかと貼ってあり、ウェディングドレス姿の女が微笑んでいた。

それを見たシュージは我に返ったように、「明日、早いから…」と言い出し、私の手をやんわりと振りほどいた。

― 新しい人見つけようかなぁ…。

こちらを振り返りもせずに遠ざかっていくシュージの背中を見ながら、私はため息をついた。

破局寸前のヨシノが起死回生を果たしたワケとは…?



金曜の恵比寿。

落ち込んでいる私を元気づけたいと言われ、アイちゃんから呼び出された。「男で傷ついたら男で癒やす」が彼女のモットーなのだ。

「え~!こんなにイケメンなのに、彼女がいないって本当ですか??」

アイちゃんはさっそく恵比寿で男性2人組に話しかけられた。声を掛けられる隙があるかないかって、計算というより、遺伝子レベルで決まっているんだろうな。

アイちゃんのブラのストラップは、今日もバッチリ見え隠れしている。


2人組のうち、1人はマリッジリングをつけたアラフォーのオジサンなので対象外だけど、もう1人は30代前半でなかなか爽やか。先輩と後輩で、仕事帰りとのこと。

先輩さんが後輩くんについて、「こいつ、フラれたばかりで本当に彼女いないから」と太鼓判を押している。後輩くんは私たちに名刺をくれたのだが、会社名を見て、「あっ」と思わず声が出た。

「ここって学生に人気のところですよね。前にニュースで見ました」

「知ってるんだ?」と、後輩くんはちょっと嬉しそうな顔をした。因縁の憧れ企業ランキングで、シュージの勤め先よりさらに上位にいる会社だ。

「じゃ、OB訪問とか言って、女子大生からモテモテなんじゃないですか?」

アイちゃんが後輩くんをつつく。アイちゃんは奔放だけど、会社名や収入に目がくらんで男と付き合うタイプではないから、私のために探りを入れてくれているのだろう。

もちろん、この後輩くんとシュージは別の会社の別の人間だ。でも、極めて同じような立場にある2人だから、彼の最近の恋愛について聞いておいて損はない。

先輩さんがニヤニヤして後輩くんの顔を見ているので、アイちゃんが「やっぱ何かあったんだ」とさらに攻撃する。

後輩くんが恥ずかしそうにつぶやく。

「…それがさ、何もなかったんだよね」

先輩さんがフォローするように笑いながら言う。

「いや、美人女子大生が熱心にコンタクトをとってくるから、こいつも脈ありかと勘違いしたんだけど、普通に就職活動に熱心な学生さんでさ…」

「デートに誘ったけど、あっさり断られました。もう学生はこりごりです」

「そもそもコンプラ違反なんだよ」

先輩さんがギロリとにらんで言った。

「やっぱり年が離れすぎていると、意思疎通が難しいよね」

後輩くんがそう同意を求めてきたので、アイちゃんが「それって、つまり私たちは若くないってことですか?」と頬をふくらませて言う。

アイちゃんが首を傾げながら続ける。

「でも、最近の子って真面目なんですねぇ。こんなに素敵な男性と2人っきりで会ってもその気にならないなんて。私が就活していたときは、OB訪問でいろいろ素敵な思い出ができたのに…」

― いろいろとは…。

そこからひとしきり、アイちゃんの就活時代の話で盛り上がった。



あれから半年。私はシュージとまだ付き合っている。

恋人とのパワーバランスは、より好きでいるほうが弱い。

長い間付き合っていれば、シーソーの傾きも時によって変化するらしい。最近は、私のほうが追いかけられている節がある。

結局、あの一時期、シュージが何で冷たかったのかは、はっきりとはわからない。

一度、世間話を装って「OB訪問の女子大生を口説くなんて、完全にオジサンのすることだよねぇ。ほんと厚かましい」と言ってみたら、慌てていたけれど。

そして、あのときの恵比寿の2人組とは何となく気が合い、たまに4人で飲むようになった。

後輩くんからは「今度は2人でご飯に行かない?」と誘われている。


本日のニュース:大学生の憧れ企業 上位は

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この記事のみんなのコメント

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  • ヨシノさん、デキ婚で逆転と想像したら単純に相手の好意が戻っただけでしたか※、甘えられるより甘えたいタイプの彼氏だったのかな?、デキ婚は偶然ならまだしも狙って仕掛けるのはリスクも大きいからね!良かったね◎、 シングルマザーのリスクは勿論、彼氏が〇病感染を貰ってるリスクも有るからね※、特にエイズも普通に一定の患者が発生続いてる※、無知識無防備な若者世代ほど感染率が高いらしいし※

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