「つわりが苦しいなら堕ろしていいよ」夫の暴言に、悪気は全くなかった

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 新型コロナ第4波のなか、私たちの日常生活はより一層の我慢を強いられています。家庭では子どもへの虐待、DVが増加しているという報告もあります。

 昨今、テレビなどでも取り上げられるようになった「発達障害」ですが、このコロナ自粛の中で夫の「自閉症スペクトラム(以下、ASD)」によって妻が苦しみ、うつ状態に陥ってしまう「カサンドラ症候群」が増えているというのです

「カサンドラ症候群」とは、パートナーとの意思疎通ができず、他人からも理解してもらえないことで体調を崩し、身体に顕著な症状が現れた状態のことをいいます。これらのケースは夫がASDだった場合に多くみられます。正式な病名ではないため、顕在化することが難しいのです。

 カサンドラに症候群の妻たちは、どんな悩みを抱えているのでしょう。30年以上に渡って発達障害の研究、治療を続けているどんぐり発達クリニックの精神科医、宮尾 益知(みやお ますとも)先生の『発達障害と人間関係 カサンドラ症候群にならないために』から紹介します(以下、同書の内容より抜粋・再構成)。

◆夫と意思疎通ができずに苦しむ「カサンドラ症候群」

 発達障害の一つである「ASD」は脳機能の変異が原因とされていて、「社会的コミュニケーションの障害」が主な特徴です。そのため、家族間であっても心が通い合うのが難しいのです。単独行動を好み、相手の立場になって考えることが苦手だったり、ルールを守ったり、集団で遊んだりすることがうまくできない。他人の存在を忘れてしまい、話しかけても聞こえていない(聞いていない)ように見えることもあります。

 反面、自分自身については「こだわり」が強く、同じことが繰り返して起こることを好み、同じ言葉や動作を繰り返し、物事を決まった順序でやらないと気がすまない、自分の好きな話題や活動ばかり繰り返す特性があります。

 また、同時に二つのことができないため、仕事でもマルチタスクが苦手です。新しい環境や突然の予定変更に順応することが苦手で、空想やファンタジーの世界に没入することが多く見られます。

◆感情の共感を得られず、心身がダメージを受ける

 正式にASDだと診断されていれば対処法はあるのですが、特性に気づかないまま感情の共感を求めすぎると、無力感、孤独感、絶望感によって、偏頭痛、体重の増減、自己評価の低下、パニック障害、抑うつ、無気力などの状態を引き起こしてしまうのです。心当たりがある方は、早めに専門機関での相談や診断を受けることをお勧めします。

◆素敵な恋人が、結婚したら暴言を連発する理由

 結婚前は「やさしい人だな」と思っていたのに、結婚した途端に豹変し、家政婦のように扱われたり、乱暴な言葉を吐くようになったという話をよく聞きます。ASDの人は事前学習能力がすぐれているため、結婚前には相手が喜ぶためには何をしたらよいか、よく研究します。インターネットで調べれば、情報は溢れています。しかし、結婚後はそうしたマニュアルはほとんど通用しません

 果たすべき役割は夫婦によって異なるため、結婚生活を続けていく上では臨機応変に対応していかなければなりません。一方の妻は、理想としていた結婚生活は実現しないことに苛立ちます。夫のASDの特徴に気づけなかった結果、「こんなはずじゃなかった」との思いを募らせ、女性側は徐々に「カサンドラ化」していくのです。

 夫は結婚後、パートナーの友人、実家、親戚との付き合いなど、果たすべき役割も増えます。何より妻が妊娠して子どもが生まれるとなれば、自由気ままに過ごせる時間は減っていきます。今度は父親という新たな役割が加わるのですが、どう果たせばいいのか、マニュアルが存在しないため、ASDの人には具体的な役割がよくわからないのです。

 マッチングアプリなどで知り合い、相手のことをよくわからないまま数ヵ月の交際期間で結婚した場合にも、こういったケースが見られます。いくら共感してほしいと願っても、ASDの夫にとっては難しいのです。すると今度は「どうせ妻に怒られるから」という理由で、会話をしなくなり、やがて深刻なディスコミュニケーションに発展していきます。

◆「苦しいなら堕ろしていいよ」妊娠・出産で大きく傷つく

「カサンドラ症候群」に陥ってしまう大きなきっかけに「妊娠・出産」があります。妻は誰よりも夫が支えてくれることを望みます。その時期に夫の言動が妻の常識から大きくズレていたため、「大切にされていない」と思ってしまう妻はたくさんいます。日常生活では夫がASDであることに気づかなくても、妊娠や出産時の言動でその特性に気づくケースが多いのです。

 つわりがひどく苦しんでいるのに、夫は真剣な顔で「そんなに苦しいなら堕ろしていいよ」と声をかけます。また、妊娠中に「子どもがどうしても欲しいというわけじゃないよ」と言われ、傷つくケースもあります。

 何より問題なのは、夫は決して悪気があるわけではないということです。ASDの特性である「相手の気持ちや状況を想像することが苦手」というところから生じているのです。ただ目の前に起こっている問題を解決しようとして、まったく配慮のない、常識では考えられない言葉や行動をとってしまうのです。まさに「木を見て森を見ず」状態です。

 ではカサンドラに陥ってしまった場合、脱出するにはどうしたら良いのでしょうか。次回詳しく解説していきます。

<文/宮尾 益知>

【宮尾 益知】
徳島大学医学部卒業後、東京大学医学部小児科学教室、自治医科大学小児科学教室、ハーバード大学神経科、国立成育医療研究センターこころの診療部発達心理科などを経て、2014年に「どんぐり発達クリニック」を開院。専門は発達行動小児科学、小児精神神経学、神経生理学。発達障害の臨床経験が豊富。近著に『子どもの面倒を見ない。お母さんとの会話が少ない お父さんが発達障害とわかったら読む本』(河出書房新社)などがある。

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