乃木坂46 生田絵梨花&松村沙友理“からあげ姉妹”の賭ケグルイ、一か八かKolokolが創り出す御伽噺世界|「偶像音楽 斯斯然然」第56回

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実写版『賭ケグルイ』シリーズにおいて、生徒会の美化委員長・三春滝咲良を好演している生田絵梨花(乃木坂46)と、生徒会役員でアイドルの夢見弖ユメミにて怪演を見せる松村沙友理(乃木坂46)。今回は、2人のユニット『からあげ姉妹』の音楽性とボーカルスキルを分析しながら、ドラマ&映画『賭ケグルイ』のテーマソング「一か八か」の歌唱を担当するPassCodeと同じ所属事務所のKolokolと、そのメンバー佳凪きののユニークさを紐解く、当コラムらしい振り幅の大きい内容をお届けする。

『偶像音楽 斯斯然然』
これはロックバンドの制作&マネジメントを長年経験してきた人間が、ロック視点でアイドルの音楽を好き勝手に語る、ロック好きによるロック好きのためのアイドル深読みコラム連載である(隔週土曜日更新)。

Amazon Prime Videoドラマ『賭ケグルイ 双』にて、美化委員長・三春滝咲良を演じる生田絵梨花(乃木坂46)がハマり役すぎた。原作ファンを唸らせるほど、出演者の徹底的な役作りと強烈な演技で人気のドラマ『賭ケグルイ』シリーズであるが、この最新作で初登場となった生田の三春滝もまた素晴らしいのである。

ミュージカル仕込みの名演技・生田と、怪演女優・松村

潔癖であり、自身の明晰さと実力に驕ることのない高潔な心を持つ三春滝のキャラクターにバッチリと合った、タカラジェンヌの男役な趣すらある演技。そんな劇中の生田の姿はもちろんのこと、第6話オープニングにおける、映画『あさひなぐ』(2017年)の薙刀捌きを想起させる棒術にヤラれてしまったのは、彼女のファンだけではあるまい。

【公式】ドラマ「賭ケグルイ双」第6話オープニング映像

ミュージカル女優としての実力、岩谷時子賞奨励賞女優の本気を見た。

ヨーゼフ・ボイスやゲルハルト・リヒターといった世界に誇るドイツの芸術家を輩出した、デュッセルドルフ美術アカデミーがあって、電子音楽の先駆者であるクラフトワークが拠点としていて、日本を代表するバイオリニスト・宮本笑里も幼少を過ごしたドイツの芸術都市、デュッセルドルフ生まれで、ピアニスト・高橋多佳子も認めるピアノの腕前で、偉大なる音楽プロデューサー・佐久間正英が親戚のおじさんにいて……、という絵に書いたようなお嬢様チートアイドルの生田絵梨花なわけだが、またしても彼女の実力に魅了されてしまうのである。

【公式】生田絵梨花アクション猛特訓!ドラマ「賭ケグルイ双」第6話OP映像メイキング

ドラマ『賭ケグルイ』といえば、同じく乃木坂46の松村沙友理の活躍も記憶に新しい。2019年放送の“season 2”における夢見弖ユメミである。“なんだ、乃木坂かよ”なんて高を括っていた原作ファンの心を鷲掴みにした怪演は圧巻であった。

「賭ケグルイ season2」 第2話オープニング映像【ユメミおまけVer】

夢見弖が言い放つ、“なんでアイツら(ヲタク)がいちばん汗かいてんだよ! そんな暇あったら私の歌を聴けぇ!”は現役トップアイドルが発するからこそ、ヲタクの心により深く重くのしかかる名台詞であったわけだが、そんなむさ苦しいヲタクのコールすら懐かしく恋しくなってしまった昨今のライブ事情よ……。

『賭ケグルイ 双』も、5月12日に公開となる『映画 賭ケグルイ 絶体絶命ロシアンルーレット』においても、残念ながら2人の共演はないのだが、この先いつかスピンオフなりで、松村のユメミと生田の咲良の共演を観たい。

からあげ姉妹とは? 生田と松村が織りなすシュールな世界

生田と松村の2人といえば、今年1月にアニメ『ポケットモンスター』(テレビ東京系)のオープニングテーマ「1・2・3」で一躍注目を浴びた、“からあげ姉妹”だ。

からあげ姉妹とは、生田と松村による乃木坂46内のいわゆる派生ユニットであり、その始まりは乃木坂46の10thシングル「何度目の青空か?」(2014年)特典DVD収録の個人PVに遡る。個人PVとは乃木坂46のデビュー当初から続く、メンバーを知ってもらうための自己紹介的な映像コンテンツである。

乃木坂46 『生田絵梨花&松村沙友理 予告編』

からあげが大好きで、“食材破壊王(生田)”と“クッキングモンスター(松村)”の異名を持つ、料理センスと腕前が壊滅的で絶望的な2人がラップに乗せてからあげを作るという、アイドルだからこそ成立する無謀でカオスな映像作品から始まったユニットであったが、同作に収録されたオリジナル曲「食物連鎖」の無表情で淡々と歌い踊るシュールさを含めて人気を博し、乃木坂46の12ndシングル「太陽ノック」(2015年)にて、ついにカップリング曲として「無表情」が収録。その後も不定期な活動ながらも、『ポケットモンスター』のオープニングテーマを担当するまでに至ったのだから、なんとも興味深いものである。

なぜ、ある意味ファン向けであったこのユニットが、そこまで上り詰めることができたのか。単に人気メンバー2人によるユニットだからというわけではない。乃木坂46にはない奇妙な魅力を放っているのである。

乃木坂46 『無表情』予告編

シュルレアリスム極まるオルタナポップ「食物連鎖」(2014年)、脱力シューゲイズ風味の中毒性「サイダー」(2015年)、普遍的キラキラアイドルソングにも関わらず終始無表情な「無表情」(2015年)、謎の神秘性放つ不可思議シンセポップ「曖昧」(2019年)といった、数は少ないなれど、からあげ姉妹楽曲は、どこかマニアライクなサウンドプロダクトと、無表情が醸す不条理的世界観が絶妙に絡み合いながら、得も言われぬ中毒性を生み出しているのだ。

からあげ姉妹の圧倒的ボーカルスキル

まったく異なる2人の歌声が織りなす調和も大きな魅力だ。「1・2・3」はそれが顕著である。声楽経験がありミュージカルでも活躍する凛とした“歌のお姉さん”的な生田と、人懐っこい“猫撫で声”の松村の声色のコントラストが美しく、音符の上下の激しいメロディも相俟って、ポケモンの世界観を色濃く表している。

からあげ姉妹(生田絵梨花・松村沙友理 from 乃木坂46)『1・2・3』

「1・2・3」は、ニコニコ動画の歌い手として活動していた、そらるとまふまふによるユニット、After The Rainの楽曲であり、西川貴教 (T.M.Revolution) と鬼龍院翔 (ゴールデンボンバー) のコラボユニット“西川くんとキリショー”が歌い継ぎ、さらにそこからからあげ姉妹が歌い継ぐ形となった。

[ポケットモンスターOP]1・2・3/After the Rain(そらる×まふまふ)

西川くんとキリショー「1・2・3」Music Video (テレビアニメ「ポケットモンスター」オープニングテーマ)

実力派の歌い手、そして漢気に溢れたアツすぎるスターから引き継ぐ、初の女性ボーカルという形であったが、からあげ姉妹らしい肩肘張らないマイペースな雰囲気を出しながらも、独自のフェアリー感溢れる素晴らしい仕上がりになっている。ミュージカル歌唱(=台詞の延長にあるために言葉をはっきり伝えることと、台詞回しの声のトーンを変えない歌唱法)に注目されがちな生田だが、この曲で存分に聴ける素直なクリアボイスの鳴らし方が絶品で、《僕のポケットにあるから》の音符の当て方、麗かな声の響かせ方は何度でも聴きたくなる。対する松村の倍音成分多めの可愛げある声もチャーミング。2人の混ざり具合いは抜群で、ユニゾンも実に綺麗だ。

生田の音感は本当に気持ちよい。Dメロで一旦落として、《あの頃の思い出が君を探しているよ》の歌い上げからオーラスへと突入していく展開は、オリジナルともに楽曲のハイライトとなるわけだが、このパートに彼女の持つ天性のボーカル力がよく表れている。

《探しているよ》の《いるよ=B(シ)-D#(レ#)-C#(ド#)》、《い=B》から《る=D#》に上がるピッチを、一発でD#を当てるわけでなく、若干フラットなところからジャストを通り越して、数セント分シャープ気味なところまで押し上げる(しゃくる)ことによって、《よ=C#》へ戻った時に聴感上C#の音程を不安定(シャープ気味)にさせる、という絶妙なピッチ感を用いている。そのために転調したような錯聴を起こす。

要するに、最後の《よ》の音程はC#なのだが、前音の《る=D#》がジャストの音程をはみ出してシャープしていくために、聴き手の耳(音感)はそこに引っ張られて《よ=C#》の着地点(音程)を見失う。そんな聴き手のことはいざ知らず、楽曲はそのままブレイクを挟んで、大サビへと突入していく。この楽曲のキーはC#であり、《よ》の後に重なるゲームボーイ起動音を模したサウンドもC#なのだが、生田ボーカルによって微妙にズレた聴感が生み出され、基準音の音感を見失った状態のまま楽曲が進んでいくために、大サビに突入する流れは元のキーと同じに関わらず、最初のサビとは異なり、転調をしているような妙な感覚に見舞われるのだ。

オリジナルキーはからあげ姉妹より半音下のCなのだが、ここのDメロセクションはからあげ姉妹の方がオリジナルキーの半音下という構成になっており、これはムキムキアニキVer.にも見られない、からあげ姉妹Ver.ならではの構成である。オリジナルではDメロ終わりの音がD(レ)、そこからサビ頭のG(ソ)へ流れていくが、からあげ姉妹はDメロ終わりがC#、そこからサビ頭のG#(ソ#)、と全音分の移動域が少ない。

ちなみにアニキVer.のキーはオリジナルより短3度下のAである。先述のゲームボーイ起動音(3曲ともにド頭もこのサウンドで始まる)も各キーに合わせた音程になっているので、聴感上含めた各バージョンの違いなど、細かいところを聴き比べると面白い。

松村は、6月9日リリースの27枚目のシングルの活動をもって、乃木坂46から卒業することが発表されている。今後、からあげ姉妹の活動がどうなるのかはわからないが、もともと神出鬼没な活動であるために、2人が無表情でシュールに歌って踊る姿をこの先も見られることを期待したい。

kolokol 佳凪きのは鉄オタなのか

さて、話は『賭ケグルイ』に戻るわけだが、この作品の狂気の世界に欠かせないものとなっているのがPassCodeの「一か八か」だ。

PassCode - 一か八か (Zepp Tour 2019 at Zepp Osaka Bayside)

PassCodeのエフェクトボーカル+スクリームに可変型ハードコアは、フォロワーどころか、今やラウドロックアイドルの1つの雛形と化しているといっても過言ではない。そんなPassCodeの事務所、we-B studios所属の後輩グループであるKolokolの佳凪きののnoteがアイドルファンの間で話題になっている。

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佳凪きの note

注目は「佳凪きのは鉄オタなのか」と題された4月23日付のエントリーだ。普段からヲタク気質であることを公言し、“趣味:駅舎めぐり”を公言している彼女。なんとなく読んでみたらそのガチっぷりに火傷をする人が多発。膨大な知識量と駅舎愛の熱量もすさまじいのだが、特筆すべきはその文章力である。構成力と説得力に長けた、いわばエッセイ的とでもいうか、けっこうな文字量でありながらも読みやすい文脈リズムが心地よい。ヲタク特有の知識をひけらかすような1人よがりな文章ではなく、無知な人をも惹きつけてしまう“読ませる文章”である。はてな記法ならぬ、note記法も完璧に使いこなしており、header typeや強調太字、そしてnote特有の改行タイミングも絶妙である。

“楽天経済圏”や“仄めかす”なんて言葉がしれっと出てくるアイドルの文章なんてはじめて目にした。それに〈└〉や〈├〉といった罫線を駆使したディレクトリ構成図は、ライターでも書ける人はなかなかいないだろう。ちなみに〈└〉や〈├〉はIMEによるが、“けいせん”で変換する。

noteのマガジン機能もきちんと使いこなしており、マガジン「歯科矯正」はネット上にある歯科矯正情報の中でも、1番わかりやすくまとめられているといってもいい内容なので、歯科矯正を考えている人は一読する価値があるだろう。

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佳凪きの note「歯列矯正」

Kolokolが創るファンタジックな世界

そんな彼女が所属するKolokolは、PassCodeの後輩グループでありながら、音楽性やスタイルを継承しているわけではない。激しくエモーショナルなロックナンバーから空想的な御伽噺の世界まで、稀有なオリジナリティを持ったグループであり、本コラムの恒例大人気企画「ギターがカッコいいアイドルソング」でもプッシュしている。何よりもここ最近ライブの完成度が上がりに上がってきている大注目株である。

Kolokol - Lullaby(Kolokol 2nd ONE MAN SHOW WONDERLANDより)

上記記事で語ったことを改めて引用すれば、

“ロックアイドルのEmoって、けっこう様式化してるというか、正直どこも大差なくて食傷気味になってる部分もあるんですけど、ここは方法論がまるっきり違いますね。ロックを前提として曲を作ってるんじゃなくて、メロディとしての抜本的分がしっかりあって、アレンジでそっちの色をつけていってる感じだと思います”——「ギターがカッコいいアイドルソング2020」より

多くのアイドルグループが、ラウドロックであること、ヘヴィなバンドサウンドを鳴らすこと、ロックバンド然とすること……といったような“アイドルの概念に囚われないこと”が前提としてあり、人と変わったことをやることが逆に標準になってしまっている風潮もある中で、まず楽曲ありきで、その表現を重視していった結果ロックになった、という方法論であるように思えるのがKolokolの特異性だ。

Kolokol - Dead End(2020年)

楽曲を手掛ける西羅和貴のセンスが抜群。美麗なメロディと荘厳で神秘性あるアレンジを得意とする。メロディセンスが際立っているのに加えて、メロディ&歌から楽曲の世界観を膨らませていく術が見事なのである。

「ストリングスの入れ方や鍵盤、シーケンスやリズムパターンもそうなんですけど、音楽の幅を広げるというよりも、この「Pale Star」であれば楽曲イメージとしてある退廃的な世界観だったり、ひとつのこだわりを徹底的に作り上げる要素として聴こえるんですよね。だから音数は多いけど無駄がない、全部必要なもの」——「ギターがカッコいいアイドルソング2020」より

先述の記事の通り、上モノやFX(効果音)といった装飾音の入れ方が効果的で、音数は多いが無駄は一切ない、全部が必要要素として散りばめられている。

御伽噺から神話的なもの、二次元的な雰囲気漂う楽曲が多いのも特徴だ。中世ヨーロッパ観とでもいうか、どこか遠い異国情緒を感じることもある。しかし、ゲームやアニメなどの楽曲に多く見られるルネサンスやブルボン朝などの西欧イメージではなく、ハンガリー舞曲にスラヴ民謡、百塔のプラハといった、東欧の匂いを感じるのがKolokolの不思議な魅力である。

東欧フォルクローレ味ある Kolokol - Miss Shooting Star(2021年)

各メンバーのボーカル力も高い。佳凪の不思議な倍音を持ちながら甘えた少女のような豊潤な声と、真嶋このみのスモーキーでハスキー気味のクールボーカルの対比。その間を高橋あきほのしなやかなで潤いある声と藤本さきの飾り気のない真っ直ぐな声が埋めていく。

Kolokol - スコール(2018年)

先月、延期に延期を重ねて待ちに待って開催された東京での初ワンマンライブ、3rd ONE MAN SHOW<Miss Shooting Star>を大盛況に終えたばかり。現在は東名阪ツアー<ORIGIN>の真っ只中。Kolokolから目が離せない。

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