「テレワーク実施率」全国ワーストの和歌山で、サテライトオフィス活況の理由

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◆テレワーク実施率全国ワーストの和歌山県

 パーソル総合研究所が2020年11月に従業員10人以上の企業で働く20~59歳の男女約2万人を対象にした「新型コロナウイルス禍におけるテレワーク実施率」の調査結果を発表。1位は東京で45,8%、2位神奈川が34.9% 3位千葉が26.2%と続くなか、最下位となったのが和歌山の3.5%だった。

 テレワーク実施率全国最下位となってしまった和歌山県。しかし、県内有数の観光地でもある白浜町は近年、国内外のIT企業誘致に成功し、白浜町が設けたサテライトオフィス(企業や団体の本社・本拠から離れた場所に設置されたオフィス)用レンタルオフィスビル2棟は満室。さらに別の企業保養所施設を民間企業が買い取り、改修したサテライトオフィス用レンタルオフィスビルも2020年11月に開設している。

 多くの地方自治体がサテライトオフィス誘致に挑んでいる昨今、成功事例はまだ少ない。そんななか、なぜ「テレワーク後進県」である和歌山県白浜町はサテライトオフィス誘致に成功しているのか。そして、白浜町はなぜサテライトオフィス誘致に動いたのか。「IT企業の集積する“シラコンバレー”を目指す」という白浜町の挑戦を白浜町役場総務課企画政策係(取材当時)の大平幸宏氏に聞いた。

◆コロナ禍では観光業に大きなダメージ

――パーソル総合研究所の調査で和歌山県はテレワーク実施率全国最下位という結果が出ました。こちらについての率直な見解を教えてください。

大平:和歌山県はコロナ感染者が他府県に比べると抑えられています。また、都市部に比べてテレワークに適している職種が少なく、一次産業従事者が多いこともテレワーク実施率が低い理由のひとつです。ただ、コロナの感染拡大とは関係なく、全国的にテレワークが普及しているので、和歌山県でも新しい働き方として広げていくべきだと考えています。
 
――コロナ禍で世界中が大変な状況になりましたが、白浜町役場の働き方に変化はありましたか?

大平:行政としての働き方に変化はありませんでした。受付前に透明のアクリル板を置く、アルコール消毒液を設置するという基本的な感染対策を取りながら過ごしています。

――それでは白浜町にとって主要産業である観光業はいかがでしたか?

大平:観光業は大きなダメージを受けましたが、GoToキャンペーンや県の施策により、県内の他市町村からの来訪者が増えました。具体的には小中学校の修学旅行先として、県外には行けないので白浜を選んでいただくなど、いつもとは違った客層の方が訪れてくれていますね。ただ、前年と比較すると大幅に減少しており、今後も厳しい状況が続くことが予想されます。

◆2001年から企業誘致をスタート

――それでは本題に入ります。まず白浜町がサテライトオフィス誘致に動くきっかけは何だったのでしょうか?

大平:和歌山県は高校卒業後の県外進学率が長年、ワースト1位でした。県外に出た方は大学卒業後もそのまま都市部で就職する傾向が強く、地元に戻っても就職先が限られています。そのようななか、都市部と同じ仕事が地方でもできる情報通信関連企業に着目し、IT企業の誘致を進めました。

――そこからサテライトオフィス誘致活動を始められたのですね。

大平:はい、そうです。 2001年に和歌山県の施策から企業誘致がスタートし、2004年から町営のレンタルオフィスビル「白浜町第1ITビジネスオフィス」をオープン。当初は企業の撤退もありましたが、2014年からそれまでの反省を生かして企業に定着してもらえるようなサポート体制に重点を置き、企業誘致に取り組みました。

 2015年には総務省のふるさとテレワーク事業を活用してセールフォース・ドットコムさまが白浜町にサテライトオフィスを開設。都市部と同じ仕事をしながら生産性が20%以上向上したという実績を残していただきました。

 その後も情報通信関連企業を中心に多くの企業がサテライトオフィスを設けています。今後は他業種の企業にも当町でサテライトオフィスを設けたり、本社機能を移転したりするなどしてもらい、白浜発の「白浜モデル」のような新たなイノベーション創出を期待しています。

◆県と連携して企業をサポート

――和歌山県とはどのような連携をされていますか?

大平:和歌山県には東京事務所を中心に都市部の企業へ営業活動をかけ、サテライトオフィス開設につないでもらっています。そのほかにも白浜町に拠点を開設する際の家賃補助や航空運賃補助などの奨励金、高専や大学と連携した人材確保などで連携を進めているという体制です。

――以前、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の三友仁志(みとも・ひとし)教授がサテライトオフィス誘致について「箱モノを作ったから誘致できるわけではない。白浜町のように企業のニーズをくみ取り、進出に見合ったメリットを提供する必要がある」と語っています。白浜町では具体的にどのような取り組みをされてきましたか?

大平:企業のニーズは多種多様にわたります。人材確保やローケーション、地域との交流、CSR活動などを企業から聞き取り、企業が白浜町に進出した際にスムーズに地元と関わりを持てるようサポートしています。具体的には、実証実験を行うための地元企業とのマッチングやプログラミング教室を開催するために小学校への依頼、各種ボランティア活動の紹介などです。

◆実はサポートが必要なのは「業務時間外」

――大平さんはサテライトオフィスに定期的に訪問されてヒヤリングをされているとお伺いしました。かなり細かいところまで企業をサポートされているようですが、実際に白浜町のサテライトオフィスを入った企業からはどのような反応がありましたか?

大平:都市部から地方へ移住される方に最も変化があるのは日常生活です。業務内容は都市部とほとんど同じですが、通勤手段や買い物、食事、休日の過ごし方などの業務時間外についてサポートが必要なことが多くありました。実際に移住されてからは通勤時間が減ったことで余暇が増え、温泉巡りなどの趣味ができたり、ボランティア活動を始めたりといった都市部では挑戦しなかった新しいことを始める方が多くいらっしゃいます。

――白浜町の取り組みに対して、地元の皆さんの反応はいかがでしたか?

大平:白浜町は観光業が主産業なので、町外県外から人が訪れることに抵抗感はなく、むしろ受け入れ体制が整っていました。また、進出企業の方も積極的に地元へ溶け込もうと活動していただいたので、より身近に感じていただいています。

◆ITの普及にも一役買う

――そこは観光地である利点が生きて、拒絶反応がなかったのですね。シラコンバレーを推進したことで白浜町にも変化が生まれましたか?

大平:地方の自治体なので「IT」についてまったくわからない方が多く、実際に触れる機会もありませんでした。そんな町に多くの先端企業が集まり、プログラミング教室やボランティア活動などを通じて、IT分野に興味を持つ住民が増えている実感があります。子供たちの将来の選択肢の中にIT企業が含まれるなど、ITに関する考え方に変化がありました。

――白浜町の子供たちにとって将来の夢が広がったわけですね。今後、白浜町で取り組みたいこともお聞かせください。

大平:今までは観光業が中心となって町の産業を支えてきましたが、IT企業の集積やワーケーションが新たな柱となりつつあります。それぞれが別々の柱といったわけではなく、「観光×ICT」のような相乗効果を生み出せるようにさらになる企業誘致の推進を進めていきたいと考えています。

◆「シラコンバレー」の将来像

――最後にお聞きします。これからのシラコンバレーの展望についてどのようにお考えですか?

大平:移住定住やサテライトオフィスの開設となると、どうしてもハードルが高くなってしまいます。白浜町ではワーケーションを中心に関係人口や交流人口を創出し、ビジネスと観光の両面で町に関わりもらえるように取り組みを進め、将来的には移住定住やサテライトオフィスの開設につなげるとことで、地域活性化に取り組みたいと思います。また、白浜町だけではなく、周辺市町や紀南地方と呼ばれる県南部の自治体間や事業者と連携して多くの企業が集積できるように推進していきます。

 観光地とITという二本柱で相乗効果を生み出しながら新たなビジネスチャンスを掴もうと奮闘を続ける白浜町。地方自治体の意欲的なチャレンジには、「テレワーク実施率ランキング」からは読み取れないは可能性が秘められているようだ。

<取材・文/ジャスト日本>


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