不動産業界を知り尽くすTKP河野社長。アフターコロナのオフィス業界を語る

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―[あの企業の意外なミライ]―

 TKPは、コロナ禍で変化した貸会議室の需要に合わせ、即座に「試験会場」や「給付金会場」など公的な需要の取り込みに成功しています。さらに、徹底的な事業の「選択と集中」により業績の立て直しを実行しています。守りの姿勢だけでなく、今こそ、「シェア拡大のチャンス」とTKPが攻めの姿勢であることは、前半のインタビューでお届けしました。

 インタビュー後半では、TKPが「サテライトオフィス市場」に本格的に参入する、その狙いはどこにあるのか。さらに、貸会議室を通して不動産業界を知り尽くす河野社長が、アフターコロナの不動産業界、サテライトオフィス市場での戦い方について語りました。

河野 貴輝(かわの たかてる)
1996年慶應義塾大学商学部卒業後、 伊藤忠商事株式会社為替証券部を経て、日本オンライン証券株式会社 (現auカブコム証券株式会社)設立に参画、イーバンク銀行株式会社(現楽天銀行株式会社)執行役員営業本部長等を歴任。2005年8月当社設立、代表取締役就任、現在に至る。

◆TKPがサテライトオフィス市場に本格的に参入

馬渕:TKPがサテライトオフィス市場へ本格的に参入した背景には何があるのでしょうか。

河野:本音と建前があります。どちらも、正直にお話いたしましょう。「やぶれかぶれ戦法」です。

馬渕:インタビュー前半でも伺いましたが、河野社長の「やぶれかぶれ戦法」はリーマンショック、東日本大震災の危機の際にも発動し、むしろ非常に強い戦法だと私は認識しています。

河野:コロナ禍で、リモートワークが浸透し、オフィスのあり方が大きく変わりました。それに伴い、2日以上や1ヶ月以上借りたいという「期間貸し」のニーズが増加しています。そのため、TKPも期間貸しのニーズを捉えています。しかし、本音を言えば、「期間貸し」よりも「時間貸し」のほうが儲かる。でも、あえて、ここは“伝家の宝刀”です。新ブランド『Work X Office(ワークエックスオフィス)』の「期間貸し」によって、レンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースの需要まで全て取りに行きます。「やぶれかぶれ戦法」です。

馬渕:いや、河野社長の必勝法に見えます。なぜならば、TKPの場合は「今は、期間貸し」をしていても、需要が戻ればすぐに「時間貸し」に戻すことだってできますよね?

河野:おっしゃる通りです。あえて“フレキシブル”にスペースの貸し方を行き来できるようにしています。私たちが持っているスペースは、オフィスビルです。そもそも、オフィスビルを「時間貸しの会議室」にして、さらには「時間貸しのパーティー会場」にまで拡張していたに過ぎません。原点に戻れば、TKPの会議室はいつでもオフィスに戻せるんですよ。その逆も、然り。オフィスはいつでも時間貸しの会議室に戻せます。

馬渕:その柔軟さがTKPの強みだと思います。

◆日本のオフィス賃料市場、年間30兆円

河野:オフィスの空室率が高まっていると言っても、5.2%(2021年3月時点)です。94.8%は稼働しているわけです。オフィスの需要はあるので、TKPがレンタルオフィスを作れば必ず需要があります。TKPはもともと仕入れが安いですから、リーズナブルに貸していけば、すぐに100%の稼働率になると思いませんか。

馬渕:企業もオフィスに対するコスト削減意識は、コロナ禍で高まっていますので、当然、TKPの提供するリーズナブルな価格は魅力的でしょう。

河野:我々は、「もったいないスペースを借りる」というビジネスモデルですから、マーケットの相場の何割も低いところでスペースを借りています。そこが強みです。「時間貸し」は高い利益が出ますが、それは「期間貸し」になっても同様です。それが『Work X Office(ワークエックスオフィス)』のコンセプトです。

馬渕:『Work X Office(ワークエックスオフィス)』の真髄は?

河野:「時間貸し」と「期間貸し」を柔軟に行き来できることが重要です。今持っている空間に手を加えちゃいけない。価格をグッと抑えることで、価格優位性があり、そこで勝負をかけています。大手不動産のワークシェアリングのようにお金をかけずに、そのままの状態で貸し出します。1年以内で貸し出しておいて、今後、時間貸しの需要が戻った時には「時間貸しの会議室」に戻せるようにしておきたいのです。

馬渕:いかに、オフィス空間の形式を柔軟に「行き来」できるかということですね。

河野:我々は、ハイグレードなレンタルオフィス「リージャス」から貸会議室「TKP」までの、幅広いレイヤーのオフィス市場を押さえています。日本のオフィス賃料市場は年間30兆円のマーケットで、そこからこぼれ落ちるように、需要が染み出てきています。「レンタルオフィス」「サービスオフィス」「シェアオフィス」「コワーキングスペース」「貸会議室」が、需要の受け皿になっています。特に、企業の本社から離れた場所に設置する小規模なオフィスであるサテライトオフィスが拡大傾向で、その需要をTKPとリージャスによって網羅的に獲得することができます。

◆約467億円のリージャス買収で得たモノ

馬渕:ハイグレードなレンタルオフィス、「リージャス」をコロナ前に買収していましたが、コロナ禍でどのような影響がありますか。

河野:世界No.1のレンタルオフィス事業を展開する「リージャス」の日本法人を2019年4月に約467億円で買収したことは、今となっては、TKPの強みとなっています。

馬渕:2019年頃は、TKPは売上高が約350億円でした。その時に、約467億円のM&Aを成功させるには、並々ならぬものを感じます。

河野:当時、ちょうどレンタルオフィスの企業を買収したいと、水面下で動いていた時期に、リージャスが日本法人を売るという話が伝わってきたので、すぐにロンドンに飛びました。このM&Aを実行したら、TKPは倒産するんじゃないかと思うくらいの大きな買い物でした。

馬渕:リージャス買収の狙いは。

河野:リージャスとTKPは一緒にビジネスができれば、相互送客や仕入れ等のシナジー効果のシナリオを描くことができます。貸会議室に、レンタルオフィスやコワーキングスペースが加わることで、どんな空きスペースでもジグソーパズルのラストピースを埋めるように活用できるわけです。

馬渕:大型M&Aの買収の成功には苦労があったそうですね。

河野:絶対に世界No.1のリージャスとのM&Aを成功させたかった。しかし、上場してまだ日が浅かった我々には、リージャスを手掛けるIWG社に最初に提示された金額は、到底買える値段ではありませんでした。値段交渉を何度も行い、なんとか値段のすり合わせをすることに成功しました。

◆「売ったら終わりじゃない、一緒に大きくしていこう」

馬渕:リージャスの買収には、他にも手を挙げていた企業があったそうですが、競合を押しのけてTKPが手にすることができたのはなぜでしょう。

河野:我々は日本で、貸会議室をここまで急成長させてきた自負があります。「レンタルオフィスの分野をリージャスとTKPで一緒に成長させたい」と伝えました。

馬渕:リージャスが譲らないのであれば、TKPがレンタルオフィスをやればいいだけの話ということですね。それは、リージャスにとって非常に恐い存在です。

河野:リージャスはイギリスを拠点としています。ロンドンからアジアは遠く、文化も違うのでアジアは別の企業に任せたいという思いがあったわけです。それならば、TKPと組んだほうがいいに決まっている。我々は、日本だけではなく、アジア展開も考えています。リージャスとTKPで、ともに成長してマーケットを拡大させていくために、リージャスに“フォローの風”を吹かせて欲しいと話しました。

馬渕:買収の値段を下げて、リージャスにTKPを応援して欲しいと。

河野:それだけではありません。IWG社のマーク・ディクソンCEOには、TKPの社外取締役に就任してもらっています。「売ったら終わりじゃない、一緒に大きくしていこう」と話しました。

馬渕:話を聞いてるだけで、汗がでてきました。そうやって、仲間になったわけですね。

河野:コロナ前にリージャスを買収していたことで、リージャスのもつハイグレードなレンタルオフィスを獲得できるようになりました。リージャスの価格帯に合わないお客様にも、TKPの貸オフィスを利用していただけるため、全方位的に網羅しています。全部が結果的に繋がっていますね。

◆TKPの10年後はさらに、価値が高い企業に

馬渕:5年後10年後の河野社長の展望を教えてください。

河野:5年後10年後はオフィスのあり方が大きく変わっているでしょう。ただ、私のメッセージは15年前から一貫して変わっていません。「もったいないものを無くしたい」です。“石ころ”を“ダイヤモンド”かのようにして売るビジネスではなく、本当に良いものを安く提供していきたい。今後も、会社として信用を積み上げていきます。今回の危機を、一つのチャンスと捉えて、10年後にもっともっと価値が高まっている企業になっていたいと思います。

馬渕:10年後は、今とは全く違う視点で勝負されているんだろうなと思います。

河野:TKPは危機があるたびに、成長してきています。コロナを経て時価総額1兆円企業を目指しています。今回の危機を乗り越えなければ、そもそも経営者として失格だと思いますので、しっかりと乗り切って、次のアクセルを踏めるように頑張っていきたいです。

馬渕:ありがとうございました。

<取材・文/馬渕磨理子 撮影/山川修一>

―[あの企業の意外なミライ]―

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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