サムットプラカーン・シティでの1年目を終えた石井正忠監督「来季はACL出場権を獲得したい」

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 タイリーグ1部のサムットプラカーン・シティを率いる石井正忠監督。2019年12月に就任し、昨年2月に開幕した1年目のシーズンはコロナ禍の影響で2度の長期中断を余儀なくされ、今年3月にようやく幕を閉じた。

 予定外の長いシーズンとなったタイリーグでの1年目は、14勝5分け11敗という戦績で6位。序盤戦こそ勝ち点を重ねられずに下位に低迷したが、徐々にチームをつくり上げて順位を上げ、昨年12月にはリーグ月間最優秀監督にも選出された。

 2021ー22シーズンも続投が決まり一時帰国中の石井監督に、初めて海外のクラブを率いて戦った1年を振り返ってもらった。

取材・文=本多辰成

海外で指揮することは全くイメージしていなかった


——タイリーグでの1年目は非常に長いシーズンとなりましたが、石井監督にとってはどんなシーズンでしたか?
石井正忠(以下、石井) 初めての海外での指揮ということで、本当に毎試合、反省することが多かったですね。改善しなければいけないことの多いシーズンでした。

——海外での指揮については、もともと関心があったのですか?
石井 いえ、全くイメージしていませんでした。オファーを受けたときには、なんでタイなんだろう、どういうきっかけで私のことを知ったんだろう、という感想を抱きました。話を聞いてみると、鹿島アントラーズの監督をしていたときにサムットプラカーン・シティのグラウンドを使わせてもらったことがあって、オーナーさんが私のことを覚えていたようです。そのうえで2016年のクラブワールドカップ以降の成績などを見て、私に声をかけたということでした。

——オファーを受けることを決断した理由は?
石井 オファーを受けた年は、一度サッカーの現場から離れて家族との時間をつくるために1年間、別の仕事をしていました。そんななかでも鹿島の試合を見に行ったりして、やっぱり現場に戻りたいという気持ちが湧いてきたときに、ちょうどサムットプラカーンから話をいただいたんです。それが10月頃で、まずはそのオファーに対してアクションを起こそうと。2019年のホーム最終節だったと思いますが、タイに試合を見に行ってオファーを受けることに決めました。

——視察した試合では、どんな印象を持ちましたか?
石井 鹿島の監督時代にAFCチャンピオンズリーグでムアントン・ユナイテッドと対戦したことがあるので、タイのチームのイメージは持っていました。攻撃的なチームで、先制点を与えるとかなり勢いに乗ってくるという印象だったので、隙を見せたらやられてしまう。一方で間延びしてしまうところがあって、守備の意識はちょっと緩い部分もありました。サムットプラカーンの試合を見てもそのままの印象だったので、タイのチームは全体的にこういった傾向があるのかなと感じました。

序盤戦は苦戦も、12月にはリーグ月間最優秀監督に選出



——実際に監督に就任して、チームの第一印象はいかがでしたか?
石井 選手の能力に関しては、非常に高いものがあると感じました。あとは、日本の選手と比べると、タイの選手たちはあまり規律がないとか、練習がダラダラとしてしまう面があると聞いていたのですが、それは全く感じませんでした。サムットプラカーンは前シーズンに村山哲也さんが半シーズン監督をやられていたというのもあるかもしれませんが、とくに日本と違うところもなく、すごく印象はよかったです。

——12月に就任されて2月の開幕まで、どういった部分を重点的にトレーニングされましたか?
石井 やはり守備ですね。あとは、攻守の切り替え。攻撃から守備への切り替えを意識してトレーニングしました。オファーをいただいて試合を見に行った際もその部分が課題だと感じたので、試合の感想として書いて置いていったんです。若いチームですし、そこを改善できればすごくよくなるんじゃないかと思っていました。

——開幕時は1分け3敗というスタートで、前半戦は下位に沈む苦しい時期もありました。その後、徐々に調子を上げて12月には全勝でリーグ月間最優秀監督にも選出されましたが、開幕前から取り組んできたことが少しずつ形になっていったのでしょうか。
石井 そうですね。ただ、開幕時もリーグ上位の力を持つチームとの対戦が続いたので結果は出ませんでしたが、それほど悲観する内容ではなく、手応えを感じていました。選手たちのコンディションもよかったと思いますし、コロナによる中断期間もオンラインでトレーニングを続け、中断明けには結果も出るようになった。やっぱり勝つことが一番ですから、勝つことによってチームの雰囲気もよくなり、選手たちも「これを続けていけばいいんだ」と思ってくれたんじゃないかと思います。

——タイのサッカー界には、日本の指導者に対して規律などを植えつけてほしいというニーズもあるかと思います。一方で、タイならではのよさもあると思いますが、それについてはどのように考えていましたか?
石井 その部分はバランスが必要だと思っていたので、タイでの経験が豊富な加藤光男コーチやタイ人のコーチとも相談しながらバランスを考えてやっていました。ただ、基本的にはタイだからどうというより、自分の考えをしっかりとブラさずに伝えることを意識していました。たとえばタイの選手は人前で叱られるのを好まないと聞きましたが、私は自分の考えとしてみんなの前で叱ることもありました。タイ人だからということではなく、コミュニケーションをしっかりと取って、自分の正直な部分を選手たちに分かってもらう。サッカーのスタイルについても押しつけるのではなく、「こういう考えでやろうと思うけど、どう?」と自分の考えを選手たちに伝えて、コミュニケーションを取りながらやるようにしていました。

——チームを率いるうえで、海外のクラブならではの苦労などはありましたか?
石井 細かいことはいろいろとありましたが、やっぱり一番は言葉ですね。選手とのコミュニケーションをもっと取りたかったんですが、通訳を介するとなかなか自分の考えを100パーセント伝えることは難しかった。タイの選手は自分から監督やコーチにものを言うことはほとんどないんですが、一人ひとりに話を聞いてみるとすごくよく話してくれるんです。自由に直接選手たちと話すことができれば、もっとよかっただろうとは思います。

——小野悠斗選手がシーズンを通して主力としてプレーしましたが、日本人選手がピッチにいるのはコミュニケーションの面でも助けになったのではないでしょうか。
石井 それは本当に大きかったです。悠斗に関してはその部分でも助かりましたし、彼がいなかったらこの成績はなかったんじゃないかというくらいのキーマンでしたね。私の日本語をタイ語にしてくれる通訳がいて、それを英語にしてくれるコーチもいるのですが、それでもうまく伝わらないところを彼がフォローしてくれていた。コミュニケーションの部分でも、うまくタイ人選手と外国人選手の間に入ってくれていたので助かりました。

来季はなんとしてもACL出場権を獲得したい


——サムットプラカーン・シティに所属するMFジャルンサック・ウォンコーン選手には、昨年、清水エスパルスやV・ファーレン長崎が獲得に興味を示しているという報道がありました。石井監督から見て、彼はどんな選手ですか?
石井 タイ人の選手は全体におとなしく、日本の選手に比べるとちょっと向上心が少ないように感じますが、彼はJリーグや海外でプレーしたいという目標を持っています。そういう思いがあればタイの選手たちはもっと伸びていくと思うので、若い選手たちには彼のようになってほしいですね。現時点でJリーグのトップレベルかと言えばまだまだじゃないかとは思いますが、このままトレーニングをしていけば間違いなくJリーグでもやれると思います。

——チャナティップ、ティーラトンらJリーグで活躍するタイ人選手も出てきていますが、彼らに続くタイの選手は今後さらに出てくるでしょうか。
石井 タイの選手は全体に能力は高いと思いますが、状況判断やポジショニングの面では日本の選手に比べるとまだレベルが低いように感じます。チャナティップの場合は自分で仕掛けるのが特長なので、技術的なところがあればいいという面もある。それから、チャナティップもティーラトンもそれぞれチームのスタイルにハマっているのが大きいでしょう。今回、FC琉球に入団したシティチョークのような選手がJリーグでちゃんとできるかというのは、一つの指標になるかと思います。

——現状、Jリーグにやってくるタイ人選手は攻撃面に魅力のある選手が多いですが、DFの選手についてはどうでしょうか。
石井 タイリーグではFWとセンターバックに外国人を使うチームが多いので、そこはタイの課題じゃないかと感じています。なので、私はできるだけFWとセンターバックにタイ人選手を起用するようにしています。たとえば4バックで2枚のセンターバックがいれば一人はタイ人、FWも2トップならどちらかはタイ人という形でやりたいと思っています。タイで指導させてもらっている以上、タイサッカーの発展のために力になりたいので、そこは意識してやっています。

——来季の続投が決まりタイリーグでの2シーズン目を迎えますが、1年目の経験を踏まえての目標を教えてください。
石井 1年目は6位という結果でACLに出場する権利を逃してしまったので、来季はどうにかACL出場権を取ることが目標です。順位としては確実に3位以内まで上げたいと思っています。メンバーは変わってしまうかもしれませんが、1年目でベースはある程度できているので、攻守ともにさらに組織力を上げていきたい。今シーズン優勝したBGパトゥム・ユナイテッドなどとは予算規模も違うので難しい面もあるかもしれませんが、対等に戦えるところまでは持っていけると思っています。

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