「妊娠中に他の男と…?」“ある写真”を手に入れた35歳夫が、妻を問い詰めたら

リカ@久しぶりの自宅


出産直後、私は生死の境をさまよったらしい。

だからかな、マサルは涙を滲ませ、愛おしそうな目で私を見つめ、愛を呟いた。

優しい手つきで娘を抱き、柔らかい笑顔で私のそばに付き添ってくれた。心を入れ替えたようだった。

― 赤ちゃんって、どんな夫婦にも幸せを運んできてくれるんだ…。

そんな風に、この上ない幸福感を味わっていた。

しかし、至れり尽くせりの病院を退院し、自宅に帰ると日常生活が待っている。経営者であるマサルは育休なんて取れるわけがなく、毎晩遅くに帰ってくる。

産後の体は全治1ヶ月以上の交通事故と同程度のダメージといわれているが、そんな状態で容赦なくワンオペ育児が始まった。

育児を経験した友人たちには”ジーナ式”を勧められたが、泣き叫ぶ娘のエマをベッドの上に放置することに耐えきれず抱き上げてしまう。

腱鞘炎になりそうな程、娘の背中を優しくトントンし、気づけば1時間も立ったままユラユラし続けた。

腕の中でようやく眠った娘が起きないように全神経を集中させ、そっとベッドの上に戻す。

そんな時に限って、夫が帰ってくるのだ…。


ドアがバタンと閉まる音が響き、ドタドタと歩く音が近づいてくる。

― お願い!今は、この部屋に入ってこないで…。

私の願いは通じず、夫は子ども部屋のドアを勢いよく開け、物凄い剣幕でまくしたててきた。

「おいリカ、どういうことだよ。妊娠中、他の男と会ってただろ?」

マサル激怒。リカと“あの男”との密会がバレた理由とは…!?

「しーっ!起きちゃうでしょ、静かにして…!」

思わず夫を睨みつけると、マサルはさらに声を荒らげた。案の定、エマが目を覚まし泣き始める。


「寝かしつけなんてベビーシッターに任せればいいだろ。大事な話があるんだ」

夫は、ナニーやシッターを頼れと再三言ってくる。

しかし、不特定多数の人間と面談を重ねて信頼できる人材を探し出す気力はなく、そもそも赤の他人を家に入れて大切なエマの世話を任せる気になれなかった。

どちらにせよ完全母乳で育児中の私は、他人にそれを代わってもらうことはできないため、昼夜問わず3時間おきに授乳をしなければならない。

母乳は血液から作られているらしく、1日1ℓ近く命の源を搾り取られていることになる。

常にフラフラした貧血のような状態で、目の下にはゾッとするほどクマができた。

娘がようやく寝ても、「ちゃんと息してるかな…」と心配になって、気が休まることはない。

産後は鬱になりやすく、妊産婦の死因で一番多いのは自殺だという情報が頭をかすめる。

母性というよりも、小さな命を守らなければいけないという責任感に駆り立てられる。寝不足も相まって、とにかく今の私は神経が過敏になっていた。


「はぁ…、こんな時間に突然ベビーシッターなんて呼べるわけないでしょ。赤ちゃんを寝かしつけないといけないから、後にしてくれない?」

マサルに背を向け、泣きわめくエマを抱き上げようとした瞬間、思い切り腕を掴まれた。

「これ、見ろよ」

マサルが投げ捨てた紙に目をやると、衝撃的な文字が浮かび上がった。

『沢山リカ、妊娠中に“元彼”と密会デート!?夫とは絶賛レスで早くも別居か』

「なにこれ…」

「ゲラだよ。記事が出るって。何やってんの?いい加減にしろよ」

「ちょっと待ってよ。元彼じゃないわよ、ただの友達なんだけど…」

ゲラには、俳優のユウセイと横浜の夜景を見ている写真がデカデカと掲載されていた。

「友達って、そんな言い訳を信じられるわけないだろ。こいつと昔、熱愛報道されてたよな」

「それは…、ドラマで共演してたから話題作りのためだったのよ。それに…」

― ユウセイはゲイだ。

その事実を話せば、マサルの怒りは鎮火するかもしれない。でも、いくら夫であろうと、ユウセイが隠し続けている秘密を、私の口から明かすわけにはいかない。

「それに…?」

「…なんでもない。とにかく、ただの友達なの。妊娠中は精神的に参ってて、昔からの友達と心置きなく話したかっただけなのよ」

「話したいだけなら電話でいいだろ。昔の男とわざわざ会ってドライブして夜景なんかみちゃってさ、どっからどうみてもアウトだろ」

誰にも会えない悪阻期間をたった一人で耐え抜き、久々に会った女友達ともわかり合えず、私はもう限界だった。


話がしたかっただけじゃない。

とにかく会って、心を交わしたかった。安心できる空気に包まれたかった。無言で肯定されたかった。肩を寄せ合って温もりを感じたかった。涙を拭ってほしかった――。

「ユウセイは、私の大切な親友なの…」

マサルと付き合ってからは、ユウセイを含め芸能界の知人とは距離を置いていたし、もちろん浮気をしたことは一度もない。

そんな私の誠意が伝わっていたのか、マサルは、今まで私の交友関係に口を出してくることはなかった。だから、これほどまでに責め立てられるのは、初めてのことだった。

「こんなデマ記事、止めてもらいましょ。別のネタに差し替え…」

「無理だよ。もう、日本中に知れ渡ってる。これ撮ったの一般人らしくて、既にツイッターで拡散されてるよ。リカのインスタもめちゃくちゃ荒れてる」

酷すぎる…誹謗中傷の内容とは

マサルの言葉を聞き、育児に奔走していて、今日一日スマホをいじっていないことに気づく。椅子の上に放置されたままになっていたスマホを手にとり、急いでSNSを開く。


『妊娠中に元彼に会うのはさすがにドン引き』

『ビリオネアと結婚して、イケメン俳優と不倫なんて強欲ですね』

『ユウセイに近寄らないで!消えて欲しい!』

『赤ちゃんが可哀想…』

『ヤバイ母親に育てられた子どもの先が思いやられる』

『母親失格!』

スクロールするたびに、誹謗中傷が目に飛び込む。言葉が鋭い刃物のように、心を突き刺してくる。マサルは冷たい視線を向け、その間も絶え間なくエマは泣き喚いている。

その瞬間、張り詰めていた糸がプツンと切れた。


産後の体力はとっくに限界を超え、最近は気力だけでなんとか生きていたのに、張り詰めていたものが切れてしまったのだ。

涙が滲んでいるのか、焦点が合っていないのか、視界がぼやけたまま、床に転がったスマホを見つめていた。

耳に膜が張ったようになり、赤ちゃんの泣き声が遠ざかる。

勘違いされるようなことをしてしまった私にも原因はあるけれど、友達と夜景を見ながら語り合っていただけで、なんでこんなに責められなければいけないのだろう。

妊娠中も産後も、男は何も生活を変えることなく、飲み会に行ったり女と遊んだりしているのに、どうして女が遊びに出るとこんなに批判されるのだろう。

手を繋いでいたわけでも、キスをしたわけでも、ホテルに行ったわけでもないのに…。

二人で映っている写真を見ただけで、何の事情も知らずに、なんでこんなに酷い言葉を投げかけてくるのだろう。

人のプライベートを勝手に盗撮して、ネットに流したり、週刊誌に売ったり、誹謗中傷をしたり…。

あなたたちは一体何様なのだろう。

百歩譲って、自分のことを叩かれるのは我慢できる。

でも、娘のことをとやかく言われるのは耐えられない。自分以上に大切な存在を傷つけられると、胸が張り裂けそうになる。

好きな人と結婚して、好きな人との子どもを産んで、幸せに暮らしていきたかっただけなのに…。

それが、こんなに難しいことだとは思わなかった。

有名人だろうと、お金持ちだろうと、幸せとは限らない。

だって、本当に大事な問題は、お金じゃ何も解決できないのだから…。


エマを抱いている手が震えている。

力が入らない。

娘のことも、何もかも、一人で抱え続けるにはもう限界だった。

― マサル、助けてよ…。

痛ましいニュースに登場する母親たちも、こんな気持ちだったのかな…。

― 楽になりたい…。

みんな、崖っぷちに立ってギリギリのところで頑張っているんだよね。孤独な母親たちの、悲痛な叫びが聞こえたような気がした。


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