映画『サイン』 マクロな物語をミクロに描いた奇才監督による異色SFのあらすじと解説

拡大画像を見る

世界的に大きな話題になった『シックス・センス』(1999)で大ブレイクしたM・ナイト・シャマラン監督によるSF映画『サイン』(2002)。世界規模の宇宙人による地球侵略を、田舎に住む一家に絞って描いた傑作だ。ヒッチコックのあの名作をヒントにして作られた、謎とスリルに満ちたこの作品をネタバレ込みで徹底解説!

『サイン』あらすじ(ネタバレあり)

『サイン』DVD(発売元:ブエナ・ビスタ・ホーム・エンターテイメント)

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71XnSbyfy8L._AC_SY606_.jpg

アメリカ・ペンシルバニア州バックス郡の田舎町。牧師だったグラハム(メル・ギブソン)は、妻を交通事故で失ったために神の存在を疑うようになり、牧師をやめて農場を営んでいた。彼と一緒に暮らすのは息子で喘息持ちのモーガン(ローリー・カルキン)、その妹で謎めいた言葉ばかりを話すボー(アビゲイル・ブレスリン)、そしてグラハムの弟で元マイナーリーグ選手のメリル(ホアキン・フェニックス)だった。
そんな一家のまわりで、不思議な現象が次々に起きるようになる。ある朝、彼らのとうもろこし畑に巨大なミステリーサークルが作られていたのを皮切りに、一家の愛犬が凶暴化したり、姿の見えない謎の存在が家の周りに出没したり…。これらは何かの兆候(サイン)であり、同じようなサインは世界各地に表れていた。世界各地でUFOと思われる物体の映像が撮影され、テレビニュースで毎日のようにその映像が放送された。それを通してグラハムたちは、あのミステリーサークルが世界各地に現れていることを知る。モーガンはUFOに関する本を持ち歩き、「脳波を読まれるのを防ぐヘルメット」を作って被る。ボーはなぜか家の中のあちこちに水を入れたグラスを置いている。
最初はいたずらかと思っていた町の人々も、ミステリーサークルから遠い場所へ次々に避難していった。だが、グラハムたちは思い出がつまった我が家から逃げ出そうとはしなかった。そんな中、グラハムの妻が亡くなる原因となった事故を起こした獣医のレイ(シャマラン)から電話を受け彼の家を訪ねたグラハムは、レイが捕らえて閉じ込めたという謎の生物を見る。これこそが、地球侵略を開始した宇宙人だったのだ。
やがて、宇宙人はグラハムたちの家にも侵入してくる。地下室に逃げ込んで何とか朝まで持ちこたえたグラハムは、発作を起こしたモーガンの喘息の薬やテレビを取りに行くが、去ったと思っていた宇宙人がモーガンを抱きかかえ、彼に毒ガスを吸わせた。ところが、モーガンは喘息の発作のために気道が塞がっていて、ガスを吸い込んでいなかった。そのことを理解していたグラハムは、近くにいたメリルに冷静に反撃を指示。メリルは近くに置いていたバットで宇宙人に襲いかかった。転んだ宇宙人にボーが置いていたグラスが落ちてきて、水を浴びて死んでしまう。こうして宇宙人の弱点が明らかにあったが、そこに至るまでにいくつかの偶然が重なったことは「運命」だと感じたグラハムは、神への信仰を取り戻した。

鳥が宇宙人に?ヒッチコックのあの名作のSF版?

NEW YORK - JULY 29: Writer/Director M. Night Shyamalan (C) poses with actors Mel Gibson (R) and Joaquin Phoenix during the world premiere of "Signs" on July 29, 2002 at the Allice Tully Hall in New York City. (Photo by Mark Mainz/Getty Images)

地球侵略を企む宇宙人が世界各地を一斉に攻撃…という物語の基本設定は、『インデペンデンス・デイ』(1996)や『宇宙戦争』(2005)のような大スケールの映画になることが多いが、この映画は舞台と登場人物を田舎で農場を営む一家と彼らの家にほぼ限定、背景となる世界的異変はテレビニュースなどで示されるのみで、異常事態に襲われた家族の視点で描かれる。この手の作りの映画は、多い方ではないもののこれまでにも何本か製作されている。それらの原点と言えるのが、今日に至る「ゾンビ映画」の基礎を作ったと言われるジョージ・A・ロメロ監督の『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)だろう。世界中で死者が甦って生きている人間を襲うという状況を背景に、田舎の一軒家に逃げ込んだ人々が立てこもって…というストーリーは、本作がかなり意識しているということがはっきり分かるものだ。ただし、その『ナイト―』も、ウィル・スミス主演の『アイ・アム・レジェンド』(2007)など3回映画化されたリチャード・マシスンの小説『地球最後の男』にインスパイアされたものだと言う。
だが、シャマランがよりダイレクトに意識したのは、「サスペンスの神様」アルフレッド・ヒッチコックの作品の中で最も知名度が高い動物パニック映画『鳥』(1963)だろう。これも、鳥類が一斉に人類を襲い始める(ただし、その理由は劇中でははっきりとは説明されない)というストーリーで、クライマックスは家に立てこもった主人公たちが、侵入してくる鳥たちと必死の攻防を繰り広げる、というものだ。シャマランは本作の公開当時、この映画が『鳥』へのオマージュであることを明言している。そもそも、シャマランは本作も含めて自身の監督作品の多くに出演しているが、これもヒッチコックに倣ったものだろう(もっとも、ヒッチコックが基本的には映画の前半に主に通行人などのエキストラ的な出演だったのに対し、シャマランは特に本作のように助演俳優並みにかなりガッツリ出演していることが多い)。

独特の味わいに満ちた絶妙なキャスティング

『サイン』BD(発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社)

https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/71njTIqiESL._AC_SY606_.jpg

『シックス・センス』と次の『アンブレイカブル』(2000)でブルース・ウィリスを主演に起用し、アクション俳優として定着していた彼のイメージを逆手に取った役を演じさせたシャマランは、続く本作ではギブソンを主演に据えた。『マッドマックス』『リーサル・ウェポン』の両シリーズでアクション系のスターとしてブレイクしつつ、さまざまなジャンルの映画に出演して芸域の広さを示し、ついには『パッション』(2004)など作家性の強い作品を数多く手がける監督としても活躍するようになった。この映画に出演した頃は、まさに俳優業と監督業が両方とも忙しかった時期だが、過去のトラウマと信仰の間で揺れ動く主人公の複雑な心理を見事に表現している。
そんな兄を支え続けながら、自身も過去の心の傷に悩むメリルをユーモアも漂わせながら好演したフェニックスは、アイドル的人気を誇っていた兄リヴァーと同様子役からキャリアをスタートさせ、一旦引退するもののリヴァーの激励を受けて復帰。兄の衝撃的な急死を乗り越えて俳優を続け、『グラディエーター』(2000)の暴君役が大好評を得て「リヴァーの弟」という冠を返上した。この映画への出演はまさにその直後のことで、その後もさまざまな作品に出演し、『ジョーカー』(2019)でアカデミー主演男優賞を獲得した。
彼の“後輩”である2人の子役俳優も好演している。モーガン役のカルキンは名前でも分かる通り『ホーム・アローン』シリーズで一世を風靡したマコーレーの弟。現在でもドラマなどに出演して活動している。ボー役のブレスリンはこの作品が映画デビュー、『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)の演技が大評判となった。その後も『ゾンビランド』シリーズなどで活躍している。

人数を絞った実力派揃いのキャスティングで、宇宙人の地球侵略と家族の絆を並行して描くという独特な作りながら絶妙なリアリティと緊張感と見応えを備えることに成功した傑作だ。

関連リンク

  • 4/28 8:03
  • 映画board

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます