キャスティングの決め手は「成田凌さんの儚さに説得力を感じた」と『くれなずめ』松居大悟監督が語る

拡大画像を見る

結婚式の披露宴と二次会までの中途半端な時間を持て余す6人の男たちの現在と過去が交錯し、やがて目を背けていた事実がそれぞれの人生に立ちはだかる。成田凌主演『くれなずめ』は松居大悟監督の実体験をベースにした舞台の映画化です。作品に対する思いを監督に語っていただきました。

<作品概要>

松居大悟監督が主宰する劇団ゴジゲン第14回公演『くれなずめ』の映画化。松居監督の実体験をモチーフにした完全オリジナルストーリーで、結婚式の披露宴と二次会までの中途半端な時間を持て余す6人の男たちを描いた。

主人公の吉尾和希役を成田凌、舞台演出家の藤田欽一役を高良健吾、欽一の劇団に所属する舞台役者の明石哲也役を若葉竜也、仲間内の後輩で唯一家庭を持つサラリーマンの曽川拓(ソース)役を浜野謙太、学生時代の後輩で会社員の田島大成役を藤原季節、仲間内で唯一地元に残ってネジ工場で働く水島勇作(ネジ)役を目次立樹が演じる。

タイトルの「くれなずめ」は、日が暮れそうでなかなか暮れないでいる状態を表す「暮れなずむ」を変化させ、命令形にした造語。形容できない時間、なんとも言えない愛おしい瞬間のこと。

舞台ではできなかった表現が映画では可能に

――『くれなずめ』は監督ご自身の経験がベースになっているそうですね。

経験というか、一緒に演劇をやっていた友だちがいきなりいなくなったのですが、いるときよりいなくなってからの方が自分の中で生きているというか、思い出すことが多いと気がついたんです。それが不思議で、死生観にまつわる話を作ろうと思いました。

もう一つ、高校時代の友だちが結婚するときに披露宴の余興を頼まれて、赤フンでハンドベルをしてめちゃくちゃ滑ったことですね。仲間達と相談しているときは「面白い!」と盛り上がっただけに、客観的に見られたときのギャップが印象に残りました。そんな仲間たちを愛おしく思ったこともベースにしています。

――その思い出をなぜ舞台にしたのでしょうか。

当時、劇団メンバーが2人から6人になって。どんな公演にしようか考えていたときに、劇団員なら込み入ったことも話せるなと思って、みんなと死生観について話しながら、そういう話を笑い飛ばせる劇をしようと組み立てていきました。

©2020「くれなずめ」製作委員会

――舞台が成功し、その勢いで映画にされたのでしょうか。

いやいや、舞台は舞台で終わりました。
2019年冬、ずっと準備していました企画が流れてしまい、プロデューサーの和田さんに愚痴ったのです。すると2017年の舞台を見ていた和田さんが「いいスタッフが集まっているのだから『くれなずめ』を撮りましょうよ」と言ってくれたんです。僕は「くれなずめ」を映画にしようとはまったく考えていませんでした。こんなに個人的な話を映画にしてはいけない気がしていたので。しかし和田さんが「たくさんの方に見てもらうべき」と言ってくれたので、思い切って映画に組み立て直しました。

――舞台から映画にしたときに大きく変えたところはありますか。

舞台は基本的に披露宴会場の裏でダラダラしているだけ。はさみこまれる回想シーンは思い出している人と吉尾の2人が舞台端に移動して、その間、他の4人はダラダラしているんです。身一つでやっていて、スーツのまま着替えもできません。見る人の想像力に補ってもらう劇でした。

しかし、映画はいろんな場所や時間にいける。しかも披露宴から二次会までの時間を潰せる喫茶店を探すために本当にウロウロしている奴らにできる。これは舞台では出来なかったので、大きく変わったところですね。

舞台と映画ではまったく感じ方が違うと思います。

作品への取り組み方や考え方がよくわからないところが面白い

――吉尾を演じたのは成田凌さんです。キャスティングの決め手をお聞かせください。

成田くんが他の作品でお芝居しているのを見たときに“明日にはこの人、いなくなっちゃうんじゃないか”という儚さに説得力を感じたところですね。

吉尾は人によってイメージが違う。“うるさくて面倒なヤツだよな”という人もいるし、“優しくて面白いよ”という人もいる。“結局、吉尾ってどんなヤツなんだろう”という役です。成田くんに吉尾をやってもらえたら、みんなが自由にお芝居できる気がしてオファーしました。

――初対面の印象はいかがでしたか。

2020年1月に僕が東京でやっていた舞台を成田くんが見に来てくれ、終演後にロビーで「脚本、面白かったです。よろしくお願いします」と言われたのが初めてでした。“背が高いな”と思ったのが第一印象でしたね。その後、改めて2人で会って、お酒を飲みながら4~5時間ほど話をしました。彼の作品への取り組み方や考え方がよくわからないんだけれど、そこが面白い。成田くんに吉尾をお願いしてよかったなと思いました。

©2020「くれなずめ」製作委員会

――そのときに2人で役作りをされたのでしょうか。

「吉尾ってこういう人だよね」という話はしていません。好きな映画の話や「こういう作品になったらいいよね」、「主題歌をウルフルズがやってくれないかな」といった夢みたいな話ばかりしていました。そういった無駄な時間がかえってよかった気がします。

――この作品を見ていると無駄な時間も大切って感じが伝わってきます。

そうそう。むしろ熱いことをいう奴はちょっと恥ずかしいというか、どうでもいいことをだらだらと続けていたい感じですね。

芝居へのアプローチや他の人との距離感は俳優に任せる

――では、他のメインキャストとも役作りについて話をすることはなかったのでしょうか。

リハーサルを1週間くらいやりましたが、誰からも聞かれませんでしたし、僕も言うつもりはありませんでした。彼らが脚本を読んでどう感じて、どう演じるかがいちばん重要なんです。だいたい僕の中にも正解はないし、僕も「こういう奴なんだよ」というほどその役のことをわかっていないのです。

しかし、お芝居のアプローチや他の人との距離感の作り方は自分が思っていた欽一や明石、大成よりも遥に愛しい人たちになっていたのでよかったなと思いました。

――リハーサルはどんな感じでしたか。

形としては本読みから始めましたが、基本的にはダラダラしていました。昼間は芝居をやって、夕方から夜はダンス練といったスケジュールだったのですが、合間に下ネタなどの雑談で盛り上がり、再開時間になっても「もう少し話していよう」と。

©2020「くれなずめ」製作委員会

――高校生の部活のような楽しい時間だったのですね。

僕としては「信じているから6人でいれる」ということが何より大事。セリフはどうでいいからお互いに信じあってほしいと最初に言いました。

――そうするとセリフは脚本通りではなく、アドリブがたくさん入ったのでしょうか。

僕は「台本に囚われなくてもいいです」といっていましたが、最終的には台本通りでした。

表情がくるくる変わるところが映画女優として魅力的

――前田敦子さんは監督のこだわりのキャスティングだと伺っています。

息を呑むほどの色気を感じるときがあるかと思えば、色気のない顔もできる。表情がくるくる変わるところが映画女優として魅力的ですよね。さらに「ミキエのどこがいいんだよ」と言える人がいいなと思いました。

©2020「くれなずめ」製作委員会

――現場で印象に残ったエピソードがあったらお聞かせください。

心臓を投げつけ合うシーンがあるのですが、そんな芝居をしたことなかったからでしょうか、撮影後にみんながハイになっていました。瞳孔が開ききって、まるでブレーキが1つ外れたかのようで印象的でしたね。子どものころに戻ってという表現がありますが、それよりももっと前、生まれる前に戻ってという感じでした。

主題歌「ゾウはネズミ色」は「それが答えだ!」のアンサーソング

――披露宴の余興でウルフルズの「それが答えだ!」に合わせて踊っていましたが、あのシーンもテンション高めでしたね。ところで、なぜこの曲にしたのでしょうか。

モデルになった友だちがウルフルズのことを好きだったので、ウルフルズの曲にしようと最初から決めていました。この曲はMVでウルフルズが踊っていたのを見て、「いいな」と思ったのです。

ただ、みんなはフリを覚えるのに苦戦していましたね。“下手だけれども一生懸命”という設定らしく、みんな一生懸命にやってくれました。それで、彼らだけ赤フン姿にさせるのが申し訳なくて、恥ずかしいなと思いながら僕も赤フンになって撮影しました。意味はなかった気はしますが(笑)。

――「それが答えだ!」と言いながら何も答えていない曲ですが、舞台、映画と重ねてきて、監督の中では何か見えてきたものがありましたか。

むしろわからないことが増えてきましたね。昔、答えだと思ったことも答えじゃなかったとわかったりしましたし。年齢は重ねているはずなのに、自分自身が幼児化している気がします。心の奥にそういう願望があるのかもしれませんね。

――答えはなくてもいいという答えを得たわけではないのですね。

それを答えにしていいのかなというところまでいってしまい、そうなると何層にもなりすぎて、突き詰めると頭がゴチャゴチャになります(笑)。

©2020「くれなずめ」製作委員会

――主題歌の「ゾウはネズミ色」は「それが答えだ!」のアンサーソングだそうですね。

トータス松本さんと面識があったわけではありませんが、一ファンとして熱いラブレターを書いてお願いをしたのです。「主題歌を引き受けてくれたらいいなぁ」と夢を抱いていましたが、まさかアンサーソングを書き下ろしてくれるとは思っていませんでした。うれしかったですね。アイツに聴かせたいなと思いました。

――ラストの日の暮れた感じと主題歌が見事にハマっていました。

曲のラフが送られてきたとき、タイトルに「ゾウはネズミ色」と書いてあるのを見ただけで、映画が真っ直ぐに届いたんだなと感じました。歌詞も素晴らしいし、ありがたかったです。

――最後にひとことお願いします。

友だちみたいな映画です。映画を見て友だちを思い出したり、友だちと一緒に見に来たりしてもらえるとうれしいです。気軽に映画館にいらしてください。

(取材・文:ほりきみき)

<プロフィール>

松居大悟監督

©2020「くれなずめ」製作委員会

1985年11月2日生まれ。福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出を担う。2012年、『アフロ田中』で長編映画初監督。その後『スイートプールサイド』(14)、『私たちのハァハァ』(15)、『アズミ・ハルコは行方不明』(16)、『アイスと雨音』(18)、『君が君で君だ』(18)など。枠に捉われない作風は国内外から評価が高い。20年に自身初の小説『またね家族』を上梓。映画『バイプレイヤーズ~もしも100人の名脇役が映画を作ったら~』公開中。

『くれなずめ』

©2020「くれなずめ」製作委員会

監督・脚本:松居大悟
出演:成田 凌 若葉竜也 浜野謙太 藤原季節 目次立樹/飯豊まりえ 内田理央 小林喜日 都築拓紀(四千頭身)/城田 優 前田敦子/滝藤賢一 近藤芳正 岩松 了/高良健吾
主題歌:ウルフルズ「ゾウはネズミ色」(Getting Better / Victor Entertainment)
配給:東京テアトル 
©2020「くれなずめ」製作委員会
4/29(木祝) テアトル新宿他にて全国ロードショー

映画『くれなずめ』オフィシャルサイト 2021年4/29公開

関連リンク

  • 4/24 13:30
  • 映画board

スポンサーリンク

ニューストップへ戻る

記事の無断転載を禁じます