<純烈物語>温泉ライブ再開の喜びに湧くも、名物マネジャーの入院の報に……<第93回>

拡大画像を見る

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

◆<第93回>「観客に喜んでもらえるならば……」の思いを踏みとどまり、お互いを高め合う

 潤 沢の『秘すれば花』をカヴァーした時に酒井一圭が言っていた「ライブではやらない」は、今思うとフラグだった。なぜならその理由が「するところがないでしょ」という表現だったからだ。

 裏を返せば、しかるべきシチュエーションがあればやるとなる。たとえば本家・潤 沢の阿部サダヲとの共演、それ以外の場となるとMVを収録した東京お台場 大江戸温泉物語以外にない。

 一回きりとの約束で許可を得た純烈は、1年2ヵ月ぶりに帰還する大江戸温泉ライブのオープニングとして、歌詞が1番までしかないジングル的なこの曲を持ってきた。コロナがなければ、1曲目からタテノリに近いリアクションとなっていただろう。

「秘すれば花をここで撮ったのは、僕らにとっても大きかったからね。でも、それに浸っているのもよくない。どんどん進んでいくことの方が大事」(酒井)

 夜の部ではやらず、昼のみの披露としたのは「ただいま」と同時に「さあ、ここから再び純烈が歩き出すよ」という姿勢を示すためのものだった。MVではだだっ広い中村座でマネジャーの山本浩光がだらーっとし、日本クラウン・アーティスト担当の新宮崇志がスマホをイジる中で歌ったが、この日は150人のファンが喜んでくれている。

◆静寂を守るファンに囲まれ

 続く『プロポーズ』を歌い終えると拍手に包まれる中、MCへ。笑いは聞こえてもメンバーを呼ぶ声やいわゆる黄色い歓声は起こらず。1月から有観客ライブを再開した以後、ルールを破るオーディエンスは現時点で一人も出ていないとのことだった。

 待たされた分、嬉しさもひとしおのはず。感情があふれ出ても不思議ではない。そうした中でも純烈のファンは、アーティストとの約束を守ることでこのような場を持てる関係性を理解し、協力する。直接的なコミュニケーションや、コール&レスポンスが望めぬ中でのライブは慣れたか酒井に聞くと……。

「純烈の場合、いわゆるコール&レスポンスと言われるものはもともとなかったというか、バラバラだったから、そこはあまり気にならない。逆に、純烈をこれだけ待ってくれている人がいるんだ、こんなことで楽しんでくれるんだっていうギャップが前からあるのね。

 僕らは純烈だから純烈を待っていないけど、待ってくれている人の熱量が明らかに自分たちよりもある。会えない期間、ずっと歌を聴いたりDVDを見たり、感染症対策をとって不安を抱きながら会場に来てくれていて、それでも喜んでいる。それを全部背負うと、こっちが重くなっちゃうんで、その場にいるから背負ってはいくんだけど、あまり重く引き受けないようにする。それは直感でやっていることですね」

 言葉として伝達されずとも、熱量は皮膚感覚で感じ取れるもの。今年に入り、それを行く先々で味わってきた。

 大広間の後方より全体を俯瞰で見ると、やはり声がないことで「盛り上がっているのだろうか」と思う瞬間はたびたびある。たとえばMCを終え、次の曲の準備に入ってからイントロがかかるまでの十数秒間にざわつきや会話がないと、そこだけ間が空いた感じになる。

 でもステージ上から見る光景は、声があろうとなかろうと待ちに待った純烈との対面にワクワクし、ときめくファンの顔が150人分並んでいる。表情から熱が発せられるのは、コロナ前と変わらない。

 いや、酒井の言うように待たされた分だけより過剰なものとして突き刺さる。意思を持った熱量とでも言うべきか。

◆ラウンドなしは「ロミオとジュリエット」のよう

「今ってラウンドができないじゃないですか。サビ抜きの寿司みたいなんだけど、これはこれで恋焦がれるじゃないけど、手をつなぐことのできないロミオとジュリエット状態で引っ張れるんだなということに気づいたんです。またいつか絶対……と、お互いを高め合う。それはライブをするほどに高まるものなんだって最近、思うようになった」

 会えない時間がそうであるように、できない時間も長いほどに思いは深まる。それが客席から伝わると、酒井も一瞬「やってもいいかな」と心が揺らいでしまうらしい。じっさい、一度「接触はしないで客席を歩くだけでもダメかな?」と、舞台の袖で主催者に相談したことがあった。

「今の純烈の立場を考えれば、やったら恰好のエジキになる可能性があります」

 おっしゃる通りだなと酒井は頷いた。たとえその場で何事も起こらずに済んだとしても、このご時世ゆえやり玉にあげられるケースは大いにあり得る。

 観客に喜んでもらえるならばなんでもやるのが姿勢のグループだ。「そういうところが自分たちは抜けがち」(酒井)だから、ベターな判断をできる人間が周りにいて恵まれていると思える。もう、純烈はそのメンバーとスタッフだけのものではない。

 だからといって委縮し、何もできないとはならず「その手があったか! 見事だ」ということをずっとやってきたのも純烈。それは昨年のLINE CUBE SHIBUYAの生配信ライブでも証明してみせた。

『キサス・キサス東京』『しのび哀』のあと、酒井が「九州から来た人!」と聞くと1人が手をあげた。すかさず白川裕二郎が「お母さんと来ているんだよね」と、常連を把握しているんだぜと言わんばかりに笑顔を振ったが、高速で否定された。

◆名物マネジャー入院の報に静まり返る

 そこからリーダーの白川イジりに突入したのだが、突じょ話が変わり「ご報告があります。山本浩光マネジャー、昨日、心筋梗塞で手術です。生きてます」と知らされる。酒井はいつものMCの調子でネタっぽく言ったのだが当然、誰も笑っていない。

 一瞬にして深刻な雰囲気が大広間を覆う。山本がファンに認知され、いかに愛されているかが一瞬にして伝わるリアクションだった。

 実はこの日、ライブ前の取材で顔を合わせた時に酒井から聞かされていた。前日は中山競馬場で番組出演があり、一昨日から胃が痛み出して今も収まらないと、楽屋で寝転がる山本と「5、6年突っ走ってきたけど、そろそろマトモな道を歩まなあかんってことやな」などと話したという。

 そして本番前に「いよいよ耐えられなくなったら先に帰っていいから」と言って楽屋へ残した。緊急の事態を想定し、ポケットへ忍ばせていたスマホがCM中に鳴った。これから病院へ向かうという報告だった。そして出演を終えた酒井が一人で自宅へ戻った18時頃、再び山本からの連絡が。

「おい酒井……俺はもうあかん。今から緊急手術や」

 先に中山競馬場をあとにした山本はそのまま病院へ。診断した医師から「死ぬ寸前だったよ」と言われ、即座に心臓カテーテル手術を受けた。

 自己判断で病院へ向かったことで命拾いした。一説にはチョコレートプラネットの『チョコレートch』の「悪い顔選手権」で必要以上の悪人ヅラを披露し、大門容疑者扱いされて精神的ショックを受けたのが響いたのでは?という識者の見方もあったが、それ以前の話。長年のハードワークによるものであるのは間違いない。酒井もMCで続けた。

「だからこれは、ええことなんや。殉職するぐらいの勢いで紅白へいくって言ってずーっとやってきたからなあ」

 数日後、酒井はツイッターを通じ山本マネジャーからの「早ければ1週間で退院できるそうです」とのメッセージをファンに伝えた。そして4月20日には現場でスマホを見る進撃の巨人の姿を晒し「死に損ない(笑顔マーク)」とネタにした。

 酒井と山本にはコンセンサスができており、その間合いと呼吸によってネガティブな出来事を笑いに転化させる。ただ、あの大きな姿が純烈の風景から消えるのはやはり寂しい。

 山本のことを報告したため変わった空気を元に戻そうと、酒井は次の2曲を告げて唄へ入ろうとしたが、それは次のMCのあとに言うところだった。つまり、セットリストのネタバレに……もしかすると、一番ネタにしていたリーダーが、誰よりも精神的影響を受けていたのかもしれない。

撮影/ヤナガワゴーッ!

―[ノンフィクション連載「白と黒とハッピー ~純烈物語」]―

【鈴木健.txt】
(すずきけん)――’66年、東京都葛飾区亀有出身。’88年9月~’09年9月までアルバイト時代から数え21年間、ベースボール・マガジン社に在籍し『週刊プロレス』編集次長及び同誌携帯サイト『週刊プロレスmobile』編集長を務める。退社後はフリー編集ライターとしてプロレスに限らず音楽、演劇、映画などで執筆。50団体以上のプロレス中継の実況・解説をする。酒井一圭とはマッスルのテレビ中継解説を務めたことから知り合い、マッスル休止後も出演舞台のレビューを執筆。今回のマッスル再開時にもコラムを寄稿している。Twitter@yaroutxt、facebook「Kensuzukitxt」 blog「KEN筆.txt」。著書『白と黒とハッピー~純烈物語』『純烈物語 20-21』が発売

関連リンク

  • 4/24 8:51
  • 日刊SPA!

スポンサーリンク

記事の無断転載を禁じます