貸会議室のTKPはコロナ危機をどう乗り越えたか。社長を直撃

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―[あの企業の意外なミライ]―

 全国でフレキシブルオフィス(貸会議室、貸オフィス)を提供しているTKPはコロナの影響によりリアルで行われるセミナーや研修の機会が減ったことでダメージを受けているイメージをお持ちの方も多いでしょう。しかし、TKPは今まで、リーマンショック・東日本大震災の時期にも黒字を確保し、景気悪化という危機に直面するたびに業績を加速度的に拡大させてきました。

 今回のコロナ危機でも足元では業績が回復しており、むしろ、財務体質は筋肉質に変貌を遂げています。過去の経験を経て、今回のコロナで、どんな対応を成し得たのか。また、アフターコロナにおける、TKPの未来像はどんなものなのか。河野貴輝社長が全貌を初めて語ります。

◆証券ディーラーを経て、証券・銀行を立ち上げ、TKP創業へ

馬渕:河野社長は伊藤忠商事での証券ディーラー、その後、日本オンライン証券(現:auカブコム証券)、イーバンク銀行(現:楽天銀行)の立ち上げを経て、2005年にTKPを創業しました。金融業界から貸会議室の起業へ。異色の経歴です。

河野:もともと株が趣味だったので、伊藤忠商事の為替証券部でディーラーの仕事を選びました。その後、auカブコム証券、楽天銀行の立ち上げに携わったのがベンチャーとの出会いです。

馬渕:金融×IT業界から、なぜ貸会議室だったのでしょうか。

河野:リアルに即したビジネスをやりたかった。当時、世の中はITバブルの真っただ中。そんな時代を横目に、オーナーとして実体のあるビジネスで稼ぐことが出来る会社を運営していきたいと強く思いました。

馬渕:結果、実体に基づいた稼げる会社を、みごとに成し遂げましたね。

河野:TKPの幕明けは「もったいないものをお金に変えていこう」という発想です。例えば、取り壊しが決まっているビルや立ち退きして誰も使っていないビルの空間がもったいない。そこを、商品化してスペース貸しのサービスを始めました。BtoBの空間のシェアリングエコノミーを16年前に立ち上げたのがTKPです。

◆「キャッシュ・イズ・キング」危機を乗り越えるたびに拡大が加速する

馬渕:リーマンショックと東日本大震災の時でも黒字を確保しています。過去の2度の危機をどう、乗り越えたのでしょうか。

河野:リーマンショック当時、1か月で約1億の赤字となり上場申請を取り下げた経緯があります。当時、たまたま銀行からデッド(お金を借り入れること)で10億円の資金調達をしていたので、運転資金はなんとかなりました。その時以来、私の格言は「キャッシュを持っておけ」です。

馬渕:「キャッシュ」があれば倒産しない。他にも試行錯誤があったそうですね。

河野:景気が悪くなると、今までのお客様がいなくなります。リーマンショック前のお客様は製造業や輸出企業でした。リーマンショック後は円高になり、輸出企業には大打撃です。新入社員研修を予定した企業も全部ストップ。軒並みキャンセルです。

馬渕:泣き寝入りの状態に。

河野:そこで、ターゲットとするお客様を変えようと考えました。不況の中でも、空いているスペースを使う人はいます。当時は、内需の衣料品や外食産業の企業が使ってくれました。

馬渕:輸出企業から、デフレ時代に強い内需企業にお客さんが変わったわけですね。

河野:私が「不動産仕入れ部長」として、オーナーに家賃を5割から4割下げてもらうように直接交渉をしました。次は、「営業部長」を兼任して時間貸しの料金を3割下げて会議室を必要としているお客様を探しました。

馬渕:仕入れを安くし、できるだけ利幅は伸ばす努力ですね。2011年の3月に震災が起きて、そこから業績の推移が一時曲線から二次曲線的に急拡大しています。

河野:震災までは、単なる貸会議室のサブリースでした。震災でホテルやイベントホールが使われなくなりました。そのタイミングで、TKPは厨房を手に入れ料理人を雇い、貸会議室に料理をケータリングしていくビジネスを付け加えることに成功しました。単なる研修会場からパーティー会場の需要も取りこめるようになり、客単価を上げた事で業績が急拡大しました。

馬渕:二次曲線的に業績が拡大するには、他にも要因がありそうです。

河野:2016年からアパホテルのFCや、リゾートホテルをはじめたことで、宿泊の売上も上がっていきました。さらに、2019年4月にはリージャスを買収し、M&A後にリージャスの売上高も加わりました。売上高543億円まで積み上げていて、昨年2月までは絶好調でした。このまま売上高1000億円までいく予定だったんですけどね。

馬渕:2度の危機後の対応によって、経営にレバレッジが効いているのがわかります。

◆コロナ対応で何をしたのか

馬渕:コロナ危機の対応も早かったですね。航空業界が動く前に資金調達をしています。

河野:まず去年の3月の段階で、IRを回っていましたので、世界で何が起きているのかを国内にいるよりも、早く察知していました。

馬渕:肌感覚が早かった。

河野:去年の3月時点で、日本がロックダウンした場合、会社がどうなるのか、シナリオを書きました。当時、手持ち残高が約90億円です。去年の2月決算で、営業利益は63億円出ています。

馬渕:普通であれば、全く問題ないキャッシュです。

河野:でも、日本もロックダウンになれば、1ヶ月30億円ぐらい赤字が出る試算を出しました。90億円持っていても3ヶ月しかもたない。少なくとも1年間乗り切るためには360億円は必要だと試算しました。

馬渕:「キャッシュを持っておけ」の格言がコロナでも効いています。

河野:コミットメントラインと当座貸越枠、不動産の売却を入れて350億円を早期に捻出しました。第1四半期を終えたら10億円ぐらいの赤字だったのです。そうなれば、年間30~40億円の赤字だと計算できます。現状350億円の資金を確保しているので、ほっとしたのが、去年の第1四半期です。

馬渕:スピード感ですね。

◆TKPはコロナを経て筋肉質な体制に

馬渕:コロナ禍でどのような、コスト削減をしましたか。

河野:TKPは一時的に業績が落ちましたが。既に2017年9月頃の売上水準まで戻っています。ちょうど上場した時期の業績まで戻っていることになります。急回復の背景には、コロナ禍で損益分岐点をかなり下げた点にあります。コスト削減を徹底的にしたので、需要が戻ってきたときに利益が乗りやすい体質に改造しました。

馬渕:具体的には何をしたのでしょう。

河野:この1年間でやったことは、TKPの貸会議室、リージャスのレンタルオフィス・コワーキングスペース事業、アパホテルのFC、研修ホテル、リゾートホテルの事業に力を入れました。残りは最小限の体制にしました。

馬渕:事業の選択と集中ですね。

河野:危機の時は「ビジネスの基本」に戻ることが大事です。需要が戻った時に、パーティーの需要を取り込めばいいわけです。危機の時は、内製化も小さい内製化にしておく。最小限にしておいて、そこからもう一度やり直せばいいじゃないかという発想です。

◆TKPは、今こそ攻めの時期

馬渕:350億円の資金を確保しながら、今年1月14日に第三者割当の新株予約権を200億円発行する狙いは何でしょう。

河野:今回の新株予約権はレスキューファイナンスとは全く違う、攻めのファイナンスです。借入するだけじゃ駄目です。いずれ、返さないといけないのでキャッシュが会社に貯まりません。指をくわえて見ていてもしょうがないです。景気が悪いときこそ、自社のシェアを上げていく時期なんです。いわゆるナンピン買いをするべきタイミングですよ。

馬渕:ここから、攻めるわけですね。

河野:そうです。TKPやリージャスのブランドに出来るものを、ナンピン買いしていき、次の成長にベットします。僕はこの勝負をしたいのです。ここから先、必ずチャンスが出てきます。今回の新株予約権はTKPのチャレンジを応援してもらえる投資家の方にぜひ、応援して欲しいという思いです。

馬渕:TKPは、財務状況は問題ない状態です。河野社長の攻めの話を聞いてTKPを応援する投資家は多いでしょう。エクイティのところが分厚くなれば、自己資本比率がどんどん改善していきますからね。もともと金融出身ですから、金融的な発想ですね。

◆朝5時頃が最も冷える

河野:ここから先は、経営が立ち行かなくなったレンタルオフィスやホテルをリージャスやアパホテルにリブランドを進めていきたいと思います。

馬渕:業績のところは第3四半期で黒字浮上になっています。私は22年には通期黒字浮上するんじゃないかと思っています。

河野:そうなるように頑張っています。「日の出」に例えると、今は「2時か3時」。これから夜明けを迎えます。でも一番寒い時間っていうのは何時でしょうか?

馬渕:2時3時ではないのですか?

河野:朝5時頃が最も冷えます。ここから先が、凍えるのです。世の中が一斉に、将来が見えてくる時期なのに一段と冷え込む。そんな厳しい状況です。我々は逆に、そこをチャンスと捉えて、太陽が昇ってくるタイミングに合わせて、攻めていきたいと思います。

馬渕:貴重なお話を、ありがとうございました。

<取材・文/馬渕磨理子 撮影/山川修一>

―[あの企業の意外なミライ]―

【馬渕磨理子】
経済アナリスト/認定テクニカルアナリスト、(株)フィスコ企業リサーチレポーター。日本株の個別銘柄を各メディアで執筆。また、ベンチャー企業の(株)日本クラウドキャピタルでマーケティングを行う。Twitter@marikomabuchi

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