「わかる人にだけわかる」日本のお笑いは差別を助長するのか―アメリカで奮闘するスタンダップコメディアンと移民ラッパーの邂逅

 スタンダップコメディとラップ――。ともにマイクひとつでパフォーマンスするカルチャーを、体ひとつで異国を舞台に奮闘するふたりの対談が実現した。

 ひとりは、スタンダップの本場・アメリカへ着の身着のままで渡り、キャリアを積み重ねるうちにコメディアンとして現地で高い評価を得るようになった、本サイトでも「スタンダップコメディを通して見えてくるアメリカの社会」を連載中のSaku Yanagawa。

 そしてもうひとりは韓国生まれで大阪在住、日本に暮らす外国人の視点から日本語の楽曲を通して日本社会に痛烈なメッセージも発信する“移民者”ラッパー、Moment Joon。

 ふたりは同年代で、ともに大阪大学出身(Momentは同大学院に在籍中)ということで、今回はSaku初の著書『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』の出版を記念して、母校の大阪大学豊中キャンパスでトークイベントを開催&配信することに。

 異国での活動の難しさ、そしてポリティカルコレクトネスの今など、社会問題に切り込む刺激的な対談となった。

「“傷つけない笑い”という言葉が大嫌い」(Saku)

 イベント序盤はしゃべりのプロであるSakuが笑いを交えてトークをリードしつつ、互いのカルチャーについて言及。Momentが「自分の美学と受け入れられる楽曲の違いから、日本で日本語ラップをすることに葛藤を覚えることがある」と語れば、Sakuも「アジア人が西洋圏で成功するためには、伝統的に自分のオリエンタル性を強調することが求められてきた」とセルフオリエンタリズムを引き合いに出して、文化圏の違う異国でのパフォーマンスの難しさを説明。

 Sakuは「自分たちの人種や特徴で自虐的に笑いを取るのは、ステレオタイプ化を助長しているだけではないのか」という疑問を覚えていたが、ロニー・チェンというマレーシア生まれの中華系コメディアンが出自を誇りにした笑いでアメリカで話題になっていることに触れ、マイノリティが表現する笑いのあり方を熱弁。するとMomentも、「ヒップホップも自分のステレオタイプ化はあって、それをどうカッコよく見せるのか、というのがある。(笑いを取るという意味では)真逆だけど、使ってる戦術は一緒かな」と、ステレオタイプ、偏見に立ち向かう互いのカルチャーの共通点を指摘した。

 昨今なにかと取りざたされる“傷つけない笑い”という言葉が大嫌いだというSakuは語る。

「ジェンダー、人種、出自という変えられないものこそ笑いにしてはいけないが、芸術としてオーディエンスに笑いを通して内在する差別意識などへの“気づき”を与えたい」と、自身のスタンダップコメディ哲学を語る。そして今回、それが発揮されたのは、Sakuがアメリカで、現地の人に日本語で話しかけられる機会が多い、というジョークのくだり。

「この前も(とある外国人が)『ナゾカケ デキマ~ス!』って話しかけてきたんですよ。そしたら、『ジンセイ ト カケマシテ パンツ トトキマス ソノココロハ ドチラモハカナイモノデ~ス!』と言われて……。いや、なんでお前が今ノーパンであること発表してんねん!」

 会場はここで笑いに包まれた。しかし、「もし僕が白人で、みなさんも白人だったら、このジョークで笑うのはアウト。なぜなら、マジョリティの僕がマイノリティのアクセントのモノマネをしたから。今アメリカでは外国人のアクセントをマネして笑いを取るのはアウトなんです。今あえて僕はこのジョークを披露したから、(なぜこのジョークで笑ってしまったのか)みんなも家で考えてね(笑)」と、日本人なら誰しもが持つであろう内在する差別意識を皮肉った。

 さらに、Momentが日本の“お笑い”に対して物を申す。

「日本のお笑いを見てて僕が笑えないのは、ユーモアセンスを共有してないのもあるけど、(逆を言えば日本の笑いは)ユーモアセンスを共有している人だけのためのものと、どうしても感じてしまう。英語のスタンダップはいろんな人が対象というのが前提にある。だから『俺も対象になれるかも』ってワクワクしながら見られるんだよね」

 これに対しSakuもスタンダップコメディの懐の広さを次のように語る。

「コメディクラブ(スタンダップコメディが行われるステージ)は自分とは意見(や人種、バックボーン)が違う人と出会える場所。そんな人同士が同じジョークで笑えば、その瞬間だけは分断がなくなる。だからこんな豊かな場所は他にはないかなと思ってる」

 確かに、日本の漫才のネタの中に社会的、ジェンダー的な思想を入れ込むことは危険をはらむ。そこがスタンダップと日本の笑いの大きな違いかもしれない。

 では、韓国のお笑い界はどうなのか?

 Momentいわく、「日本みたいに単一民族神話のある国だけど、移民も増えてきている。そして、そんな10代、20代の若い移民がYouTubeなどでセルフオリエンタリズム的な自虐ネタで『今笑っているお前ら!』みたいな、カウンターを打つ笑いをして影響力を持ち始めてる。だから、彼らがやっているのはスタンダップとは違うけど、(受け入れる土壌ができつつあるから)韓国のスタンダップは未来があると思う」とのこと。

 この発言もしかり、イベントを通して意外だったのは、Momentが非常にスタンダップを始め、国内外のコメディへの造詣が深かったことだ。Momentはポリティカル・コレクトネスや言葉狩りに真っ向から立ち向かうビル・バーや2000年代のデイヴ・シャペルの大ファンで、ネタを覚えているレベルだそう。それは彼自身もスタンダップコメディアンを目指した時期があり、ネタまで書いていたからだとか。国籍問わず、国際感覚豊かな人物に、スタンダップコメディがいかに注目の芸能であるかを証明しているといえる。

 こうして、2時間に及ぶカルチャーと社会を考えるトークイベントも終了。主義や思想を笑いやラップに乗せて表現するという共通項を持つふたりだからこその意義深い内容となった。

日本ではあまり見られないスタンダップコメディに少しでも興味を持った読者は、Sakuがスタンダップコメディの普及のために執筆した『Get Up Stand Up! たたかうために立ち上がれ!』を手に取ってみてはどうだろうか。笑いとは何なのか、改めて考える機会を得られるかもしれない。

  • 4/18 8:00
  • サイゾー

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