大麻を輸入したイタリア人に対して裁判官が妙にやさしい?<薬物裁判556日傍聴記>

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556日間薬物事案の裁判を傍聴した斉藤総一さんによる法廷記録。今回紹介するのは被告人は外国人だ。イタリア人のファッションデザイナー、アンリ・クリス・マルディーニ。最近ニュースでも増加が叫ばれる液状大麻を、投宿予定のホテルで受け取るはずだった自身の航空小口輸送貨物にしのばせたということ。さっそく法廷に目を向けてみよう。

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※プライバシー保護の観点から氏名や住所などはすべて変更しております。

◆今回は外国籍の被告人

 最初は例によって検察による起訴状の朗読ですが、今回は外国籍の被告人で、通訳がつきます。

裁判官「まず検察官が起訴状の内容を朗読しますので、そこで聞いていてください」
被告人「はい」
裁判官「まず日本語で朗読されたあと、通訳がされます」
被告人「はい」
裁判官「では検察官お願いします」

と、通常より一言多い裁判官の説明により裁判が始まります。

検察官「公訴事実。被告人はみだりに平成30年9月18日頃(現地時間)、アメリカ合衆国において大麻草の商品である液体約4.435グラム在中の航空小口郵送貨物1個を、千代田区小手町1丁目7番8号、ホテルラマンダ東京、被告人宛に発送し、同月20日、同貨物を千葉県成田市所在の成田国際空港に到着させたうえ、同空港関係作業員に、これを航空機の外に搬出させて、日本国内に持ち込み、もって大麻を輸入するとともに、同貨物を東京都江東区古木場13丁目4番1号 BGK株式会社東京ゲートウェイ保税蔵置場に搬入させ、同月25日、東京税関監視部職員による検査を受けさせ、関税法上の輸入してはならない貨物である大麻を輸入しようとしたが、同監視部職員に発見されたため、その目的を遂げなかったものである。罪名および罰条、大麻取締法違反、同法24条1項、関税法違反、同法109条3項1号、69条の11条、第1項1号。以上です」

被告、弁護人は共に、これらについて「その通りです」と回答。続いて冒頭陳述と証拠請求です。

◆ロサンゼルスから日本へ大麻を密輸

検察官「検察官が証拠による証明しようとする事実は以下の通りです。まず被告人らの身上経歴等ですが、被告人はベルギー王国で出生し、国籍はイタリア共和国であります。被告人はフランスの専門学校を卒業し、ファッションショーのプロデュースなどを業務とする会社を経営しておりました。被告人は本邦(日本国内)では住居不定でした。被告人は前科前歴はありません。

 第二に犯行に至る経緯および犯行状況等です。被告人は平成30年9月15日頃、米国ロサンゼルス市内で、交際相手や知人らと食事をした際、知人が被告人の交際相手に対し、大麻製品などと説明をしたうえでスプレーボトルを渡しました。被告人は同月16日頃、自身の荷物をロサンゼルスから日本に郵送することにしました。

 その際に被告人は大麻製品を日本に持ち込むことが違法であることを認識しておりましたが、スプレーボトルに入った大麻製品を日本で使おうと考え、それを日本に発送するボストンバッグに入れて、アシスタントに発送手続きを指示し、公訴事実記載の犯行におよびました。本件は同月25日、東京税関監視部職員による検査により発覚したものであります。(後略)」

 被告には行き先の日本は大麻が違法という認識があり、結果として逮捕は当然の成りゆきかもしれません。被告がファッション業界でどういった立場に置かれているのか具体的にはわからないのですが、法廷にはスーツ姿の日本人男性が前列にずらりと並んでいるのが目立ちました。

 この後の弁護士側立証では、被告が日本弁護士連合会および東京弁護士会宛に100万円の贖罪寄付を行ったことや、イタリア大使館職員が被告人に対する支援をしてきたことも明らかになるので、それなりに社会的立場がある被告と推察されます。

◆被告はどのような人なのか?

 では、被告はどんな人なのでしょうか。弁護人による被告人質問を見てみましょう。ここで、なぜ被告が大麻を「密輸」するに至ったのかが本人の言葉で説明されます。

弁護人「あなたのお仕事をおうかがいしますが、ファッションショーをプロデュースするお仕事ということでよろしいですね?」
被告人「はい」
弁護人「今回日本に送った液体は、ロサンゼルスで入手されたということでよろしいですね?」
被告人「はい」
弁護人「これはどのようにして入手されたんですか?」
被告人「プレゼントでした」
弁護人「このプレゼントを日本行きの貨物に入れて、日本に持ち込もうとした目的は何でしょうか?」
被告人「好奇心からです」
弁護人「これをロサンゼルスに置いていくなり捨てて行くということは考えませんでしたか?」
被告人「それはなかなか難しい選択でした。人から頂いたプレゼントでしたので、捨てるということはなかなかできませんでした」

◆自分を守ろうとして嘘をついてしまった

弁護人「今回あなたは事件が発覚した直後は犯行を否定していましたが、その後、真実を話すようになりました。これはどうしてですか?」
被告人「まず怖かったのです。たくさんの人に囲まれ私は本能的に自分を守ろうとして、混乱してそのようなことを言ってしまいました。でもしばらくして気持ちが落ち着いてきてからは、自分が大きな間違いを犯したことに気づき本当のことを言って捜査に協力するようになりました」
弁護人「いま時間が経って、今回の事件についてどのように考えていますか?」
被告人「私は心の奥底から自分の行為を後悔しています」
弁護人「日本では大麻が違法とされているわけなんですけれども、その理由についてアンさんはどのようにお考えですか?」
被告人「まず第一に健康によくないという理由。そして犯罪者や犯罪組織に対しての資金源になってしまうからと私は思います」
弁護人「次の質問に行きます。今回のことがあって、あなたを色々な人が支えてくれたと思うんですが、どのような支援を受けましたか?」
被告人「私は家族ともとりわけ親しく今回のことで間柄を深め、お客様から、そして私の仕事関係者からも。そして日本での私の友人たちからも、とりわけたくさんの支援や協力をちょうだいしました」
弁護人「これからも来日されることもあるかもしれないですけれども、来日について、アンリさんとしてはご希望ありますか?」
被告人「はい」
(後略)

◆判決は……

 贈り物を捨てがたい心情は想像がつきますし、ロサンゼルスで所持する分には違法でなく、後に被告人が説明している「犯罪組織の資金源」にも当てはまりません。被告人の過ちは大麻が違法であると知りながら、日本に送った一点と言えると思います。

 検察も被告がいわゆる犯罪傾向のある人間でないと理解しているからか、質問は極めて短いです。

検察官「今回あなたが日本に大麻を持ち込んだことで今後日本での入国が認められなくなる可能性があるということはわかっていますか?」
被告人「それは私の中で最も大きな悔いとされるところです」
検察官「では、そのうえで今後日本に来る機会があった場合には、法律に従うということでよろしいですか?」
被告人「その通りです」
検察官「以上です」

 初犯であり、判決は大麻取締法の一般的な例を出ません。

裁判官「主文。被告人を懲役1年6ヶ月に処する。この裁判の確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。東京地方検察庁で保管中の大麻4.435グラム。平成30年東地領第xxxx号符号1を没収する。主文は以上です」

◆裁判官が追加で一言

 判決は通例ですが、最後に裁判官が言葉を足します。この言葉から、同情とまでは言えないでしょうが、一般的な薬物裁判の被告と同類とは捉えてないという、被告人への敬意が裁判官の態度から垣間見えます。

裁判官「少し話をしておきます。日本のことを色々と思ってくれているあなたのような人が、今回のような事件を起こしてしまったのは、とても残念です。今回のことで今後日本に入ること、入国するのが難しくなると思います。もしまた日本に来られるということがあれば、その時には法律をきちんと守ってください。この裁判の決断に不服がある場合には控訴の申し立てができます。その場合は、今日を入れて15日以内に東京高等裁判所に宛てた控訴申立書をこの裁判所に提出してください。これで手続きを全て終わります」

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 判決の日は雨のなか大行列ができ、斉藤さんは前の裁判から入廷したそうだ。この法廷の記録を読んで見ても、非はもちろん被告にあるのだが、これまで紹介した斉藤さんの法廷記録とは毛色が違い、いわゆる「犯罪者」というイメージを抱くことができなかった。

 ただ無職だろうがそれなりに社会的地位のあるデザイナーだろうが判決は同じ。「法の下の平等」という言葉をなんとなく考えさせられる裁判だったように思う。

<取材・文/斉藤総一 構成/山田文大 イラスト/西舘亜矢子>

―[薬物裁判556日傍聴記]―

【斉藤総一】
自然食品の営業マン。妻と子と暮らす、ごく普通の36歳。温泉めぐりの趣味が高じて、アイスランドに行くほど凝り性の一面を持つ。ある日、寝耳に水のガサ入れを受けてから一念発起し、営業を言い訳に全国津々浦々の裁判所に薬物事案の裁判に計556日通いつめ、法廷劇の模様全文を書き残す

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