白金在住の美人妻。「禁断のアルバイト」が招いた、誰にも言えない代償とは

男と女の、珠玉のラブストーリー。

秋の夜長、「その先」のことを語りましょうか。

待ち受けるのは、深くて暗い、底なし奈落。

恋をしたら決してこの物語を読むことなかれ。
「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもの。

この物語の主人公、あなたの知り合いだと気づいても、
どうか、素知らぬフリをして―。

▶前回:婚約破棄された29歳女が半狂乱に…。商社の受付嬢が見た、戦慄の来客予告とは

第2夜「耐える女」


「まったく暁斗は誰に似たんだ?こんなに金をかけてもひとつもモノにならないじゃないか。全部お前のせいだぞ。いいか、小学校受験は絶対失敗するなよ」

外科医の夫が、何の役にも立たない小言を今朝も言っている。

3週間後に迫った一人息子の小学校受験で、家庭内のピリピリは最高潮に達しようとしていた。

「そんなこと言わないで。暁斗、昨日の工作のクラスでもとっても頑張ったのよ。今日は幼稚園が終わったら、そのままお教室の北条先生に願書の最終チェックをお願いに行ってくるね」

洗面所にいる暁斗に聞こえないように、私は必死に夫に声をかけた。

彼の不機嫌の原因、先週末の「入試そっくり模試」の詳細な結果と講評をダイニングテーブルからかき集める。

暁斗は運動神経こそ良かったが、1歳から知育教室に通い、年少から受験専門のお教室に通っているというのにペーパーの点がちっともとれない。

とくに空間図形が致命的で、それは将来医者になることが期待されている暁斗にとって、あまりいい兆候ではない。

おまけに工作も、どれほど私が必死にお教室をはしごしても平均的なレベルで、これまた手先の器用さが必要な外科医になるためには心配な部分だった。

だからこうして夫はことあるごとに私にあたる。「暁斗は沙織に似たのか、どうにも頭が良くなくて不器用で」とはっきり義両親の前で言うこともあった。

でも暁斗を私が見捨てるわけにはいかない。どんなに出来が悪くたって、私の可愛いたった一人の息子なのだ。

絶対に失敗できない。暁斗のために。

私は、暁斗が幼稚園のお迎えを待つ間に入ったプラチナ通りの『スラッシュカフェ』で、コーヒーカップを指が白くなるまで握り締めた。

白金在住、名外科医の妻・沙織の絶対失敗できない「事情」とは?

哀しい「格差」


大学入学のために18歳で上京し、晴れがましい気持ちでスタートした4月の高揚感と、5月の衝撃は、今でもはっきり思い出せる。

入学して間もなく、精いっぱいのオシャレと、進学祝いに買ってもらったいくつかのアイテムが、ほとんど「戦力」にも「勝負」にもならないと知った。

内部生と呼ばれる、付属校から来た女の子たちは、桁違いにあか抜け、その情報量とネットワークはとても18歳のものとは思えないほど。

その衝撃のままに、普通上京組は「外部の子」同士でつるむようになる。ところが、私には一つだけ、人生のアクシデントを呼び寄せる要素があった。

私は、彼女たちの誰よりも、きれいだったのだ。


函館の出身のためか、肌が白く、小さい頃から顔が小さくて人形のようだと羨ましがられた。自分では素顔がさみしげに見えてあまり好きではなかったが、アイメイクを覚えると、はっきりと周囲の視線が集まった。

青山のサロンでカラーリストに染めてもらう内部生たちと違い、正直に言えばそんなお金もなかったから、髪質頼みで黒髪を通していたある日。

「ねえ、さらさらですっごくキレイな髪だね!さわってもいい?どこでトリートメントしてるの?」

一般教養の大教室で、いつも教室の一番後ろを陣取っている華やかな彼女たちが、一つ前の列に座った私に話しかけてきた。

それが、いろんなことの始まりだったと思う。大げさに言えば、人生のターニングポイントだった。

「沙織って、ぜんぜん欲がないんだから!こんなに素材がイイのに、独り暮らしなのに、彼氏もいないの?私たち、みーんな実家から出してもらえなくて、羨ましい」

きっと田舎者の私が珍しかったんだろう。彼女たちは私に何かと声をかけてくれるようになった。

本物のお嬢様というのは、じつはとっても性格が良く、屈託がないのだと、私はこの時知った。

しかし彼女と共に行動を共にするようになると、次第に問題が発生するようになる。

例えば、彼女たちは青山から西麻布まで、なんの躊躇もなくタクシーに乗る。

例えば、不意に休講になった1限目、ゆっくり朝食をとろうと躊躇なく高級ホテルに行く。

例えば、夏休みは長期ヨーロッパ旅行や、UCLAに語学研修に行く。

私にとって、それはどれ一つをとっても、無意識にできるようなものじゃなかった。それでも、用事がある、とか、帰省するから、とか、口実を使いながら、「内部生の仲間の座」を簡単に手放せない自分がいた。

仕送りだけじゃ、コーヒーショップのアルバイトだけじゃ、とてもやっていけない。

そんな焦りが募る20歳の秋、ある「禁断のアルバイト」を、同じような事情の外部生のひとりが私にもちかけてきたのだ。

沙織を待ち受ける、禁断のアルバイトと「その代償」とは?

特権アルバイトと代償


「西麻布にある、秘密も秘密、ほんとにきちんとした男の人しか入れない会員制のラウンジがあってね。そこでアルバイトできるのも、有名大学の女子大生で、とびぬけてキレイな人だけなのよ。OGにはCAやアナウンサーなんかもいっぱいいるの」

連れられていった面接には、あっさりと通過し、週に2日ほど、好きなときに来て会員男性とお話をするだけで、コーヒーショップの5倍以上の時給がもらえることになった。

これで、内部生のみんなとずっと友達でいられる。

私はホッとして胸をなでおろし、実際に、残りの学生生活をなんとか彼女たちの仲間として終えることができた。

そしてこの時期に、私は思わぬ二つの拾い物をした。

一つは「未来の夫」、一つは「人生でもっとも好きになった男」だ。


好きになったのは、ラウンジでハイヤー送迎をしていた、役者くずれの男。

交際をしたのは、ラウンジのアルバイト仲間がそのことを内緒で紹介してくれた、10も年上の羽振りのいい医者。

残念ながら、熟慮した結果、好きな男と結婚したい男は一致せず今に至る。



「…合格だ!合格したぞ!!暁斗、よくやった、さすが俺の息子だ!」

インターネットの最後のエンターキーは、私が押した。

合格と表示された瞬間、後ろで黙っていた夫が、私を押しのけ、PCにしがみつく。

これで、ようやく。安堵の涙で、視界が霞む。

「電話だ、母さんたちに知らせよう」

合格したとたん、まるで夫が自分の手柄のように義母に電話をかけているのを、半分冷めたような、半分嬉しいような気持ちで眺めた。

「ママ、ぼく、受かったの?」

暁斗が、おずおずと近寄ってきた。栗色の柔らかい髪に指を差し入れ、くしゃくしゃになでて抱きしめる。膝に乗せると、白桃のような頬を手のひらで包み込み、鼻先を押し付けた。

「そうよ、暁斗、すごいよ!ついにやったのよ」

「ママがずっとついててくれたからね」

私の耳にささやく暁斗に、一瞬、この胸のうちの秘密を語りたい衝動にかられた。

―まったくあの男、肝心のところでは本当に抜けている。

醜男の自分から、これほど容姿がよく、性格がいい息子が生まれてきて、どうして1度も疑わないのだろうか。

よく見れば気が付くはずだ。

栗色の天使のようなくせ毛は、けっして私と夫のどちらにも似ていないことに。

「でも、残念ながら、役者崩れの父親じゃ頭脳はあんまり期待できないからね。今のうちに、いい学校に入っておかないと」

挑発的につぶやいても、興奮して電話をかけ続ける夫には届かない。

私は、この「失敗できない計画」の第一関門が突破できたことに安堵し、柔らかな真っ白いソファーに身を沈めた。


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