「いたします」と「致します」はどちらが正しい?

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敬語表現の代表格といってもいい「いたします」。

漢字の「致します」もたまに見かけますが、ビジネスメールや文書のやり取りでは、「いたします」が使われているのを目にする機会の方が断然多いはず。

そこにはどんな理由があり、どう使い分けるのが望ましいのかについて学びましょう。

■「いたします」と「致します」、どちらが正しい?

大雑把に言えば、ごく日常的に使う場合の「いたします」と「致します」はどちらも正しい表記です。

例えば、「お願いいたします」という言葉があります。

国語一般の用法として捉えるなら、「お願い致します」でも間違いではありません。「致」は「チ、いた(す)」の音を持つ常用漢字です。

ところが、日頃私たちが企業のホームページやビジネスメールなど、ビジネスの場面で実際よく目にするのは「お願いいたします」の方ですよね。

「お願い致します」も間違いではないのなら、なぜあまり見かけないのでしょうか。言葉の意味をひも解きながら、順に説明します。

「いたす」は「する」の謙譲語

辞書で「いたす(致す)」を引くと、次のような意味があります。

いたす【致す】

(1)「する」の謙譲(丁寧)語。

(2)先方まで届くようにする。

(3)[お+動詞の連用形+いたします / ご……いたします]などの形で、接尾語的に「する」の相手に対する敬意が一段と高くなった謙譲表現。

(『新明解国語辞典』三省堂)

(1)の通り、「いたす」は「する」の謙譲語であるということが分かります。

「いたします」と「致します」の違い

「お願いいたします」は、先述した意味の中で(3)の用法にあたります。

この場合の「いたします」は、「する」の謙譲語である「いたす」に丁寧語の「ます」を加えたもので、「お願いします」よりもさらに高い敬意を表すものです。

お+願い(「願う」の連用形)+いたします

この形で謙譲の意を表す場合、元々の本動詞である「する(いたす)」は、本来の意味と独立性を失い、「願う」に付く補助動詞としての役割を果たします。

ちなみに、次のように動作を表す漢語名詞に付く場合も同様です。

ご+連絡(動作を表す漢語名詞)+いたします

ここで、公用文におけるルールについて触れましょう。

公用文など役所の文書では、補助動詞は原則として仮名で書くことが定められています。

ビジネス文書やビジネスメールでも、公用文の用法に準じて統一するなら、「お願い致します」より「お願いいたします」の方がより適切な表記であるといえるのです。

■「いたします」を使った例文

さて、ビジネスシーンでは漢字の「お願い致します」より「お願いいたします」がよりふさわしいと分かったところで、他にはどのような動詞や漢語名詞を使った表現があるのか、見ていきましょう。

(メールや手紙で)

・以上、何卒ご配慮いただきますようよろしくお願いいたします。

(メールやメッセージのやり取りで)

・明日にでも書類をご用意してお待ちいたします。

(いつでも立ち寄ってほしいとのメールへの返信で)

・承知しました。ではお伺いする前にご連絡いたします

(相手の配慮に謝意を表すメールで)

・このたびはお手数をおかけいたしまして、恐縮です。誠にありがとうございます。

この4つの「いたします」はいずれも補助動詞としての働きです。

なお、4つ目は最後に「が」をつけて、しばしば「お手数をおかけいたしますが」のようにクッション言葉として使われます。

この際、後に続く言葉によっては「いたします」が重複することがあります。間違いではありませんが、無理に使う必要はありません。

次のように、「いたします」ではなく「ございます」にしても良いし、シンプルに「お手数ですが」でも良いでしょう。

・お手数をおかけいたしますが、よろしくお願いいたします

→ お手数ではございますが、よろしくお願いいたします

→ お手数ですが、よろしくお願いいたします

このようにすっきりした文章になりますね。

クッション言葉としての用法では、初めから「お手数でございますが」「お手数ですが」を使うと決めておくといいでしょう。

そうすることで、「いたします」の重複を避けることができるだけでなく、文章で悩む時間も短縮できます。

「致します」「致す」を使った例文

ここまで読んで、「ビジネスでは“致します”と漢字で書く場面は一切ないの?」という疑問が湧いてくるのではありませんか?

そこで、冒頭で述べた意味について振り返ってみましょう。

(1)「する」の謙譲(丁寧)語。

(2)先方まで届くようにする。

この場合は、漢字で「致す」と表します。

「致す」が本動詞として意味的に独立しているからです。

◇(1)「する」の意味で使う場合

・私が致します

・良い香りが致します

・おっしゃるようには致しかねます。

・私と致しましては、何とも申し上げにくいことです。

・帰ることに致します

・ぶしつけに、大変失礼なことを致しました

◇(2)「先方まで届くようにする」の意味で使う場合

この場合の意味は( )内のように非常に広範です。

・先様には書を致して(=送って)お礼を申し上げました。

・思いを致して(=そこまで深く考えて)おりませんでした。

・私の不徳の致す(=自分の不徳の結果として引き起こした)ところと反省しております。

・誠心誠意、力を致して(=努力をして)成功させたい所存です。

・どう考えても、致し方ない(=方法がない)ことです。

「根拠を知って書くこと」の積み重ねで自信を育てる

仮名遣いを統一するのは、文章を書く時の基本的なルールです。

しかし今回のように、ビジネス文書として仮名書きが一般的でありながら場合によっては漢字が正しい、という言葉も存在します。

・課長には、「K社の一件は致し方ないこと」とご連絡いたしました。

このように、一つの文中に両方が混在することも起こるわけです。

なぜ仮名なのか、漢字なのか? 根拠を知って書くことが大切です。

知識の裏付けがあると、発する言葉、書く言葉に自信が持てます。それは、やがて仕事上の自信にもつながります。

気になったら調べてみる。そんなちょっとした習慣を始めてみてはいかがでしょう。

(前田めぐる)

※画像はイメージです

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