北の女帝・金与正“危うい不時着”…激ギレ外交に兄貴もたじろぐ

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◆南北共同連絡事務所爆破はトランプ大統領へのSOSなのか?

 朝鮮戦争の戦端が開かれてから70年の月日がたっても、分断の溝は埋まらないのか? 南北間の緊張は苛烈さを増すばかりだ。

「南朝鮮当局者の演説を聞くと、我知らず吐き気を催した」

「一言一言に鉄面皮さと図々しさが不快な臭気とともに感じられる」

「表面上、正常に見えるが精神はおかしくなっているのではないかと心配になる」

 口汚く罵るように吐かれた言葉は、北朝鮮の金正恩委員長の実妹である金与正・朝鮮労働党第一副部長が韓国の文在寅大統領に投げつけたもの。しかも激昂は口だけではなく、北朝鮮は韓国との和平の象徴的存在であった南北共同連絡事務所を爆破した。

 文大統領といえば「南北融和」を掲げ、根気よく北朝鮮に手を差し伸べてきた政治家で、北朝鮮の開城工業地区内に17億円をかけて建設した南北共同連絡事務所の費用を負担したのも文政権だった。それを木っ端微塵に破壊する蛮行に世界中が震撼したことは記憶に新しい。

 あまりに情緒的に見える外交方針には、どんな意図が込められているのか。ソウル在住のジャーナリスト・朴承珉氏の分析はこうだ。

「表向きは脱北者団体が北朝鮮に向けて撒いたビラに抗議しての爆破とされていますが、北朝鮮があらゆる面で行き詰まりを感じた末にとった行動だと考えられます。というのも、’16年に国連の経済制裁を受けて以来、北朝鮮経済は苦しくなる一方。裕福な人が集まっている平壌ですら、食料の配給が3か月も滞っているという情報すら聞こえてくる。そんな状況下だからこそ過激な行動に打って出たのでは。不満が高まる国民の目を外に向けさせ、なおかつ国際社会にも“北朝鮮の暴走は対処しないと危ない”と思わせるために、ギリギリのところを突いているのです」

 とはいえ、北朝鮮側に韓国を敵視する動機がないわけではない。伏線となったのは、昨年2月にベトナムのハノイで行われた米朝首脳会談だ。

 経済制裁の解除を何よりも望む北朝鮮は、事前に韓国の諜報機関トップから「寧辺にある核施設を破棄すれば、経済制裁は緩和される」とアドバイスを受けていた。金正恩委員長はそのつもりでトランプ大統領との交渉に臨んだが、何ひとつ合意に至らなかった。ここでの内幕は、ジョン・ボルトン前大統領補佐官が上梓した回顧録「The Room Where It Happened」でも詳細に触れており、文大統領の描いた絵図に乗った結果決裂したことから、北朝鮮は文政権に強い不信感を抱くようになったのである。

◆金与正の“暴走”を絶妙に抑える最高司令官の存在

「寧辺にある核施設は老朽化が進んでおり、『ここをひとつ手放せば経済封鎖が解かれるなら、よい取引だ』と金正恩は考えたが、現実はそう進みませんでした。韓国の見当違いなアドバイスに北朝鮮は振り回され、不満を抱くようになった。それが金与正の乱暴な言葉遣いへとつながり、南北共同連絡事務所の爆破へと進んでいったのだと思います。ただ、北朝鮮は韓国への示威行為を通じて、アメリカに強いサインを送っているようにも見えます」(朴氏)

 南北共同連絡事務所を爆破後、一時は非武装地帯での拡声器の再設置や軍事行動まで匂わせた金与正だったが、武力衝突は“鶴の一声”によって回避された。待ったをかけたのは、ほかならぬ金正恩委員長だ。

 こうした動きからも、北朝鮮の思惑が透けて見える。北朝鮮問題に詳しいデイリーNK編集長の高英起氏はこう語る。

「振り子外交といって、行ったり来たりするのはこれまでの北朝鮮にはよくありました。その真意は明白で、金委員長としてはあれだけの関係を築ける大統領が今後も出てくるとは思えない。そのため、次の大統領選ではトランプ大統領に勝ってほしいし、もっと北朝鮮に関心を持ってもらいたいと考えている。だから、核実験や長距離ミサイルの発射といった“アメリカが本気でブチ切れるポイント”までは踏み込まないかたちで、今後も仕掛けてくるはず。とはいえ、安全保障は危険性がゼロ%じゃない限り、警戒は怠れない。韓国、日本といった周辺国はしばらく振り回されるでしょうね」

 一方で昨今の北朝鮮の内情について高氏はこうも付け加えた。

「脱北者が送ったビラに金ファミリーを侮辱する内容が書かれており、『北朝鮮は体制崩壊に繋がるので、ビラを恐れている』なんて言う人もいますが、ビラはほとんど北朝鮮の人の目には触れていません。むしろ、韓国ドラマのほうがよっぽど密かに流通して若者に影響を与えています。最近の脱北者はそれを観て韓国に憧れを抱き、脱北してくるのです。私の体感ですが、8割以上の若者が韓国ドラマを観ているのでは」

 韓国ドラマといえば、38度線を越えてしまった財閥令嬢と人民軍中隊長のラブストーリーを描いた『愛の不時着』が大流行中だが、同作で紹介される北朝鮮の政治の世界は権謀術数がはびこる魔界だ。

 果たして金与正は「不時着」せずに職務をまっとうできるのか――見ものである。

◆北朝鮮の新たなる女帝・金与正の華麗なる経歴

 幼少期から金正日総書記の寵愛を一身に受け、北朝鮮の最高学府である金日成総合大学を卒業。生まれながらにエリート街道を歩む金与正は現在、朝鮮労働党の宣伝扇動部を経て、中枢機関と言われる統一戦線部までも統べるとみられる。療養中の金正恩の代役を果たし、外交では嫌われ役も見事にこなす辣腕ぶり。周辺国にとって厄介な政治家になりそうだ。

<取材・文/週刊SPA!編集部 写真/ZUMAPress、AFP/アフロ>
※週刊SPA!6月30日発売号より


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