「エール」39話 「紺碧の空」がなかなか作曲できない裕一。モデルの古関裕而はどうだったか比較する


第8週「紺碧の空」39回〈5月21日 (木) 放送 脚本・吉田照幸 演出・野口雄大〉



■ドラマでは裕一の感情に潜っていく
早稲田大学の新しい応援歌「紺碧の空」の作曲を頼まれたものの一向に書けず、締切ギリギリで裕一は断る。それを咎めるかのように音が置き手紙を残して実家に帰ってしまった。がらんとした広い部屋のなかにポツンと残った裕一は、久志(山崎育三郎)を呼び出し相談する。

「紺碧の空」は実在する、それもとても有名な早稲田の応援歌。作曲したのは、裕一のモデルの古関裕而。古関を応援団に紹介したのは、「イヨマンテの夜」などヒット曲を多数もつ歌手の伊藤久男。久志のモデルになった人物である。ドラマでも久志の従兄弟が応援団にいて、その流れで裕一に話が回ってきた。それは実際の出来事と近いものになっている。

このようなことが書かれた、古関裕而に関する新書「古関裕而―流行作曲家と激動の昭和」(刑部芳則著/中公新書)と「古関裕而の昭和史 国民を背負った作曲家」(辻田真佐憲著/文春新書)を読むと、古関裕而も曲ができるまで時間がかかり、できたのは発表会の3日前とある。ただ、そこまでの古関の内面の葛藤は書籍には書かれていない。「エール」はこの書かれていない部分を創作してドラマにしているようである。

以前も本レビューで、NHKの古関裕而の番組を見て、モデルとドラマの違いを比べてみたことがあるが、今回もまた比べてみよう。

●参考:「エール」18話/音、国際作曲コンクール入賞の裕一にファンレター 古関裕而とドラマの比較もしてみる

【レコード会社との専属契約】  
古関裕而:コロンビアレコード 契約金は印税の前借り 成果がなかなか出せず2年目は減額に。
古山裕一:コロンブスレコード 契約金は印税の前借り 成果が出せないが2年目も同額に。

【契約のきっかけ】     
古関:山田耕筰の口利き。古関は山田と以前から文通していて、山田は古関の曲を評価していた。
裕一:小山田の口利き。小山田と裕一は面識はなく、小山田が裕一のことを書いた新聞記事を読んだ程度。裕一が一方的に尊敬していた。

【「紺碧の空」をつくるきっかけ】 
古関:同郷の伊藤久夫の紹介。
裕一:幼馴染の久志の紹介。

【クラシックへのこだわり】   
古関:妻・金子の入った合唱団に参加。そこでクラシック音楽家との交流をもち、関東大震災をきっかけに昭和3年につくった「大地の反逆」を発表。 
裕一:歌謡曲や応援歌などがうまく作れず、代わりにクラシックの才能をめいっぱいこめた「反逆の詩」を作り小山田に見せるが相手にされない。
※「大地の反逆」は37回のラストにかかっていた重々しい曲と古関裕而コロンビアレコードのTwitterで紹介されている

【音楽活動】   
古関:幼少期からずっと、銀行に就職しても、音楽に夢中。金子と文通しているときも曲をどんどん生み出していた。レコード会社と契約しても、金子の声楽活動と共に音楽の仲間と交流、独自の活動をしていた。
裕一:音がいないと音楽が作れない、というような熱い台詞もあったが、裕一が日常、音楽漬けであることはあまり描かれていない。

こうして見ると、モデルに関して書かれた本では、寝て覚めても音楽に親しんでいる様子が描かれているが、ドラマではそこをはしょって、研究者が踏み込んでいない当人の感情を、裕一という架空のキャラに託し、もともとやりたかったクラシックにとらわれ先に進めない感情を創作してドラマにしているようである。

実際は、山田耕筰は古関裕而の味方のようだが、裕一の葛藤を大きくするためか、実際ドラマでは山田がモデルになっている小山田と裕一の関係はやや複雑なものになっている。

それと同時に、「紺碧の空」との出会いを通して「応援歌」に託された意味を「エール」は解いていく。音のモデル金子の合唱団活動に参加して音楽仲間を増やしていく古関という部分をドラマにしてほしかったような気もするが、そこは音の音楽学校とそこの生徒の久志というふうにまとめたのであろう。

■シュークリームと久志と田中
すっかり投げやりになって、音楽をまるごと諦めてしまいかかっている裕一を久志は励まし続ける。朝、一緒に納豆ご飯を食べたり、シュークリームを持ってきて縁側で語らったり。久志から「書け」とは言わない。本人がその気にならなければ意味がないと思っているからだ。ただただ、裕一に寄り添う。

そこへ、実家から戻ってきた音に「いまの裕一さんには心を動かす言葉が必要なの」とものすごい勢いで頼まれた田中(三浦貴大)がやって来る。入れ替わるように久志は消える(得意の逃げ足の速さを発揮)。

田中は、過去、バッテリーを組んでいた幼馴染に怪我を負わせ、野球の道を断念させてしまった話をする。それはかなりディープな話だった。野球ができなくなった幼馴染はラジオで野球を頑張っている人の様子を聞くことで自分を鼓舞していた。そこで田中は「頑張ることは……つながるんだって」と気づき、野球を応援する道を選んだ。涙ながらの田中の話が裕一の心を動かす。

「なんで僕を選んだんですか?」と聞くと「先生は不器用ですけん」と言われ、賞をとったからじゃないことを知って笑ってしまう裕一。クラシックの権威ある賞を獲ったことがプレッシャーになっていた裕一は肩透かしと同時に心が軽くなったであろう。ふたりは久志が残したシュークリームを食べて、笑い合う。

三浦貴大は実直でいかにも好青年という、朝ドラの登場人物らしい演技をしている。


■朝ドラ送りというエール
「おはよう日本関東版」の高瀬アナが「ほかの地域でも朝ドラ送りをやっているそうなんですよ。隔世の感」と感慨にふけっていたが、少なくとも「関西版」では大阪局(BK)制作の朝ドラの送りを以前からやっていた。私が確認したのは「まんぷく」の頃。新型コロナウイルス感染予防の緊急事態宣言によって朝ドラ「エール」が6月末をもって放送休止になることが決定したいま、NHKの飯の種である朝ドラがしばらくないとなると、NHKも全力でそれこそ「エール」を送ろうと局員が一丸となっている印象を受ける。

しかも、20日には高校野球が中止と決まった。無念そうな高校球児の表情をニュースで見ると胸が痛い。ちょうど、39回の、怪我で甲子園の夢を諦めた田中の幼馴染の話と重なってしまった。これには「あさイチ」で近江アナもつらそうだった。NHKは毎年夏、朝ドラのあとに高校野球を中継しているが、今夏それもない。朝ドラも甲子園も、テレビ局としても飯の種が軒並みなくなるとあって、いま番組編成は大変なことであろう。こういう状況で、「エール」が、ドラマを観た人が元気になる、そういうドラマであってほしいと願う。

■今日の窪田正孝
「でっ?」
志村けんの「でっ?」と重なったところが最高だった。
(木俣冬)

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