山崎育三郎 “華がある”存在そのもの 「ミュージカル界の王子」と称される由縁


■女性をいい気分にさせるムードが滲み出る歌声
「ため息なんて似合わないな」

こんなセリフをしれっと語って様になるヒトがいようか。いや、いる。
山崎育三郎である。

朝ドラ「エール」33回。山崎育三郎演じる佐藤久志は、ヒロイン古山音(二階堂ふみ)がひとり歌のレッスンをしているところに声をかける。久志は音の夫・裕一(窪田正孝)の幼馴染。いまは音と同じ音楽学校で「プリンス」と呼ばれる見た目も実力も高い人気者である。「頭脳明晰 眉目秀麗 神が与えた美しい声」と言われていた。

オペラ「ドン・ジョバンニ」の「お手をどうぞ」を歌う場面では、その歌声は清澄かつ、デュエットをした女生徒・夏目千鶴子(小南満佑子)を引き立てるかのような甘さ。なにしろこの曲は、女たらしのドン・ジョバンニが女性を誘惑している歌だから。グイグイ出過ぎず、さりとて控えめ過ぎず、女性をいい気分にさせるムードが山崎の歌から滲み出ていた。さらに言えば、この場面では、夏目千鶴子の実力がすごいと思わせることが重要であって、それもしっかりわきまえている印象を受けた。

日本人男性は女性を立てることが得手でないと言われる。なにしろ亭主関白の国の人だから。それに比べて欧米は「レディファースト」という言葉もあるように、女性を自然に立てることが当たり前。心の中はどうかわからないが、少なくとも公の場で女性をスマートに助けることが身についている。

山崎育三郎はウィーンやブロードウェイで生まれたミュージカルにたくさん出演していて、欧米の人間の立ち居振る舞いを演じているうえ、「ミュージカル界の王子」とも呼ばれている。ふわりとウェーブがかかった髪、光をたくさん反射させる大きな瞳、優雅かつキレのいい立ち居振る舞い、華があるってこういうことだという存在である。


■「エリザベート」では役の背負った孤独感を生々しく表現
子供のときに見たミュージカル「アニー」をきっかけに歌のレッスンをはじめた山崎は、12歳でミュージカルデビューした。変声期の悩みを経て、高校のとき留学、帰国後、東京音楽大学に入学。「レ・ミゼラブル」(07年/20周年記念公演)のオーディションでマリウス役に抜擢され、本格的にミュージカル俳優として活躍しはじめる。「レ・ミゼラブル」「モーツァルト!」「ミス・サイゴン」「嵐が丘」「エリザベート」などの数々の名作ミュージカルに出演し、栄えある演劇賞なども受賞している。

その一方で、テレビドラマでも活躍をはじめる。まず、2015年、刑事ドラマ「THE LAST COP/ラストコップ」(15年/日本テレビ系)。「エール」主演の窪田正孝と、その父役の唐沢寿明がバディの刑事で初共演したドラマの一話に山崎は、コンピュータを自在に操るテロリスト役で出演した。

「罪を忘れた人間に血の雨が降り注ぐ」「神の怒りは我々の怒りである」などとやたらいい声で犯行声明(?)を発していて、さすがミュージカル俳優と感じさせるが、このときの山崎は申し訳ないが「王子」っぽく全然ない。やや三白眼ふうな瞳を隈で囲んだような暗い危うい表情を終始し、邪悪なことを考え行為に及ぶ。そして唐沢寿明演じる刑事をあざ笑うのである。

山崎は「王子様」と呼ばれているとはいえ、王子キャラだけ演じているわけではない。ちょうど「ラストコップ」出演と同じ年に出演し、代表作となった「エリザベート」のルキーニはそれこそテロリスト。狂言回しという役割もあるなかで、あくまでひとりの人間として、役の背負った孤独感を生々しく表現していた。

山崎も参加して話題になったミュージカル俳優40人によるリモート合唱「民衆の歌」は「レ・ミゼラブル」の曲。この作品で山崎が演じたマリウスは、貴族階級の家に生まれながら民衆のために立ち上がる革命の士である。「王子様」と呼ばれてキラキラして見えるが、演じている役はかなり骨のあるものばかり。「モーツァルト!」のヴォルフガングも描かれているのは創作者の業である。「ミス・サイゴン」のクリスはベトナムで出会った女性を捨てて故国へ帰ってしまうアメリカ兵で、なんとも虚無的な冷たさのある役なのだ。


■自ら眼に光を入れ、背景に花を描いてしまう、そんな仕上げのうまい俳優
もしかして陰の部分のほうが本質なんじゃ……と思うほど徹底的に暗さも演じられ、ベクトルをぐっと反対に向けると、久志のような太陽のように明るい人物も演じることができる山崎。インタビューすると話していることに揺らぎがなくて、ものすごくきちっとそのまま記事になるように話すクレバーさがある。

その魅力のすべてを融合し、歌や踊りの才も見せつけた、ザッツ山崎育三郎という印象のドラマが、初主演ドラマ「あいの結婚相談所」(17年/テレビ朝日)。ちょっと毒のある結婚相談所所長がふいに歌ったり踊ったりするエンターテインメント仕立てで、ミュージカルって面白いという気分をお茶の間に定着させることに成功するのと同時に、テレビの世界でも山崎育三郎の名を強烈に印象づけた。


その後、ドラマ10「昭和元禄落語心中」(18年/NHK 総合)では落語家役に挑戦。兄弟弟子である主人公(岡田将生)が敵わないと思うカリスマ性のある人物を落語で表現するのはなかなかハードルが高いことと思うが、山崎は目も耳も良いのだろう、落語の語りの再現力はかなりのものに見えた。

落語以外の役の演技も、型破りな人物のダメな魅力を鮮やかに演じて、その顛末も徹底してドラマチックに見せた。革命、戦争、芸術……と巨大なテーマを背負ってきただけに、彼の演じる人間には太い芯があり、圧倒的に劇的なのだ。

ミュージカルに例えれば、漫画で見せ場のコマは大きくて、そのキャラはほかのコマよりも、瞳も髪も影も何もかも描き込みが細かくなるもの。舞台出身の俳優には往々にして、この見せ場の描き込みの細かさを自らの肉体でやって見せるようなところがあるが、山崎育三郎はとりわけその力に長けているような気がしてならない。自ら眼に光を入れ、背景に花を描いてしまう、そんな仕上げのうまい俳優である。
(原稿/木俣冬、イラスト/おうか)

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