「スカーレット」39話。ちや子にぶつけた喜美子の思い「そんなことがあったとは何も知らない人が約一名」


(これまでの木俣冬の朝ドラレビューはこちらから)

連続テレビ小説「スカーレット」 
◯NHK総合 月~土 朝8時~、再放送 午後0時45分~
◯BSプレミアム 月~土 あさ7時30分~ 再放送 午後11時30分~
◯1週間まとめ放送 土曜9時30分~

『連続テレビ小説 スカーレット Part1 (1)』 (NHKドラマ・ガイド)

第7週「弟子にしてください!」39回(11月13日・水 放送 演出・小谷高義)


朝ドラは「禍福は糾える縄の如し」という名言をどう表現するかにかかっていると言っていい。
禍福のバランスをどう描くか、大事なのはそのセンスだ。
その点において、「スカーレット」の7週はうまいこといっている。
37回で、喜美子(戸田恵梨香)は絵付けのしごとができると喜んで、38回は、それがぬか喜びだったことがわかる。39回は、絵付けができそうになくがっかりしてとぼとぼ帰宅すると、ちや子(水野美紀)が訪ねて来ていて、彼女に哀しい思いを吐露することができた。福→禍→福となっている。禍→福 福→禍 の行ったり来たりだけだと単調に感じるが、福→禍→福となるとそうfでもない。それに、最後の福が、泣くことですっきりするという禍福混合であることで単調になることを避けている。
弦楽器ソロ、管楽器ソロ、弦楽器と管楽器の合奏みたいな、いい構成になっている。

おんおん泣く喜美子


38回で、丸熊陶業の食堂の先輩・緑(西村亜矢子)と八重子(宮川サキ)と仲良くお昼におしゃべりしようと誘われるが、喜美子が素直にその申し出を応じられなかったのは、彼女が話したいことは緑たちにはとうてい話せないことであったからだ。姑や亭主の愚痴に近い、親や家庭の愚痴は話すにはヘヴィ過ぎるし、最も重要な目下の問題は、絵付けの仕事に惹かれたけれど、それをやるにはお金も時間も必要だったという厳しい現実。この落胆は誰にも話せない。……と思っていたら、ちや子の登場だ。彼女なら喜美子の哀しみをわかってくれる。

新聞記者の代わりの物書きの道を見つけて生き生きとしているちや子を見て、「うちも見つけたかった〜」とおんおん泣く喜美子。それによってすこし、ガス抜きできた喜美子。
ちや子は、喜美子の気持ちの吐き出し口として機能して去っていく。第2の草間さん(佐藤隆太)か……。

「そんなことがあったとは何も知らない人が約一名」


ちや子は新聞社を辞めて出版社で働いていて、琵琶湖にかかる予定の大橋を取材しようと思っていた。この琵琶湖大橋、ウィキペディア情報だが、東京オリンピック前に急ピッチで建設が進められていたらしい。
橋を作る浪漫といえば、ちょうど水曜に放送中の日本テレビ「同期のサクラ」の主人公が故郷に橋をかける夢をもっていることと重なって見えた。水橋文美江は日テレの水曜枠を何作も書いているし、エールを送ったのか。

他のドラマとのかぶりが面白かったのは、「そんなことがあったとは何も知らない人が約一名」というナレーション。
「そんなことがあったとは私は知らなかった」という倉本聰ドラマでおなじみのお断りである。これは「それはまた別の話」とか「のちに〜〜なることをそのときは知るよしもなかった」とか小説やドラマの常套句である。
そこは言わないお約束。

絵付けのことは忘れようと努力する喜美子。また変わらない毎日の暮しが待っている。いや、少し変化があるのは、常治(北村一輝)が縁談を持ってきたことだ。
米屋の三男坊・宝田三郎を婿にどうかとひとりはしゃぐ常治。

酒だ、風呂だと、家では殿様状態の常治。家長だから。この頃、家長は絶対だから。いばるのは稼いでからにしろと思うけれど、仕方ない。
喜美子は直子(桜庭ななみ)に風呂の炊き方を教える。それから、酒を薄める方法を直子に伝授して、ひとしきり楽しむ。

お茶の時間


ちや子は大久保さん(三林京子)から託されたお茶を持ってきて、それを入れて飲む場面。「なつかしい」とお茶を飲むだけの場面で、こんなに尺をとるのはなかなか良い。食事やお茶をとりあえずの大人数が集まって会話の場にするのではなく、お茶がふと気持ちを変える、その時間を書く、その目線が良い。
マツ(富田靖子)、喜美子、ちや子、百合子(住田萌乃)、直子…ちゃぶ台に載った茶碗はみんな違っていて、それも良かった。
器のドラマだから、器に気配りがあるのだろう。

照子との友情



喜美子「京都行く前にもっかいゆっくり会おうか」
照子「どうしうてもというならしゃあないな」

このふたりの裏腹な会話もすっかりおなじみとなった。
そう、喜美子にはおしゃべりする人がもうひとりいる。照子(大島優子)だ。
彼女の場合は、弱音を吐露するのではなく、強がりの応酬を楽しむ相手。面白いのは、照子は本来、喜美子にとって
恵まれた羨ましい相手だが、なぜか喜美子が照子に優位に立てること。照子の反応のおかげで喜美子は貧しさとか恵まれてなさとかに向き合わずに済む。その逆転現象や、相手によって態度や話す内容が違うことをこともなげに書いていることも「スカーレット」のよくできたところだ。
(文・木俣冬 タイトルイラスト・まつもとりえこ)

登場人物のまとめとあらすじ (週の終わりに更新していきます)



●川原家
川原喜美子…戸田恵梨香 幼少期 川島夕空  主人公。空襲のとき妹の手を離してトラウマにしてしまったことを引きずっている。 絵がうまく金賞をとるほどの腕前。勉強もできる。とくに数学。学校の先生には進学を進められるが中学卒業後、大阪の荒木荘に就職する。やがて、美術学校に進学を考えるが、実家の経済事情の悪化により信楽に戻り、丸熊陶業で働くことになる。

川原常治…北村一輝 戦争や商売の失敗で何もかも失い、大阪から信楽にやってきた。気のいい家長だが、酒好きで、借金もある。にもかかわらず人助けをしてしまうお人好し。運送業を営んでいる。家に泥棒が入り、
喜美子の給料を前借りに行く。オート三輪を無理して買ったうえに捻挫して働けなくなって喜美子を呼び戻す。

川原マツ…富田靖子 地主の娘だったがなぜか常治と結婚。体が弱いらしく家事を喜美子の手伝いに頼っている。あまり子供の教育に熱心には見えない。
川原直子…桜庭ななみ 幼少期 やくわなつみ→安原琉那 川原家次女 空襲でこわい目にあってPTSDに苦しんでいる。それを理由にわがまま放題。東京に行きたいと思っている。
川原百合子…福田麻由子 幼少期 稲垣来泉→住田萌乃

●熊谷家
熊谷照子…大島優子 幼少期 横溝菜帆 信楽の大きな窯元の娘。「友達になってあげてもいい」が口癖で喜美子にやたら構う。兄が学徒動員で戦死しているため、家業を継がないといけない。婦人警官になりたかったが諦めた。高校生になっても友達がいないが、楽しげな様子を書いた手紙を大量に喜美子に送っている。喜美子とは幼いときキスした仲。高校卒業後、京都の短大に進学予定。

熊谷秀男…阪田マサノブ  信楽で最も大きな「丸熊陶業」の社長。
熊谷和歌子… 未知やすえ 照子の母

●大野家
大野信作…林遣都 幼少期 中村謙心 喜美子の同級生 体が弱い。高校で友達は照子だけだったが、ラブレターをもらう。いつの間にかモテるようになり、祖母の死以降、キャラ変する。高校卒業後は役所に就職する。

大野忠信…マギー 大野雑貨店の店主。信作の父。戦争時、常治に助けられてその恩返しに、信楽に川原一家を呼んでなにかと世話する。
大野陽子…財前直見 信作の母。川原一家に目をかける。

●滋賀で出会った人たち
慶乃川善…村上ショージ 丸熊陶業の陶工。陶芸家を目指していたが諦めて引退し草津へ引っ越す。喜美子に作品を「ゴミ」扱いされる。

草間宗一郎…佐藤隆太 大阪の闇市で常治に拾われる謎の旅人。医者の見立てでは「心に栄養が足りない」。戦時中は満州にいた。帰国の際、離れ離れになってしまった妻・里子の行方を探している。喜美子に柔道を教える。大阪に通訳の仕事で来たとき喜美子と再会。大阪には妻が別の男と結婚し店を営んでおり、離婚届を渡す。

工藤…福田転球  大阪から来た借金取り。  幼い子どもがいる。
本木…武蔵 大阪から来た借金取り。

…中川元喜  常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。
博之…請園裕太 常治に雇われていたが、突然いなくなる。川原家のお金を盗んだ疑惑。

城崎剛造…渋谷天外 丸熊陶業に呼ばれて来た絵付け師。気難しく、社長と反りが合わず辞める。
加山…田中章 丸熊陶業社員。
原下…杉森大祐 城崎の弟子。
八重子…宮川サキ 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。
…西村亜矢子 丸熊陶業で陶工の食事やお茶の世話をする。

深野心仙…イッセー尾形 

●大阪で出会った人たち
荒木さだ…羽野晶紀 荒木荘の大家。下着デザイナーでもある。マツの遠縁。
大久保のぶ子…三林京子 荒木荘の女中を長らく務めていた。喜美子を雇うことに反対するが、辛抱して彼女を一人前に鍛え上げたすえ、引退し娘の住む地へ引っ越す。女中の月給が安いのでストッキングの繕い物の内職をさせる。

酒田圭介…溝端淳平 荒木荘の下宿人で、医学生。妹を原因不明の病で亡くしている。喜美子に密かに恋されるが、あき子に一目惚れして、交際のすえ、荒木荘を出る。

庵堂ちや子…水野美紀 荒木荘の下宿人。新聞記者で不規則な生活をしていて、部屋も散らかっている。
田中雄太郎…木本武宏 荒木荘の下宿人。市役所をやめて俳優を目指すが、デビュー作「大阪ここにあり」以降、出演作がない。
静 マスター…オール阪神 喫茶店のマスター。静を休業し、歌える喫茶「さえずり」を新装開店した。

平田昭三…辻本茂雄 デイリー大阪編集長 バツイチ 喜美子の働きを気に入って、引き抜こうとする。
不況になって大手新聞社に引き抜かれた。

石ノ原…松木賢三 デイリー大阪記者
タク坊…マエチャン デイリー大阪記者
二ノ宮京子…木全晶子 荒木商事社員 下着ファッションショーに参加
千賀子…小原華 下着ファッションショーに参加
麻子…井上安世 下着ファッションショーに参加
珠子…津川マミ 下着ファッションショーに参加 
アケミ…あだち理絵子 道頓堀のキャバレーのホステス お化粧のアドバイザーとしてさだに呼ばれる。

泉田工業の会長・泉田庄一郎…芦屋雁三郎 あき子の父。荒木荘の前を犬のゴンを散歩させていた。
泉田あき子 …佐津川愛美 圭介に一目惚れされて交際をはじめる。

ジョージ富士川…西川貴教 「自由は不自由だ」がキメ台詞の人気芸術家。喜美子が通おうと思っている美術学校の特別講師。
草間里子…行平あい佳 草間と満州からの帰り生き別れ、別の男と大阪で飯屋を営んでいる。妊娠もしている。

あらすじ


第一週 昭和22年 喜美子9歳  家族で大阪から信楽に引っ越してくる。信楽焼と出会う。
第二週 昭和28年 喜美子15歳 中学を卒業し、大阪に就職する。
第三週 昭和28年 喜美子15歳 大阪の荒木荘で女中見習い。初任給1000円を仕送りする。
第四週 昭和30年 喜美子18歳 女中として一人前になり荒木荘を切り盛りする。
第五週 昭和30年秋から暮にかけて。喜美子、初恋と失恋。美術学校に行くことを決める。
第六週 昭和31年 喜美子、信楽に戻り、丸熊陶業で働きはじめる。

脚本:水橋文美江
演出:中島由貴、佐藤譲、鈴木航ほか
音楽:冬野ユミ
キャスト: 戸田恵梨香、北村一輝、富田靖子、桜庭ななみ、福田麻由子、佐藤隆太、大島優子、林 遣都、財前直見、水野美紀、溝端淳平ほか
語り:中條誠子アナウンサー
主題歌:Superfly「フレア」
制作統括:内田ゆき

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