自然災害、「顧客の利便性より休業を優先」が常識化か…計画運休の是非

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 今年10月、東日本を縦断して各地に甚大な被害をもたらした台風19号。その威力は上陸数日前よりメディアで大きく取り上げられ、首都圏を中心に公共交通機関やコンビニエンス・ストア、スーパーなど多くの小売店舗が臨時休業することを事前に発表した。しかし、こうした計画運休や休業は企業側にとって販売機会ロスになる。さらに、台風などによる悪天候が予想に反して訪れなかった場合、「通常通り運行、営業できたのではないか」との批判を浴びるリスクも。

 今後、こういった計画休業が広まることが予想されるだけに、企業は事前災害対応とどう向き合うべきなのか。立教大学経営学部教授の有馬賢治氏にビジネスの観点から話を聞いた。

働き手があって初めてサービスは提供できる

「まず、今回の台風で被害を受けた方々にお見舞いと、亡くなった方々にお悔やみを申し上げます。昨今は気候変動により大災害が起きやすくなっています。台風19号のケースでも前例にないほど事前報道が多かったわけですが、ビジネスの観点で考えた場合、仮に予測が外れたとしても、事前準備は周到に行うべきです。現代はチャンス・ロスよりリスク・マネジメントの時代、つまり“転ばぬ先の杖”が必要な時代なのです」(有馬氏)

 企業が災害と直面したとき、リスク・マネジメントには2つのポイントがあるという。

「ひとつは『顧客の利便性』です。マーケティングの観点では顧客の利便性は優先順位が高いものですが、非常時では必ずしも最優先にはならない場合があることを企業は自覚しておくことが重要です。もうひとつは『従業員の安全確保』です。ホテルなどで既に顧客へのサービス提供の最中であれば、当然顧客の安全確保が優先されるべきですが、顧客が不在で業務が中止できる状況ならば、働く人の安全確保が適切な対応です。

 企業活動というのは、働き手を確保できて初めて顧客へのサービスが提供できるものです。リスクを顧みず強行して従業員に何かあれば、台風などが過ぎ去った後も、長期的に業務に影響が出てしまう恐れがあります。ですから、従業員の安全は確実に確保すべき事項です」(同)

 そのなかで今回英断と言えるのが、電車などの公共交通機関の運休を早々に決めたことだ。

「多くの人々への影響が見込まれる電車など公共サービスの計画的休業は、決めるタイミングが非常に難しいと思います。今回は上陸予想日が週末で、会社に出勤する人が比較的少ないこともあり、早い段階から運休の告知がされ混乱は抑えられました。これが平日だったら決断はより難しくなるでしょう。ですが、難しくても早いに越したことはないと思います。やはり48時間程度前には事前告知をして準備期間を設けることが必要ではないでしょうか」(同)

在庫の確保とリスク管理の難しさ

 だが、世論というのは現金なもの。被害がたいしたことがなければないで、大げさな企業対応に非難の声が上がることも考えられる。

「予測が外れた場合には、実施側は丁寧に説明をして、理解を求めていくことが必要です。災害対応に関して企業側は消費者の非難を恐れてはいけません。ビジネスとは先がどのように展開するのかがわからないところに投資をしていくものです。勝負をして大きな投資をすることも、リスクを回避して慎重になることも同じくらい重要な決断です。したがって、避けようがない天災等のリスクのために慎重な事業運営をするのは当然だと思います。どのような施策でも批判は出るものですから、それを恐れずに被害を拡大させないリスク・マネジメントが求められているといえるでしょう」(同)

 また、今回台風上陸前に大きく報道されていたのが、養生テープや保存食、飲料水を買い求める消費者の姿。一時的に需要が急激に上がって在庫不足になり、購入できなかった顧客も少なくなかった。

「通常営業時は、在庫をできる限り少なくして売れ残りのリスクを下げることが小売業の基本ですが、養生テープや非常食、水などの商品は、緊急対応が予想される時には通常業務の例にとらわれずに、ある程度多めの在庫を確保したほうがいいことが再確認されたはずです」(同)

 しかし、流通的に短期間で各小売店がしっかり在庫を確保できるものなのだろうか。

「多くの小売業は通常卸売業者から商品を購入しますが、卸売業者にも自社倉庫にプールされた流通在庫がありますし、さらに大元のメーカーにも在庫はあるはずです。したがって、小売店側から迅速に発注できれば、ある程度の物資は各小売店へ行き渡るようになると思います」(同)

 しかし、今回店頭ではモノ不足が相次いだ。

「トヨタは『かんばん方式』(ジャストインタイム生産システム)という各工程で必要なパーツを必要な分だけ供給して在庫をスリム化する生産方式を基本としていますが、1979年の日本坂トンネルでの火災事故後、一定量の在庫をストックするようになりました。また、阪神大震災や東日本大震災で流通がストップした際、多くの企業の工場でもその影響で操業できないことがありました。これらの経験からトヨタをはじめ多くの企業で工場での在庫の考え方が見直されています。今回の災害でも、メーカーや小売業を問わず企業が在庫について考えを改める機会になったのではないでしょうか」(同)

“雨降って地固まる”という言葉のとおり、気候変動の時代だからこそ災害から多くのリスク・マネジメントを企業も学ばなければならない時代になったようだ。

(解説=有馬賢治/立教大学経営学部教授、構成=武松佑季)

  • 11/12 11:30
  • Business Journal

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この記事のみんなのコメント

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  • 台風や災害の警報があるとき 第一に「仕事があるけど電車は動くのか⁉」とか 初めに仕事の事を頭に浮かべるのが日本人の大半 、 「家を空けると家族に何かあったら大変だから仕事になんて行けない❗」ってのが本来と言うか 海外の考えだよな。 日本人は戦争起きても「会社に行かなくちゃ‼」とか言いそうwww

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