隻眼の女性従軍記者の半生「プライベート・ウォー」ジャーナリストの戦争に逃げ場なし!

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戦場で片目を失うほどの大怪我をしながら、それでも戦場に取材に行くことをやめ(られ)なかった女性ジャーナリスト。彼女の凄惨かつ長い個人的な戦いを描いたのが『プライベート・ウォー』である。

隻眼のベテランジャーナリスト、メリー・コルヴィンとは何者か


主人公メリー・コルヴィンは、イギリスのサンデー・タイムズ紙で活躍する、アメリカ人特派員だ。プライベートを顧みず危険なエリアでの取材に明け暮れ、レバノン内戦や湾岸戦争、チェチェン紛争など世界中の戦場で記者として活動してきたベテランである。

2001年、スリランカ内戦について反政府組織「タミル・イーラム開放の虎」を取材していた時、スリランカ政府軍が放ったロケット弾によってメリーは左目を負傷。片目を失明するという重傷を負いながらも、黒いアイパッチをつけて現場に復帰する。

2003年のイラクでは12年前にフセインによって虐殺されたクウェート人の遺体を掘り返し、2009年にはアフガニスタンでの戦闘を取材。その間にビジネスマンのトニーと交際をスタートさせるも、何度も戦場に赴くうちに、メリーの心は次第にPTSDに蝕まれいく。

『プライベート・ウォー』は、2012年にシリアで死亡したジャーナリストを主人公にした作品だ。だから、この映画は必然的に、主人公の死に向かって突き進む構造になっている。「なんで彼女は死んだのか」という点に、最終的にストーリーが集約されていくのだ。主人公メリーは、タフで気骨のあるジャーナリストであり、クルド人自治区でISと戦う女性兵士たちを題材にした映画『バハールの涙』に登場する女性記者マチルドのモデルになった人物でもある。普通の人間ならば一度行っただけで即座に嫌になるような戦場に何度も何度も赴き、その度にスクープをモノにする。

精神的に強いだけでなく、機転も効くし度胸もある。戦場で兵士達の検問に止められた際には「自分は医療援助団体の職員だ」と大ウソをつき、その証拠として「援助団体の身分証です。HEALTHって書いてあるでしょ!」と手元にあったスポーツジムの会員証を見せて切り抜ける。「そんなんでイケるの!?」と思うが、現地の兵隊からすれば、めんどくさそうな白人の女が一応顔写真付きの身分証を振り回して通せと言っている、という状況に他ならない。言葉も通じないし、そりゃ通すよなという感じである。

この「タフで、一度こうと決めると一歩も引かないめんどくさそうな女」を演じたロザムンド・パイクが、とてもいい。眼光は鋭く、言いたい事は言うけれど、人間的にはチャーミングという、単にガミガミとうるさいだけの人間ではないという点をちゃんと表現している。この人、本当に一回自分の決めたことに関しては、テコでも動かないんだろうな……という説得力がある。

兵隊は退役できても、ジャーナリストは退役できないのだ……!


メリーは2012年にシリアで亡くなったジャーナリストであり、映画はその亡くなった瞬間からスタートする。だから前述のように、「なぜメリー・コルヴィンは死んだのか」という点に向かって、映画全体が集約されていくことになる。

なぜ死んだのかという点に関して、『プライベート・ウォー』は戦場ジャーナリストという仕事の独特さを回答として用意する。なんせ戦争に巻き込まれて死ぬ思いをしたり、実際に死んでしまったりした人を取材するのが仕事なのだ。どう考えても過酷で、神経をすり減らす仕事である。実際、メリーはPTSDに苦しめられ、酒をラッパ飲みし、四六時中煙草を吸いまくるようになる。

さらに加えて、ジャーナリストの仕事には終わりがない。軍人だって戦場に赴き矢面に立たされるが、軍人の場合は任期が終われば退役する事ができる。職業軍人という生き方もあるにはあるが、それにしたってず〜っと最前線で戦いっぱなしという人は、案外稀である。任地だって変わるし、軍人には「戦場以外で仕事をするルート」がそれなりに用意されている。

しかし、戦場を取材するジャーナリストには、そういう逃げ道がない。なんせ、戦争自体は世界中の至る所で常に発生しているのだ。常に最前線にいようと思えば、ずっといることができる。軍人で言う「退役」のようなシステムもない。本人が「もうやめよう」と思わない限り、ずっとやめることができないのが、従軍記者なのである。

それならそれで、すんなりとやめればいい……と言うのは簡単である。しかし、メリーには使命感がある。世界の戦場でひどい目に遭っている人の話を吸い上げ、全世界に知らせる仕事は、誰にでもできることではない。それならば自分がやらねばならない。そう固く決意したメリーを、周囲は止める事ができない。さらにメリーと契約しているサンデー・タイムズからすれば、人気も実力も備えた記者であるメリーには仕事をしてもらいたいという事情もある。サンデー・タイムズ編集部のショーンは、その狭間でメリーと何度も衝突することになる。

さらに言えば、劇中で何度も触れられるように、メリーは国内で普通の安穏とした取材をすることができない性分である。戦場で危険な目に遭いながら特ダネを追い、それを記事にして世界に配信する。どんなに危ない目に遭っても、「ネタになる」と思えば屁でもない。酒と煙草まみれになりながら、メリーはそんな危険で刺激的な生活から抜け出す事ができない。こうなってくると、もはや誰がメリーを危険な取材に赴かせ、死に追いやったのかよくわからなくなってくる。そのよくわからなさを、そのまま映画にしたのが『プライベート・ウォー』である。

そう考えると、『プライベート・ウォー』というのは、全くその通りのタイトルだなという気がしてくる。原題も『A PRIVATE WAR』なので、そのままの題名である。個人的ではあるけれど、抜け出すのが極めて困難な戦争を一人のジャーナリストがどう戦い、なぜ死んだのか。重い主題ではあるが、そこから逃げなかった映画であることは、このタイトルがよく示している。
(しげる)

【作品データ】
「プライベート・ウォー」公式サイト
監督 マシュー・ハイネマン
出演 ロザムンド・パイク ジェイミー・ドーナン トム・ホランダー スタンリー・トゥッチ ほか
9月13日よりロードショー

STORY
イギリスで活躍するアメリカ人の女性ジャーナリスト、メリー・コルヴィン。2001年のスリランカでの取材で隻眼となった彼女は、PTSDに悩まされながらもイラク、アフガニスタンといった戦場で取材を重ね、様々な実績を重ねるが……

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