壮絶なコンプレックスと戦い続けていた美女。夫に裏切られて転落した女の決意とは

「美人で優秀な姉と、できの悪い妹」

幼いときから、2人はこう言われてきた。

妹の若葉(わかば)と、姉の桜(さくら)は3歳差の姉妹。27歳と30歳になった今、その差は広がるばかりだ。

人生に行き詰まった妹は、幸せを掴むことができるのかー?

誰が見ても完ぺきな姉と比較されて育った、妹・若葉は、劣等感に苦しめられていた。

若葉は2度目の司法試験に臨むも不合格。パラリーガルとして姉の事務所に就職しイケメン上司、滝沢に恋心を抱き、必死で振り向かせようとするも撃沈、ついに姉妹喧嘩に発展してしまう。そんな時、姉の夫の浮気現場を目撃する。しかし姉から母の日記を受け取った若葉は、幼少期の秘密を知る…

毒姉、神崎桜の本音


母の日記を読んだのは、小学校2年生のとき。

本棚の奥に置いてあるのを見つけて、開いたときの衝撃といったら…呼吸が浅くなって、無意識のうちに体が震えだしたのだ。

どのページを見ても、“桜は我が侭ばかり” “若葉が可愛い” って書いてある。

悲しくて悔しくて、何日も眠れなくなって、両親の愛情を自分に向けるためにはどうしたらいいのかを必死に考えた。

“絶対に親に認めてもらおう、そのためには勉強しかない”って。

だから小学4年の夏休み、塾の模試で全国1位をとって、親から天才だって褒められたときの喜びは、今でも鮮明に覚えている。

けれど、よく考えればあれが地獄の始まりだったと思う。これまで妹に向けられていた両親の期待が、全て私にのしかかるようになった。

「絶対に東大に行け」
「東大以外は大学じゃない」
「そのためには東大進学数No.1の中学へ行け」

毎日毎日呪文のように言われ続けて、あの時の私は発狂寸前だった。

テストで99点だったら、容赦なく平手打ち。妹は90点までは殴られなかったから、どうして私ばっかり、っていつも悔しかった。

おまけに妹はピアノまで続けさせてもらっていて…私は塾に入ると同時に辞めさせられたのに。

でも、私は“お姉ちゃん”だから、そう自分に言い聞かせて、どうにか耐えて机に向かって。

第一志望の中学の合格発表日、掲示板で自分の番号を見つけたときは、有頂天になって父に電話した。

―やっと、両親に認めてもらえる!

でも、その直後、私は奈落の底に突き落とされてしまう。

”完全無欠”な姉の、想像を絶する悩みとは…?

姉のコンプレックス


「お父さんが希望する中学に受かったよ。これからは頑張って、東大の医学部目指すね!将来はお医者さんになりたいから」

弾む声でそう言った。医師になりたい-それは幼稚園のときから密かに抱いていた夢だった。

妹の喘息を診てくれていた女医さんが、きれいで優しくて格好良かったから、私もそうなりたいって。

けれど、それを伝えたときの父の怒りようといったら…

「何を言っている?お前は弁護士になるんだ。そのために塾に行かせたんだぞ!いいか、お父さんみたいな弁護士になるんだ!」

そう電話越しに怒鳴られ、私の夢は砕け散ってしまった。…その時、悟ったのだ。

-ああ、私は父の操り人形なんだ。私は意思なんて、持っちゃいけないんだって…


それからは自分の気持ちに無理やり蓋をした。けれど、中学に入ったらどう頑張っても全然成績が上がらない。

そんな時、同級生から声をかけられたのをきっかけに、男の子とおままごとのようなデートをすることで自分を保とうとしていた。

でもそんな生活もすぐに両親に咎められ、真剣に誰かと向き合う事もなかった。唯一付き合ったのは、妹の初恋の相手、五十嵐君だけ。

あれは妹には本当に申し訳なかったと思っている。けれどあの時は成績が伸び悩んでいて、両親の落胆した顔がプレッシャーになっていた時期だった。

それでも父の敷いたレールの上を踏み外さないよう、慎重に生きなくてはいけないという息苦しさに悩んでいたあの時。

偶然、五十嵐君も同じような状況だと知った。彼は弁護士を目指していたけれど、医師家系のため医学部以外は全て認めてもらえない。

そして、私たち似た者同士だね、と共感し、惹かれ合っていった。でもそれも、受験があったから2か月で終わってしまう。

東大に入っても状況は同じで、司法試験があったから、付き合った人はやっぱり1人で数か月。あとは全部、遊びのデートだけ。

だから、本当は社会人になるまでまともに恋をしていない。

結婚相手探しだって、苦労した。

私に群がる男はどういう訳か、結婚願望がない男ばかり。もちろん、滝沢もそのうちのひとり。

たくさん傷ついて、駆け引きを学んで…やっと今の夫にプロポーズされたと思ったら、結婚して2か月で、同じ会社のバックオフィスの女の子との浮気が発覚した。

しかも相手は、地方出身の25歳。料理と節約が趣味という、すべてにおいて私とは真逆のタイプの女。

怒りに身を任せて夫を責め立てることが出来れば、いっそ楽だったのかもしれない。「どうせ暇つぶしの火遊び」と、自分に言い聞かせ、二度とこんなことをしないよう夫に釘をさせばいいと思っていたのに。

探偵に撮らせた証拠写真を突きつけてやめるように諭したら、あろうことか、夫が家を出て行っていった。


いつも、妹が羨ましかった。あの子は私と違って、1人の男から長く深く愛されるタイプ。

高校と浪人時代に4年間、大学時代に3年間、そして佳樹と5年間。つまりこの12年間、ずっと彼がいる。

しかもどの恋も全部、妹が別れを告げて関係は終わっている。一方の私はどれも短命で、長くは続かない。それに、誰も私の心の奥に踏み込もうとしてはくれなかった。夫でさえ…。

前に、妹は私に「お姉ちゃんは何でも手に入れている」そう叫んでいた。

でも実際は、何も手に入らない。医者になりたいという夢も、男からの愛も。

そんな私が、たった一つ。たった一つだけ、人生で掴み取ったセオリーがある。

それを今から妹に…教えようと思う。

姉が妹に、どうしても伝えたいこととは?

一粒の涙


「ねえ、若葉。分かったでしょう…、誰にでも劣等感はあるのよ。むしろあって人は完全体になれる。問題はね、どう扱うかよ。私なら劣等感を、成長の糧にする」

「成長の糧?」

それは一体どういうことなのだろう。答えを求めて姉の顔を食い入るように見つめる。

「“神崎桜は、不倫された惨めな人”。きっとそれが世の中の大半の意見だと思うわ。

でも私は、惨めなんかじゃない。『不倫されても、前を向いて生きていく』そう思えるようにしてみせる。だって人生で起きるすべての出来事に、意味があると思うから。だから若葉も、悲劇のヒロインを気取るのはやめなさい」

-人生で起きるすべての出来事に、意味がある…?

姉の言葉に、思わずため息が漏れる。姉は強い、強いからそう言い切れるのだ。

「私はそんなに強くなれないよ。自信もないし…」

すると姉が、じっと私の目を覗き込んできた。姉の黒くて大きな瞳に、私が写り込んでいる。姉が何かを、伝えようとしている。

「自信っていうのはね、”初めからある”ものじゃないのよ。むしろね、“溜めていく”ものなのよ。少しずつ、少しずつ」

「…溜めていくもの?」

耳慣れない言葉だ。眉をひそめる私に、姉が、これまで以上に語気を強めてくる。その目が、心なしか潤んでいる。

「私は思うの。初めはみんな、空っぽのグラスを握りしめて生まれてくるって。必死に生きていく中で、汗を流して、壁にぶつかって、涙を流して…

その汗や涙が雫になって、一滴一滴、溜まっていくのよ。それが、自信。だから、もがいた人ほど、泣いた人ほど、グラスは満ちていくのよ」

言いながら姉の瞳に、一粒の涙が宿っている。絶対に涙をみせない姉が、泣くなんて。

「この世の中、努力しても成功する人は一握り、それは真実よ。巷に溢れてる謳い文句はみんなまやかし。でもね、成功はしなくても、成長はするわ

だって、自信で満ちていったグラスはどんどん輝くから。死ぬときに、そのグラスを眺めて、『いい人生だったなあ』って思えたら、それだけで最高じゃない。

だからね、あなたがいつか言った、“努力するやつはバカをみる”あんなことを言うのはもう、やめなさい。あなたは生まれたときから、価値のある人間なのよ」


私を蝕み続けた、自分を愛せないという感情。ひび割れて乾ききったその心に、姉の言葉が矢のように突き刺さって、もう抜けない。

気付いたら、嗚咽を漏らして泣いていた。

最後にこんなに泣いたのはいつだろう。大人になってからは、泣くことが恥ずかしいことだと思っていた。いつも人の目を気にして生きてきた。

でも違ったんだ。私の涙は、私のグラスがちゃんと受け止めてくれる。だからたくさん失敗して、たくさん泣いていいんだ。

気付くと、あたたかい涙が頬を滑り落ちる。

「…お姉ちゃん、ありがとう。」

やっぱりお姉ちゃんは、永遠に私のお姉ちゃんだよ…。


▶Next:5月23日 木曜更新予定
最終回:妹と姉、それぞれの人生の行方は…?

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