日本語の悪口「ブス・デブ・ババア…」は世界基準では許されないことにハッとした/鴻上尚史

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― 連載「ドン・キホーテのピアス」<文/鴻上尚史> ―

◆罵り言葉が少ない、とされる日本語の“悪口”について ネットをさまよっていたら、ロシア系関西人の小原ブラスさんの書いた「[外国人が見るニッポン]なぜ? 日本人の罵り言葉が『酷すぎる』と外国人に驚かれるワケ」(zakzak)という興味深い文章と出会いました。

「一般的に日本語には罵り言葉が少ないと言われています」とブラスさんは書きます。

「ロシア語の場合、『バカ』の一言をとっても10種類以上の言い回しがあります。またそれぞれ『バカ』の度合いが違います」

 へえっと思った人も多いでしょう。これは、日本語だけを使っているとピンと来ないかもしれませんが、(ロシア語はわかりませんが)英語と比べると本当に少ないのです。

 演劇のレッスンで、二人向き合い、悪口を言い合うというものがあります。感情を解放したり、言葉の力を経験したりと、いろんな目的があるのですが、英語でこのレッスンをやると、えんえんと続きます。

 ところが、日本語でこれをやろうとすると、「バカ」「アホ」「キ○○○」など数種で終わってしまうのです。もちろん、「アンポンタン」だの「すっとこどっこい!」「トンマ」「オカチメンコ」など、無理して言おうと思えば言えますが、こういう言葉を連発しているうちに、思わず笑ってしまうのです。

 このことに、僕は昔から不思議でした。

「日本人は優しいから、罵る言葉が少ないのかなあ」とノンキに考える人がいるかもしれませんが、事情は違うようです。

 ブラスさんは書きます。

「一般的に世界で許される罵り言葉は『行動や状況に対する罵り』となります。例えば性にだらしない女性を罵るような言葉(敢えてここでは単語を出しません)や、『馬鹿』などもその人の行動に対する罵りとなります」

「一方で、許されない罵りが『その人の普遍的な特徴に対する罵り』です。つまり人種、容姿、年齢、宗教等を罵るような言葉です」

◆日本人は“愛ある罵り”を使いこなしているのか? 日本語の悪口でポピュラーなのは、「ブス」「チビ」「デブ」「ガリ」「ハゲ」「ジジイ」「ババア」などです。

 これは「よくよく考えると、容姿や年齢等、その人がどうしようもない普遍的な特徴に触れた、世界基準では許されない罵り言葉」だとブラスさんは書きます。

 ちょっと、ハッとする指摘です。

 ロシア語には、「ブス」のような女性の容姿を気軽に罵る言葉はないし、英語にも「醜い女性」というような直訳的な言い方しかないだろうとブラスさんは書きます。

 だから、容姿や体型に関する日本人の罵り言葉を聞くと、外国人は「酷い」と感じてしまうのだと解説しています。

 原稿の後半では「日本人がこんなに気軽に女性の容姿を罵ることが出来るのも、日本に『空気を読む文化』があるからだと考えています」と書きます。

「空気を読めるからこそ、それを言ってはいけない相手、言ってはいけない場面で言葉を使い分けることが出来るのです」とし、「また、容姿に関して不必要に配慮をしすぎることで、距離の遠い関係となってしまうことを防ぐような使い方もされますよね。『愛のある罵り』を使いこなすことが出来るのは、世界中で日本人だけかもしれません」とまとめています。

 日本人としては、このまとめ方はどうも好意的過ぎているんじゃないかと感じます。

 僕達が、相手の行動や状況ではなく、なぜ、普遍的な特徴を罵るのか。そして、それが社会的に許されると思っているのか。

 じつに興味深い問題だと思います。

 もっとも、「ブス」という言葉もだんだんと肩身が狭くなっています。昔は、おおっぴらに「おい、ブス」と言っていた人達が、陰でこそこそと「ブスのくせに」ぐらいに引っ込んだ感じはします。

 この文章が面白かったので、ツイッターで紹介したら、知り合いの女性が「日本では、議論の際に批判の対象が『意見・考え方・行為』ではなくて、しばしば『相手の人格』に及んでしまうのと似てますね」と書き込みました。

 なるほどなあと思いました。

 日本語における悪口の問題は、考える意味のあることだと思います。

関連リンク

  • 2/7 15:52
  • 日刊SPA!

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この記事のみんなのコメント

8
  • 雪兎

    2/13 10:52

    海外だと【こう言う状況ならこう返す】みたいな悪口定型文がある気が……。もし他人の容姿を罵倒すると、訴訟大国アメリカは即訴えられてしまうし、イギリスもアメリカも民族間人種差別につながると大事件になるし…。中東だと昔から侮辱が殺人理由のトップだし…。日本が平和だからブスやバカだの簡単に言えるだけなんでは??外国人が珍しく思うのは、そんな国的理由では?

  • 紅茶飴

    2/13 9:45

    文脈で本来ひどいはずの形容なのに可愛い例だと刀剣乱舞の三日月宗近が自己紹介で「ようするにまあ、じじいさ。ははは」というのはボケかましてる感じで何か可愛い。「バカ」は救いようのないそれに使えば程度のひどい意味になるし、照れ隠しに呟く「バカ」だと、きゅんなニュアンスになるね😃

  • まる

    2/13 9:28

    これは外国人による捉え方だよね。他で文脈依存がどうのって記事があったけど…、たとえば ブスって言葉には容姿以外にも使われるよね。バカと言う言葉においては話の流れで無限の意味合いを持つよね、良い意味から最悪の意味まで。だからこそ不思議なんだろう外国人にとっては。

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