「色づく世界の明日から」篠原俊哉監督の密かな試み「『時間』と『人』の関係性にも触れられるのでは」

人々をほんの少しだけ幸せにできる小さな奇跡「魔法」が存在する世界。
長崎の街で「まほう屋」を営む魔法使いの一族に生まれた月白瞳美は、幼少期のある時から色覚を失い、灰色の世界で心を閉ざしたまま高校2年生になった。
そんな孫娘を優しく見守ってきた「大魔法使い」の月白琥珀は、祭りの夜に「今から高校2年生の私に会いに行きなさい」と告げると、瞳美を時間旅行の魔法で60年前へと送り出す。
訳も分からぬまま60年前(=2018年)の長崎にやって来た瞳美は、ひとつ年上の葵唯翔が描いていた絵に惹きつけられる。金色の魚が描かれたその絵にだけ、鮮やかな色と光が見えたのだ。
色と光はすぐに失われたが、南ヶ丘高校に編入し写真美術部に入った瞳美は、優しい部員や同じ年の祖母と共に新たな学校生活を始める。今まで避けてきた魔法も練習するようになり、唯翔との心の距離も少しずつ近づくが、次第に時間魔法に綻びが見えてきて……。

『凪のあすから』の篠原俊哉監督P.A.WORKSが5年ぶりでタッグを組んだオリジナルアニメ『色づく世界の明日から』がついに最終回。Amazon Prime Videoでの最速独占配信や、TBS、AT-Xなどに続いて、1月4日(金)の深夜にはMBSでも第13話(最終話)が放送された。

そこでエキレビ!では、制作作業もラストスパートの最中、篠原監督にインタビュー。最終回のネタバレ無しのこの前編では、P.A.WORKSの山本輝ラインプロデューサーと、プロデュースを担当する株式会社インフィニットの永谷敬之プロデューサーに同席してもらいながら、美しい色と光と青春の「御伽噺(おとぎばなし)」がどのように生まれたのかを語ってもらった。

モノクロの風景に、一瞬にして色が付く場面を描きたい


──『色づく世界の明日から』という作品の根幹となったのは、どのようなアイデアやイメージだったのでしょうか?

篠原 この企画の立案は、ラインプロデューサーの山本君で、「それまでモノクロに見えていた風景に、一瞬にして色が付いていく場面を描きたい」というものでした。この場合「色」は何を表しているのか、色が変わることにどんな意味が込められるのか、それを体現する主人公はどういうキャラクターなのか、などなど基本的なコンセプトを、山本君や永谷さん、プロデューサーの小倉(充俊)さんたちと、アイデアを持ち寄りながら考えていきました。一方で、恋愛を軸とした青春群像劇を描こうということも最初から決めていました。

──企画を練っていく中、特に重要で作品が生まれるための突破口となったアイデアがあれば教えて下さい。

篠原 大きなアイデアとしては三つ。ひとつは「色」を自己肯定感と結びつけたこと、それから主人公が過去へやってきて同じ年の祖母と同じ時を過ごすこと、星砂を使えば誰にでも魔法が使えること、この3点です。1クール物とはいえ、軸となる物語が無いと今の視聴者を惹きつけることは難しいので時間旅行を導入することにしました。時間旅行そのものは使い古されたアイデアですが、現実には不可能な設定を可能にするツールとしてまだまだ新たな可能性は失せてないと思います。僕は『トムは真夜中の庭で』(フィリパ・ピアス作)という時間を扱った児童文学が好きなんですが、この小説のように「時間」と「人」の関係性にも触れられるのではないかとも(密かに)考えていました。

──では、魔法があるという世界観は、過去へ行くという展開から生まれたのですね。

篠原 最初は時間航行技術が可能になった近未来からやってくるというSF的な設定や、事故や災害の中で時空が歪む超現実設定を模索していました。この場合、どちらも作品全体の手触りが硬質なものになるのは避けられません。結果として、我々の目指す柔らかな手触りの作品との相性を鑑み、魔法の存在する世界観で進めていくことになりました。とは言え魔法も使い古されたツールで、新規の体系を持ち込むのは簡単ではありません。いろいろと考えた挙句、魔法を行使する人が限定されるのではなく、星砂という触媒を媒介することにより、誰もが使うことのできるもの、というアイデアに辿り着きました。これにより世界観が、ヴィジュアル的にも一気に開けていったと思います。

──「まほう屋」で魔法使いが魔法を込めて作った「星砂」が販売されていて。それを使うと魔法の才能が無い人も魔法が使えるという設定ですね。

篠原 同時に魔法を使ってできるのは他愛の無いことだけということも決めました。逆に言うと、大きな力が無いことによって、この作品世界の中での存在を担保されている、そういう位置づけです。主人公が色を失っているので、星砂を売ってる店には対比としてたくさんのきれいな色の瓶が並んでるイメージがすぐに浮かびました。山本君が参考になりそうな写真をいろいろと集めてきてくれたりして、まほう屋のビジュアル的なイメージが少しずつ固まっていきました。

──具体的には、どのような画像だったのか教えて下さい。

篠原 日本画の顔料を扱ってる店だとか、アロマ、ハーブ、紅茶、珈琲の専門店、ガラス工芸の店等々。色にあふれた店の中に主人公がいるのだけれど、彼女には色が分からないというのは、ヴィジュアル的にすごく良い素材で、それだけで物語が成立しそうな感じがありました。

──そこに至るまでは、かなりの紆余曲折が?

篠原 3時間話しあって何も進まなかったこともありましたね(笑)。

山本 結局、1年くらいかかりましたよね。

永谷 プリプロ(絵コンテ制作までの作業)をやってる時間は、2クールだった『凪のあすから』よりも長かったかもしれません。

篠原 そうかもしれない。でも、そういう時間はやっぱり必要なんです。いろいろと叩くことによってこそ、最終的に出てきたものに強度を持たせることができるのかなと思っています。

月白家が良い家に住んでいるのは、お父さんの稼ぎのおかげ


──2018年の現実と変わらない世界をベースに魔法だけが+αのファンタジー要素として加わっているという絶妙なバランスの世界観に魅力を感じました。先ほども話に出た魔法に関する設定は、初期の段階で固まっていたのですか?

篠原 結構細かいところまで決めていましたが、本編中ではあまり触れられなくて、若干説明足らずだったかな思うところでもあるんです。例えば、魔法使いはキリスト教ともに日本に渡来しその血を残したとか、月白家は女系魔法使いの家系で旦那は皆、婿養子だとか。魔法を行使できる人間(魔法使い)は特別な力を持っているので、その力を特定の人やグループの利益のために利用してはいけないという不文律があるとか。「まほう屋」も全然儲かってないんです。月白家はけっこう良い家に住んでいますが、あれは(一般人の)お父さんの稼ぎが良いから(笑)。ちなみにお父さんの職業は一級建築士という設定です。それもどこかで示そうと思っていたのですが、結局機会がありませんでした。

──「まほう屋」は、星砂で人々を幸せにするための慈善事業のようなものなのですね。

篠原 ほとんど原価に近い価格で売っている設定です。しかも、その星砂で使える魔法も日常のサポート的なもの。それこそサプリメントのような感覚で、使えば少し良くなるけれど本質的なところまでを変えられるわけではない。作中でも言っていますが、本当に他愛のないことしかできない魔法なんです。だけどちょっと夢がある。そういうものを考えていました。具体的にどんな魔法があるかも結構話し合いました。作中では描けませんでしたが、まほう屋はホームページも運営していて星砂のネット通販も行っています。

──魔法がネット通販されているというのも面白いです。一般的な魔法がそこまで他愛のないものということは、時間転移の魔法が使える2078年の琥珀は本当に「大魔法使い」なのですね。

篠原 なにしろLevel77ですからね。時間魔法を扱える魔法使いは世界にも数える程しかいなくて、老琥珀もその中の一人という位置づけです。時間魔法は、過去の世界ですでに介入が現実となっている事例に対してしか適用できず、それ以外は試みてもできないという設定。本来であればこのあたりの説明も入れるべきだったのでしょうが、どうやっても説明のための説明になってしまうため割愛しました。

──世界観設定が固まっていく中、シリーズ構成の柿原優子さんは、どのぐらいのタイミングから参加されたのですか?

篠原 柿原さんには、(世界観の)設定がほぼ固まり、メインの7人の雛形が見えてきたところで入っていただいて。そこからのお話作りやキャラクターの膨らませ方に関しては、柿原さんメインで進めました。その段階ですでにフライさん原案のキャラクターデザインも上がっていましたから、その絵を元にイメージを膨らませたところも多かったと思います。(深澤)千草(川合)胡桃の関係性は柿原さんのアイデアによるもので、僕らは全然考えていなかったのですが、すごく良い味になりました。

──ストーリーに関しても、柿原さんが参加して膨らんだところは多かったのでしょうか?

篠原 もちろんたくさんあります。大づかみな流れは決めていましたが、細かいところは全然決まってなくて。学校生活の中で必要な感情や関係性を積み上げるためのシーン作りやセリフは、圧倒的に柿原さんの力が大きいです。

永谷 作品の世界の中で魔法がどういうポジションで扱われているのかについても、柿原さんのシナリオで決まったと僕は思っています。魔法によって起きているファンタジー的な状況と、それに対する(周りの人々の)現実味があるセリフ回しのギャップ感。それが結果的に、ちょっと変でもなく地味過ぎるわけでもない絶妙なバランスに繋がったのかなと。僕は、この作品のキャッチコピーとして「御伽話(おとぎばなし)」という言葉を使いたかったのですが、まさに、そういうお話になりました。

山本 おっしゃる通りですね。それに、まだあまりキャラクターが固まってなかった時に、柿原さんの書くキャラクターのやり取りを読んだら、キャラクターが本当に生き生きとしてきて。「この子たちは、こういう風に動くんだ」と、すごく具体的に決まっていったことが印象に残っています。

篠原 特に主役の二人、瞳美と唯翔は二人とも感情を表に出さない子だったので、物語がなかなか動かなかったんです。柿原さんはそういうところに突破口を作ってくれた。あとは、恋愛系の繊細なやりとりもすごく上手くて。毎回、「ここ、いいよね」と話していました。

瞳美が感情を取り戻していく変遷を齟齬のないように


──主人公の瞳美というキャラクターを描く時、特に大事にしてきたことを教えてください。

篠原 基本的には少しずつ感情を取り戻していく子なので、その変遷を齟齬のないようにコントロールしていくということは、全編を通して大事にしたところです。最初の方では表情が動かない。そこから少しずつ表情が出るようになっていく。2話で唯翔に「また魔法を見せて」と言われて微笑むシーンがあるのですが、そこまでの持って行き方はすごく気を使ったところです。また、4話で留学先から帰って来た琥珀の魔法で教室中が煤だらけになり、瞳美と(風野)あさぎが屋上で煤を払っているシーンがあって。そこで、あさぎが瞳美の魔法を褒めるんですが、瞳美は自己評価の低い子だから素直に受け入れられない。その時の嬉しいんだか困ってるんだかわからない表情などもすごく大事にしています。そのすごく屈折した思いは自分にもよく理解できる部分なので、リアルな感情として描いたつもりですが、スタッフには難しいと言われました(笑)。それから、瞳美って、最初の頃は基本的に面倒くさいキャラクターじゃないですか。

──たしかにそうですね(笑)。

篠原 でも、その面倒くささで(視聴者に)嫌われてはいけない。それについては、「ここまで言っちゃいけない」とか「こういうことをやると良くない」といった、山本君や小倉さんの意見がすごく反映されています。

──第1話で未来にいる頃の瞳美が、偶然会ったクラスメイトからお祭りに誘われて断るシーン。あんな無愛想な対応をされても、笑顔で「じゃあ、またね」と言ってくれるクラスメイトはすごくいい子だなと思いました(笑)。

篠原 クラスメイトのリアクションについても、(スタッフの中で)いろいろな意見があって。瞳美がいじめられているわけでは無いという空気感は必要だと思いました。

──クラスメイトは受け入れてくれようとしているのに、瞳美がそれを拒んでいる感じがすごく伝わってきました。

篠原 そうですね。いじめられているのだと、今回やろうとしていたこととは別の物語になってしまいます。瞳美の物語として見た時、世界はいつでも瞳美を受け入れる準備ができている。あくまでも、瞳美自身の心のありようの問題。それが今回の主眼でしたから。

──もう一人の主人公ともいえる唯翔についても、描く時に意識した点を教えて下さい。唯翔も、序盤は若干面倒くさいキャラですよね(笑)。

篠原 反応が素直じゃないし、瞳美同様、感情をあまり表に出さないので、何を考えているのか分かりにくい。自分にとって大事でないことは他人がどう思おうが普段はあまり気にしない子です。でも周りのこともよく見ていてちゃんと考えている。2話で瞳美に魔法を見せて欲しいと言って、その魔法が失敗するところを見た後、きちんと謝るところなどはキャラ性としてすごく大事かなと思います。

──根っこの部分の優しさというか、素直さが見えるシーンです。

篠原 細かい話になりますが、謝った後、少し話してから別れるじゃないですか。その別れ際、瞳美が唯翔に背を向け微笑みまた歩き出しますが、その後ろ姿を見てた唯翔は、わりとすぐにタブレットに戻るんですよ。あの時点ではまだ恋愛感情が成立してないからなんですが、必要以上に追いかけない唯翔の性格を、そういう一見見逃しそうなところでもおろそかにせず表現しようと心懸けています。
(丸本大輔)

後編に続く

【最終回放送情報】
TUT(チューリップテレビ)
1月10日(木)25:37〜

【配信情報】
Amazon Prime Videoにて、全話を日本・海外独占配信中

(C)色づく世界の明日から製作委員会

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