「万引き家族」絶妙すぎるタイトルが議論を呼ぶ、だが「デッドプール2」との不思議な相似も気になる

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やってもやらなくてもいい「万引き」


まず「万引き」だ。実はこの映画、万引き家族といいつつ、みんな万引きをあんまりしないのである。正確には、万引きをしないわけではない。映画が始まった瞬間に描かれるのは、リリー・フランキー演じる柴田治と一緒にスーパーに入ってきた子供の祥太が、連携してカップ麺や菓子を盗み出す場面だ。

しかし治にも、そして安藤サクラが演じる信代にも仕事がある。治は建築現場での日雇い仕事で、信代にはクリーニング工場でのパートでそれぞれ働いている。同居している亜紀は風俗店で、初枝は年金でと、主題となる柴田家の人々はそれぞれ仕事や収入を得ているのである。

だから多分、『万引き家族』というタイトルや予告編のイメージほどには、彼らの家計は万引きに依存していない。というか、いわゆる店舗での万引きは治と祥太、そしてふとしたきっかけで柴田家に拾われてきてしまったゆりだけしかしている描写がない。そのままでは収入を得られない子供が「家族」のために手を染める初めての仕事、それが『万引き家族』での万引きの位置付けだ。

なんとなく一家総出で万引きに精を出しているように見えるタイトルだが(少なくともおれは「家族全員で万引きするのか……?」と思っていた)、『万引き家族』での万引きは子供っぽさの残る行為であり、子供と一緒に万引きをする治の人間性を照射するものだ。少なくとも、治以外は誰も子供と一緒に万引きなんかしないのだから。やらなくてもギリギリ生きていける。でも、子供と治を結びつけている強いつながりのひとつが万引きだ。物を盗むことでしか子供と共同作業をすることができない、どうしようもなく身勝手でダメだけど、ダメだと断罪しきることもできない人間、それが治なのである。

いや〜ほんと、「家族」ってなんなんですかね?


もうひとつのポイントが、『万引き家族』の「家族」という部分である。映画を見始めた時は「なるほどリリー・フランキーが父親で、安藤サクラが母親、そんで祥太が子供で、樹木希林が婆ちゃんで、松岡茉優が色々あって一緒に住んでいる感じなのかな……?」と思って見ていたのだが、どうも細かい辻褄が合わない。だいたい、リリー・フランキーは54歳、安藤サクラは32歳である。役柄の年齢が役者の年齢と同じわけではないだろうし、54歳と32歳の夫婦がいたっておかしくはないだろうけど、しかし、こんな人たちが隣に引っ越してきたらどうだろうか。「なんか怪しいな……」と思わないだろうか。

この辻褄の合わなさは、映画の後半で解明されることになる。そこに至るまでの過程はかなりサスペンス的な面白さがある。というか、『万引き家族』はサスペンス映画としても充分見られるのだ。一見貧乏だけど平和な三世代同居の家族に見えつつ、部分的に感じられる違和感が上映時間とともに増幅され、謎が謎を呼ぶ。

その謎について回るのが、「家族」とはどういう状態の人間関係であるかという問題である。実は、これに近い問題意識を抱えた映画が現在もう一本公開されている。『デッドプール2』である。冒頭でデッドプール自身が「これは家族についての映画、ファミリームービーだ」と口にするように、「何をもってどのような人間関係を"家族"とするか」という部分に切り込んだ作品なのだ。

もちろん、基本的に不死身であり、また「自分なりに世の中を良くしよう、ヒーローであろう」という意識(方法は過激極まりないが)で動く自称ヒーローのデッドプールと、カツカツの生活を送る柴田家の人々や子供と一緒にレジャー感覚で万引きをする治の思考には大きな開きがある。しかし、天涯孤独で一緒に戦ってくれるヒーローすらいなかったはみ出し者のデッドプールと、社会からこぼれ落ちてしまいそうな柴田家の境遇には近いところもある。悪気がなく勝手に子供を助けようとするところも、治とデッドプールは似ていると思う。

『万引き家族』というタイトルは、ある意味でミスリードを誘うものである。しかし、映画を全編見てもう一度このタイトルに帰ってくると、なるほど確かにこれは"万引き家族"としか形容できない映画だと納得もする。また、多分何回か見れば、もっとしっくりくるのではないかという気がしている。議論を呼んだ点も含め(この手の映画が議論を呼ばないのはそれはそれで困ったことだと思う)、『万引き家族』はやはり絶妙なタイトルと言えるだろう。
(しげる)

【作品データ】
「万引き家族」公式サイト
監督 是枝裕和
出演 リリー・フランキー 安藤サクラ 松岡茉優 城桧吏 佐々木みゆ 樹木希林 ほか
6月8日より上映中

【あらすじ】
古びた住宅に住む5人家族、柴田家。日雇い仕事やパート、さらには万引きで暮らす彼らのうちの一人、中年男の治はある冬の日に道で少女ゆりを拾う。どうやら虐待されているらしいゆりを家に住まわせ、貧乏ながらほのぼのとした生活を送るが……

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