「3代目が会社を潰す」は本当だった?ボンボン育ちの夫への、元コンサル妻の不安が的中した日

ー女は、家庭に入って夫を影で支えるべきだ。

経営コンサルタントとして活躍していた美月のもとに、ある日突然義母から突きつけられた退職勧告。彼女は専業主婦となることを余儀なくされた。

内助の功。それは、古くから手本とされている、妻のあるべき姿。

しかし、美月は立ち上がる。

いまや、女性は表に立って夫を支える時代だと信じる彼女は、経営難に直面した嫁ぎ先をピンチから救うことができるのか?

義父のおかしい様子に気がついた美月は、嫁ぎ先の不穏な空気を察知するが…?


「歯科医過剰問題か…」

休日の朝。

美月が『ブーランジェリースドウ』の食パンをトースターにかけ、コーヒー豆を挽いていると、豊がソファでぼそっと呟いた。

「どうしたの?」

美月がコーヒーミルを回す手を止めて聞き返すと、豊は新聞をパラパラめくりながら続けた。

「今日の新聞記事に、歯科医過剰問題が大きく載っててね。今現在、全国にある歯科医院の数は、コンビニよりも多いんだよ。大変な時代になったよなあ」

豊の話を聞きながら、美月の頭の中に、先日の義父の言葉と経営難の文字がフラッシュバックする。

−医院にコンサル会社を雇おうと思う…。

突然の相談に違和感を覚えた美月は、目的や経緯を突っ込んで聞いてみたものの、義母に制止されたこともあって、あの日は結局何も話してもらえなかった。

しかし、義父の様子から、何かを隠していることは明らかだ。

−豊は、どう思っているんだろう…。

医院の経営について口出しするなと義母からはキツく言われているが、美月は、杞憂であって欲しいという願いとともに、恐る恐る豊に聞いてみることにした。

「医院はうまくいってるのよね…?」

すると、豊の口から思わぬ事実が飛び出した。

豊が口にした、衝撃の答えとは…!?

おぼっちゃま気質の夫への不安


「僕は知らない。経営に関わってないし。正直、医院の収支とかよく分からないよ」

想定外の回答に、美月は呆気にとられる。夫の豊は、副院長という立場でありながら、経営状態を何一つ理解していないらしい。

「そ、そう…。でも将来的には医院を継ぐわけだし、今のうちから関わっておいた方が良いんじゃない…」

美月は遠回しに忠告するが、豊は呑気な発言を繰り返している。

「まだ早いよ。今は歯科医としての実力をつけないと。それに、美月さえいてくれたら僕は大丈夫だよ」

「う、うん…」

言いたいことは山ほどあったが、ここで反論して、せっかくの穏やかな休日を険悪なムードにするのも気が引ける。

美月は自分を落ち着かせるように、コーヒーミルのハンドルを力強く回し、豆をガリガリと挽いた。


豊は、とにかく温厚な性格だ。彼が感情的になったり、声を荒げたりする姿を見たことがない。いつも情緒が安定していて、恋人時代から頼りになる存在である。

しかし美月は、たまに、彼の少々天然なお坊っちゃま気質に不安を覚える。医院の後継という彼の立場を考えると、なおさらだ。

何不自由なく育てられた豊は苦労知らずゆえ、少々見込みが甘いところがあり、一事が万事「なんとかなる」というスタンス。

そしてその雰囲気は、苦労知らず揃いの山内家全体に漂っている。



−本当に大丈夫かなぁ…。

ゴルフの打ちっ放しに出かけた豊を見送った美月は、ソファに腰掛けながら、歯科医過剰問題の新聞記事に目を通していた。

それでは飽き足らず、インターネットで歯科医過剰問題について調べ始めてみる。するとそこには、自己破産や夜逃げなど、歯科医を取り巻く厳しい現実が溢れていた。

心配性の美月は、ブルブルっと寒気を覚える。

一度考え始めるとネガティブな思考のループに陥るのは、美月の悪い癖。分かっているが、なかなか直るものではない。

必要以上に絶望的な気分になっていると、美月の携帯が鳴った。

「美月さん、来週の水曜日、季節の挨拶で医院に行く準備は大丈夫かしら?従業員さんへのお土産は?」

相変わらず、義母は美月が「もしもし」を言う前に用件をすっかり話し終えている。

「はい、『和光 アネックスティーサロン』のプチフールを予約済みです」

和光のプチフールは、小さなケーキの詰め合わせ。その美味しさと見た目の可愛らしさゆえ、ほとんどが予約で完売してしまう人気商品で、お土産にうってつけの一品だ。

今回は義母の合格ラインをクリアしたらしく「了解。それじゃまた」と言われただけで終わった。

ここで下手なものを買おうものなら、義母の長いお説教が始まる。

ホッと一安心した美月は、プーップーッという電話の音を遠くに聞きながら、ぼんやりと考える。

−本当に困っているなら、何か助けになりたいけれど…。またお義母さんに怒鳴られるがオチね…。

結局自分は、義母の言うとおりに次期院長夫人として振る舞い、影からそっと豊の活躍を支えるくらいしか出来ないのだろうかー。

そう諦めかけた美月に、千載一遇のチャンスが訪れた。

歯科医院の大ベテランが教えてくれた話とは…?

院内でも漂っていた不穏な空気


「美月さん、ゴホンゴホン。あのね、クッシュン。私、その…ゼーゼー」

医院に挨拶に向かう朝、義母から、いかにも辛そうなガラガラ声で電話があった。風邪をこじらせてしまったらしい。

「お義母さん、お大事になさってください」

「ありが…コンコン」

電話が切れてから1分も経たないうちに、美月にメッセージが届いた。

−美月さん。今度改めて2人で行くとして、今日の挨拶は1人で行ってくれるかしら?皆様にもよろしくお伝えして。

美月は、銀座に立ち寄ってプチフールを受け取り、赤坂の山内歯科医院まで向かった。


業務の邪魔にならぬよう、美月は患者のいない昼休みを狙って医院を訪れた。医院の昼休みは比較的長いため、少し顔を出すくらいなら許されるだろう。

美月が医院を尋ねると、昔から医院のお世話をしている大ベテランで、受付兼事務の女性が笑顔で迎えてくれた。

「こんにちは、馬場さん」

馬場は、美月が山内家に嫁いだ当初からとても親切にしてくれている。

「美月さん、お久しぶり。院長から聞きましたよ、奥様はお風邪を召されたって。さあさあ、中へどうぞ」

美月は、馬場はじめ、歯科衛生士や助手たちに一通り挨拶を終えると、用意していたお土産を差し出す。

そして「みなさんの休憩を邪魔して申し訳ありません」と足早に立ち去ろうとしたその時、馬場に呼び止められた。

「美月さん…!お昼でも一緒にいかがですか?」

「あっ、はい!是非!」

美月が快諾すると、馬場は小さな声で「ちょっと相談もあって」と付け加えた。

−もしかして…。

美月の心臓がドクンと嫌な音を立てる。20年以上、医院の面倒をみてきた彼女なら、秘密を知っていてもおかしくない。

馬場は一体何を語るのだろう。美月は少し緊張した面持ちで、昼食の店に向かった。



『赤坂 鮨兆』のランチ名物、おまぜを待ちながらお茶をすする。

「美月さん、すっかり良いお嫁さんになって。副院長が、べた褒めしてるわよ」

「いえ、そんな…。まだまだ未熟者ですので」

美月が恥ずかしそうにすると、馬場は「色々大変そうだけど、美月さんなら大丈夫よ」と笑った。

−色々大変そう…!?

その言葉に、美月はぴくりと反応する。彼女は、やはり、のっぴきならない事情を知っているのだろうか。

そんなことを考えていると、馬場は先ほどまでの朗らかな様子とは打って変わり、急に真剣な眼差しを美月に向けた。

「相談したかったのは、医院のことなの。最近、院長の様子が妙なのよ…」

馬場によると、最近、医院に銀行や、聞き慣れないカタカナ名の会社から頻繁に電話がかかってくるらしい。

さらに先日、応接室から、医院の大々的な内装工事をして、室内に噴水を作ってヴィーナス像なんかも置き、雰囲気をガラリと変えたいなどと話しているのが聞こえたという。

ビル自体は古いものの定期的にメンテナンスをしているし、清潔感のある院内は患者からも評判が良い。

それをわざわざ、しかも意味不明なヴィーナス像とは、どんな風の吹き回しだろうと馬場も疑問に思ったそうだ。

「絶対、何かあるわよ…」

二人は顔を見合わせ、大きく頷いた。


▶︎Next:4月23日月曜配信予定
ついに秘密が明らかになり始めた山内歯科医院。しかし、美月に災難が降りかかる…!

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  • 4/16 5:05
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この記事のみんなのコメント

9
  • 脱走兵

    4/17 0:05

    俺の知る限りでは、部長として向かえられた社長の息子は現場を手伝えばミスばかりするどころか社員のせいにする、自分の好みの女の子を採用してはセクハラをして、ソデにされたら今度はネチったり怒鳴ったりパワハラ三昧、上に逆らわない人間だけを出世させてお山の大将を気取る。そんなバカボンが二代目に就任して半年もたたずに会社の中核とも言える人が使い潰され辞めました。三代目どころか二代目でウチの会社ピンチやねんな。

  • 剣飛竜

    4/16 11:15

    俺の知る限りでは、社長の息子で無能な人間は一人も見たことないなんな、先代と比較するから無能に見られるだけで、経営手腕はさておき、普通の仕事をする能力やセンスは一般のその辺の人間と比べたら、有能やねんな。それぐらい一般会社員をやるのと会社経営をやるのとでは次元が違うねんな。

  • トリトン

    4/16 10:07

    自分の時は弟が潰したな元々専務の時に何も専務と言われていたが一年目で潰してくれたよ手広くやらなければとか新型を作って買い換えてもらわないとか手でやれるのを機械でやらせるとか、馬鹿が頭になると駄目な例ですね。30年も続いたのに一年でとは社長の息子はまだ良かったけど専務の息子は典型的な何もできないのに威張るだけで参加するとじやまなだけの者、でしたね

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