女よりタチの悪い、男のマウンティング闘争。“年収の高さと男の価値”は比例するのか?

都内でも住みたい街の上位に、常にランクインする恵比寿。

仲間と肩肘張らず楽しめるお店がたくさんあり、便利で、何より賑やかな街である。

ベンチャー系IT企業に勤めるサトシ(28)も、恵比寿に魅了された男の一人。

顔ヨシ・運動神経ヨシ・性格ヨシで、学生時代から人気者だったサトシは、その社交性から遊ぶ仲間には事欠かない、通称・“エビダン”。

ある日参加した食事会で元グラドルの杏奈と出会い、心揺さぶれるサトシ。しかし、杏奈は学生時代に冴えなかった同級生で、現在外銀勤めの龍太に心奪われていたが、実は龍太はコンプレックスの塊だった。


外の寒さとは対照的に、暖かい温もりで溢れる『珈琲トラム』の店内で、煙立つ珈琲と共にほっと一息つく。

週末はカフェに行くのが僕の趣味で、忙しい日々の中での、大切な癒しの時間でもあった。

—今週も、仕事頑張ったなぁ……。

そんなことを思いながら携帯を見ていると、一通のLINEが入った。

—来週金曜日ヒマ?もしよければ、飲まない?

思わず、僕は携帯を二度見する。そのLINEの送り主が、龍太だったからだ。前回再会した時にLINEのIDを交換していた。

突然の龍太からの誘いに何と返信をするべきか、一瞬迷った。

“誘われたら断らない”が僕のモットーだが、龍太は、僕の好きな杏奈が想いを寄せる相手だ。複雑な思いを抱えながらも、ライトな感じで返信を打つ。


—空いてるよ!久々に飲もうか。


龍太が指定してきたのは、恵比寿ガーデンプレイスにある『ロウリーズ ザ プライムリブ トウキョウ』だった。

龍太がサトシを呼び出した魂胆とは?男の緻密なマウンティング

結局、男は経済力なのか?


美しい照明が特徴的な、シックでセンス溢れる店内に入ると、龍太は既にバーエリアでアペリティフを飲んでいた。

「よ、久しぶり。この前、ちゃんと話せなかったから」

そう言って僕の顔を見ると、龍太は慣れた仕草で店員さんを呼ぶ。テーブル席へ案内される龍太の背中を、僕は慌てて追いかけた。

「ひ、ひさしぶり。突然、どうした?こんな改まったところで。」

席に着いて、ワインリストを見ながら僕は言った。普段僕が行く男同士の飲みはもう少しカジュアルな店が多いため、ぎこちなさを隠せない。

心が波立つのを感じながら、店内と龍太を交互に見た。

恐らくオーダーメイドであろう、体型に見事にマッチした細身のスーツに、僕がいま一番欲しいと思っているジョンロブの靴。そしてシャツの袖口からチラチラと見える時計はオーデマ ピゲのロイヤル オークだった。


もちろんその姿は、学生時代のイモっぽさを微塵も感じさせない。


「改まって?ここ、会社の接待でよく使わせてもらうんだけど、プライベードでも肉が食べたい時に来るんだよね。サトシは、今仕事何やってるんだっけ?会社近いなら、来たことあるでしょ」


僕の意見も聞かずさっさとメニューを決める龍太を見ていると、不思議な気分になった。今日、僕を呼び出した真意を探ろうとするものの、全くその気持ちが読めない。

「……で、最近サトシはどうなの?」

少し上から目線な口調の龍太に、戸惑いを隠せない。

「まぁ、相変わらず楽しくやっているよ。IT系の会社で働いてるんだけど、仕事もそれなりに楽しいし」

そう。僕は、楽しく人生を生きている。

勢いのあるIT企業に勤め、学生時代からの仲間に加えて会社の人たちとも仲が良い。社の雰囲気も良いし、仕事だって楽しんでやっている。

何より、社会人になってからも良い人間関係を築けていることが、僕の人生において大切な財産だ。

そんなことを話していると、龍太はワイングラスを回しながら意味深な笑顔を向けてきた。

「それなり……ねぇ」

—人に話を振っておいて、何なんだコイツは!?

怒りがふつふつと込み上げてくるものの、ここで反論したら男が廃る。とりあえず話題を変えようと、一番気になっていたことを聞いてみることにした。

「龍太はいま、彼女とかいるの?……杏奈とは付き合ってんの?」

杏奈の前で“杏奈”なんて呼び捨てにしたことはないが、ちょっと親しさをアピールするために今日くらいは良いだろう。

すると龍太はグラスを回すのを止め、また可笑しそうにふっと笑った。

「杏奈…?あぁ、別に付き合ってはないんだよ。ご飯とかはたまに行くけどさ」

それは明らかに、“真剣に付き合ってはいないけど、適当に遊んでいる”ということだ。


―社会に出てからの環境は、人間性をも変えてしまうのだろうか?


以前の龍太はたしかにイモっぽかったが、こんな冷たい男ではなかった。そして高慢でも自惚れてもいなかった。

僕はただ黙ってじっくりと、プライムリブを口に運んだ。

そんな龍太に惚れている杏奈。その真意は・・?

悶々とした気持ちを抱えたまま、龍太とは別れ、僕はアメリカ橋を渡りながら杏奈にLINEを送る。

—杏奈ちゃん、来週は忙しい?ご飯行かない?

するとすぐに既読になり、杏奈は快諾してくれた。



「土曜にごめんね!忙しくなかった?」

『ロングレイン』に登場した杏奈は、いつもより一層輝いて見える。


「どうしたんですか?そんなニコニコして。 」

無邪気に笑う杏奈に、僕はこの間龍太と食事したことを言うべきか悩んでいた。本来ならば、「あんな男やめておきなよ」と言いたい。

しかし杏奈を目前にすると、途端に言う気が失せた。こんな告げ口をしたところで、彼女を悲しませるだけだろう。

「杏奈ちゃんに会いたくなったから、連絡しちゃったよ。週末は忙しいかなぁと思ってたんだけど、予定が空いていてよかった!」

しかし僕の発言を聞いた途端に、それまで笑顔だった杏奈の表情が一瞬で曇る。

マズイ、これは何か地雷を踏んでしまったのだろうか?

「あ、ごめん。どうかした……?」

僕がそう聞くと、杏奈は気まずそうに言った。

「あ……。ごめんなさい。ここ最近、週末は予定を空けるようにしていて……」

「それって、もしかして…。龍太のために……?」

恐る恐る聞くと、杏奈は悲しそうな顔でコクリと頷いた。

「連絡は来るんですけど、予定が決まるのもギリギリだから、スケジュールが立てづらくって……」

ここまで言うと、ハッとした顔で杏奈が僕を見つめた。

「ごめんなさい!私、またサトシさんに愚痴っちゃった……。こんな話つまらないですよね。話題を変えましょう」


—龍太の、何がそんなにいいんだ…?稼いでるから……??


そんな言葉が喉元まで出かかったが、辛うじて抑え込む。

「ごめん、突っ込んで聞いちゃうけど……。杏奈ちゃんはそれで辛くないの?」

「辛くないって言ったらウソになるけど。でもいつも、龍ちゃんは“杏奈の好きなようにしていいよ”って言ってくれるんです。お店選びとか、デートする場所とか。そんな優しいところもあるから……。付き合ってるわけじゃないんですけどね」

そう言って俯く杏奈だが、その話から、龍太の優しさなんて微塵も感じられなかった。

ただ経済力をちらつかせて、自分は責任逃れしているだけではないのだろうか。

モヤモヤした気持ちをぬぐいきれぬまま、いつの間にかブランチを食べ終わっていた。

もう少し一緒にいたい気持ちが募り、後ろ髪を引かれる気分で会計を持って席を立とうとした途端、杏奈が背後から慌てて財布を持って駆け寄ってきた。

「サトシさん、私も払いますよ!」
「いいよ、ここは僕が払うから」


「大丈夫ですか?ありがとうございます。」


—大丈夫ですか……?

杏奈の一言に、僕は思わず立ち尽くす。龍太に比べるとたしかに、僕の経済力はたががしれている。しかし、そんなに頼りなく見えたのだろうか?


虚しさと悔しさが、とめどなく襲ってきた。


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28歳、男の限界値を感じるときとは?

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